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「彼岸より聞こえくる」第11話

浄化の章


 
 今回はスタジオ集合が十四時だった。
一昨日より1時間早い。
 
 
 都築瞬に対する私達の作戦はこうだ。
あの男は、私とミホが繋がっていることを知らない。
 全くの推測だが、あの男はこのオーディション番組から、今でも自分の餌食を選んでいる可能性がある。
手口を変えていなければ、恐らくスカウトされるはずだ。
 なぜなら、都築のさじ加減一つで合否が決定する番組でお気に入りのMaryaを落として、私を参加させたということは、、少なくとも都築は私に興味があるはずなのだ。

なので、まずは、この機会を利用し、

・完全に騙されたふりをする。
・契約書(証拠になりそうなもの)を手に入れる。
・会話はすべて録音する。
・ひとつでも多く情報を集める。
 念のため、山田兄弟が近くに待機し、私の危険を察知したら(山田弟の霊感でわかるらしい)警察に連絡してくれる手はずになってる。
雪ちゃんとたっくんには、現場百篇で、関係者に聞き込みに行ってもらってる。
 絶対にうまくいくとは言えないし、怖くないと言ったら噓になる。
だけど、ここまで来たら…やるしかない!
 
 あーちゃん……!
私を守ってね…。
 
 先日と同じスタジオ。一見華やかなステージと、対照的な簡素な観客席は前回と変わりなかった。その簡素なパイプ椅子から、明らかに平成のプロデューサーといった出で立ちの、40代後半くらいの男が立ち上がり、私に近づいてきた。

私の中で、ミホがどんどん小さくなってガタガタと震え始めた。

「君が如月君か。」
「あ、はい。」
男は、
「ふぅん。」
と言った後、おもむろに私の顎をつかみ、グイっと自分の方に引き上げ、険しい顔で私の顔を眺めまわした。

「顔はまあまあだな。身長もそこそこ、足が売れそうだ。」
と言ってから、ゆっくりとシャツの胸ポケットからGUCCIの名刺入れを取り出し、一枚の名刺を差し出してきた。

 やはりこの男が都築瞬だ。しかし…想像以上に気持ちの悪い男だ。
 見た目は、それなりだが、表情、しぐさ、言動、全てが、私には不快だ。

「アイドルになりたいか?」



 私たちはスタジオ内のパイプ椅子に座り会話を続けている。
都築は私を舐めるように見まわし、言った。
「何故アイドルになりたい?」
「私は…」

アイドルなんて興味ないから、なんでって言われても…と思っていたら、ミホの思考が私に浸み込んできたので、そのまま言葉にした。
「子供のころからアイドルの真似をするのが好きでした。それをすると、お母さんが笑ってくれて、かわいいってほめてくれました。
お母さんを喜ばせたいので、アイドルになりたいと思いました。」

子供時代のミホの映像が見えて、私は温かい気持ちになった。

「はっ、お母さんか!…動機としては二流だな。」

 都築は椅子から落ちるのではないかと思うくらいオーバーにのけぞって笑った。次に体制を立て直してから
「俺が一流にしてやる、と、言ったらどうする?」
と、言ってきた。

 都築は続けた。
「おまえが入ろうとしてる芸能界というところは、おまえが思ってるほど簡単じゃない。金もコネも欲望も、恐ろしいくらいに渦巻いている。生き馬の目を抜くような世界にそんなに簡単に誰でも入れるのか、よく想像してみるといい。」

 キモいだけかと思っていたが、芸能界の実情を話す時は、言葉の端々に自信と貫禄があふれている。だから、芸能界に憧れのある人間は、信じてみたくなるのかもしれない。
 
「おまえは一流になりたくないか?」

その糸の、ほんの少しの振動で一瞬にして獲物に食らいつくジョロウグモのように

男は私を見ている―――。

#創作大賞2024 #ホラー小説部門

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