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「クレイジージャーニー」を教材化①
○クレイジージャーニー 裏社会ジャーナリスト
丸山ゴンザレス ~エルサルバトル~
クレイジージャーニーを観たことはありますか?クレイジー=風変りな、ジャーニー=旅行者という意味でしょうか。私たちの“普通の”日常では俄かに信じがたい経験をしている人たちを取材人が追い、視聴者に届けてくれています。ただ、観るだけで自分自身の人生には無い価値観と出会い、深く心の奥底に刻まれる1時間になることが多い番組です。
先週の放送では、危険な無法地帯を取材している丸山ゴンザレス氏が中米エルサルバトルを取材していて色々と感じたことがあるので記事にしてみました。
○エルサルバトルの概要
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エルサルバトルは(地理:南北アメリカ大陸)のほぼ中間に位置している小さな国家です。この番組の取材が可能になったのも、この国の治安が近年劇的に改善したからである。この国には、かつてMS13などの巨悪なギャング(無法者集団)が縄張りを張り、非合法な活動(経済活動する上でのみかじめ料、殺し、臓器売買、薬物売買、身代金など)をし、ギャング同士の抗争も多く、殺人発生率が世界で一位でもあった。(2015年、10万人当たり100件、2023年、10万人当たり5件以下)この国が劇的に治安が改善した理由は、2019年より、(公民:民主主義)のプロセスで大統領に選ばれたブケレが、(公民:三権分立)を崩壊させ、独裁的な政治手法で治安維持にあたったためである。
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麻薬のコカインから見る中南米
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コカインは日本や世界で、(保健:違法薬物)に指定されている。コカの葉っぱから精製したコカインは神経を興奮させ、疲労を取り除き、高揚感をもたらすと言われている。(効き目は短時間で切れ、強烈な倦怠感と中毒に陥る)
コカの葉は、赤道近くの熱帯雨林気候で生育する。下図のように赤道にあたる地域は一年間を通して、太陽のエネルギーを強く受ける地域であるため、太陽光によって河川・海が温められ、上昇気流を発生させ、水が気体となり、雲を形成させる。その雲が、地上から離れた上空で冷やされ、液体に変わり、雨を降らせる。【理科:状態変化、上昇気流】このようなメカニズムで降水量が多いのが熱帯の特徴である。熱帯は、太陽の光を獲得するため、植物が競争し、多層の樹木が生育する。密林状態の国土がコカの葉の密造にも悪利用されている一面もある。
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新大陸と言われた中南米では、ヨーロッパ占領前は(歴史:マヤやアステカ)が(歴史:文明)を築いていた。精神を高揚させるコカの葉を利用し、神秘的な儀式に利用していたと見られている。
15世紀に入ると、大西洋西岸に位置するスペインやポルトガルがインドの香辛料を海路で直接仕入れるために、航海をスタートさせた。【歴史:大航海時代】スペインの支援を受けた(歴史:コロンブス)は、(地理:大西洋)を横断し、インドを発見したと思っていたが、そこは後に新大陸であることが分かった。ヨーロッパで高く取引された砂糖を大量に作らせるためにサトウキビ(地理:プランテーション)を開発していった。後に(歴史:奴隷)としてアフリカ西岸から奴隷を輸入することになるが、先住民や奴隷を長く働かせるためにコカの葉が利用されたといわれている。
このように南米の悲惨な歴史はコカの葉の利用と共にあったともいえる。
現在では、コロンビアの密林地帯で麻薬組織による非合法な栽培か、プランテーションの名残の大農場制で豊かな農場から虐げられ、極貧な生活をしている農家が栽培している実態がある。密林地域でコカインに精製され、エクアドルの港(バナナのコンテナ船など)でエルサルバトルなどの経由地を通り、経済大国であるアメリカへ密輸されている。
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世界一クールな独裁者
これは、エルサルバトルの現職大統領がXに投稿した内容である。民主主義のプロセスで大統領になったブケレは、独裁化の道を歩んでいる。エルサルバトルの国会は、(公民:一院制)で、84名の議員で構成される。2021年の国会議員選挙でブケレ氏の政党が3分の2を獲得すると、独裁化の傾向を加速させていった。日本の(公民:最高裁判所)にあたる最高裁判所裁判官の判事5名を国会の議決で解任させ、ブケレ氏に近い判事を任命した。最高裁判所は(公民:違憲立法審査権)を持っているが、最高裁の判事は、憲法が制限している大統領の再選を解釈により変更し、ブケレ氏の再選の道を開いた。ブケレ氏は手に入れた三権(独裁的権力)によって、国家非常事態宣言(まるで韓国と同じ!)を発動し、ギャング一斉摘発に乗り出した。本来であれば、(公民:人権)を守るために、拘束は何段階もの手続きを経て、実施されるが、ギャングの入れ墨を入れているか、第三者の通報などの理由があれば、逮捕、監禁できるようにした。その超法規的措置により、数多くのギャングが捕まり、エルサルバトルの治安は劇的に改善したのである。このようなことから国民からの支持率は8割を超え、カリスマ的指導者になっている。
しかし、本来の手続きを経ない拘束では、無実の罪で収監された人も数多くいる。しかも、エルサルバトルではギャングは一生刑務所から出れないことになっている。
2024年2月の大統領選では、憲法解釈を変えたブケレが圧倒的な人気で再選を果たした。果たして、(公民:法の支配から人の支配)に変わった国はどうなっていくのか。
民主主義も独裁もすべて完璧な制度ではない。民主主義のままでは、エルサルバトルの治安は未来永劫回復することはなかったであろう。しかし、独裁化により、事実上人生を奪われた人がいる。
今回のクレイジージャーニーは価値観が何度も覆される、経験をし、未だに“正しさ”の正解は出ていない。しかし、正しさを決めない姿勢こそが大切であることを学ばされた気がする。