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未来の森を守るAI技術とカーボンクレジットの可能性
今朝の日経新聞に、住友林業の興味深い取り組みが紹介されていました。グローバルにおいて、日本企業がこのような貢献をもっと増やしてもらいたいと思いました。
1.住友林業のAI活用による森林火災抑制プロジェクト
気候変動の影響がますます深刻化する中、住友林業はインドネシアの熱帯泥炭地における革新的な取り組みを開始したとの記事がありました。熱帯泥炭地とははじめて耳にしたのですが、次のような地層のことのようです。
住友林業はインドネシアの熱帯泥炭地を林業が可能な土地に再生する事業を始めた。人工知能(AI)が地下水位を予測し、治水設備を制御して土地が乾燥しないようにする。熱帯泥炭地は荒廃すると森林火災が起きやすい。火災を抑制して二酸化炭素(CO2)の放出を減らす。将来的には炭素クレジット(排出枠)を生み出し、販売を目指す。
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熱帯泥炭地は枯れた植物が堆積した地層で、大量の水分と炭素を含んでいる。農林業を営むには排水路などを整備する必要があるが、治水管理をしなければ地下水位が下がり、土地は乾燥して火災が起きやすくなる。火災が発生すると地中の炭素が大量にCO2として放出される。
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熱帯泥炭地は世界に8200万ヘクタール以上あるとされる。土壌に含まれる炭素量はCO2換算で少なくとも3263億トンあるとみられ、21年の世界のCO2排出量の約10倍に相当する。住友林業はインドネシアの事業で収益性を確認できれば、他地域にも事業を広げる。
住友林業は人工衛星などのデータをもとに人工知能(AI)で地下水位を予測する技術を持っているようで、AIを活用して地下水位を予測し、地下水位を地上から深さ20~40センチメートルに保ち、乾燥を防ぐことで森林火災を未然に防ぎ、二酸化炭素(CO2)の排出を抑制するとのこと。
この取り組みでは、AIが治水設備を制御し、土地の乾燥を防ぐことで火災リスクを減らします。さらに、CO2排出を削減することで、将来的にはカーボンクレジット(排出枠)を生み出し、持続可能なビジネスモデルを実現することを目指しているようです。
2.カーボンクレジットとは?
カーボンクレジットは、温室効果ガス(主に二酸化炭素)の排出削減や吸収を行った企業や団体が、その削減量を他の企業や国に「売る」ことができる仕組みです。これにより、企業は直接排出削減が難しい場合でも、カーボンクレジットを購入することで、自らの排出量をオフセット(相殺)することが可能になります。カーボンクレジットは、気候変動対策において、企業が排出量の責任を果たしつつ経済活動を続けるための重要な手段とされています。
カーボンクレジットには次の2種類があります。
排出削減クレジット:再生可能エネルギーの導入や、省エネ対策、森林保全などを通じてCO2の排出量を減らした企業が得られるクレジット。たとえば、太陽光発電や風力発電など、クリーンエネルギーの導入が主な手段。
排出吸収クレジット:森林を植樹したり、土壌の炭素吸収を促進するなど、CO2を自然に吸収するプロジェクトによって得られるクレジット。植林活動や湿地再生がこのクレジットの典型的な例。
3.日本におけるカーボンクレジットの現状
日本は、2030年までに温室効果ガスの排出量を46%削減するという目標を掲げています。その達成に向けてカーボンクレジットは重要な役割を果たしています。日本政府は、国際的な排出量取引制度である二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism; JCM)を推進し、他国と連携して温室効果ガスの排出を抑制する取り組みを行っています。JCMでは、日本が海外で行った排出削減プロジェクトのクレジットを共有し、双方に利益をもたらすシステムです。JCMの詳細は、経済産業省のページでも紹介されています。
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/jcm/index.html
カーボンクレジットは、特に再生可能エネルギーや森林保全の分野で、企業が環境に対してどのように責任を果たすかを示す指標となります。また、企業が単独で排出削減を行うのが難しい場合に、他の企業や国の取り組みを支援する形で削減に貢献できる点も重要です。
一方で、カーボンクレジットには批判もあります。特に、企業がクレジットを購入することで、自社の排出削減努力を怠る「温室効果ガスの外注化」への懸念があります。そのため、単にクレジットの購入に頼るのではなく、企業自身が排出削減に取り組む必要性も指摘されています。住友林業のホームページを見ると、『生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)による買取期間が満了する住宅用太陽光発電の余剰電力買取と電力供給の代理販売サービスを行う「スミリンでんき」のサービスを2019年11月から開始しました。』とありますので、国の制度のみに頼らない良い取り組みを行っているんだなと思いました。
4.ハウスメーカーにおける気候変動への取り組み
住友林業の取り組みは、今回取り上げた記事のような内容をはじめ、持続可能な未来を見据えた活動をしているんだと思いました。たまたま新聞で見かけて調べてみたのですが、この他にもさまざまなアプローチで環境に配慮するハウスメーカーもあると思いますので、目に止まったら、紹介できればと思います。
また一方で、駐車場の開発やアスファルトで土地を覆い尽くすといった、環境への悪影響を考慮せず短期的な利益を追求する企業もあるということは、最近の散歩をしながら感じることです。ハウスメーカーも大手だと、色々な事業している中で絶対に気候変動対策としては負としてか思えないことをやっている企業もいます。
私は住友林業の関係者ではありませんが、このような企業の持続可能な取り組みが、気候変動という課題に対してどのような影響を与えているかを知って、より真摯に取り組む企業を選択できるようになっていくことが、国民が気候変動対策に取り組むことに一環になるのではないでしょうか。
こうした情報を元に、少しでも多くの人が持続可能な未来に向けた選択をする手助けになればと思います。