春夏秋冬是好日#4
~教員生活Part2~
引っ越し当日の夜、新任の教員たちが必ず行う登竜門があった。
私も例外ではない。
引っ越ししたばかりの住宅に、◯◯旅館と書かれたバンが止まった。
玄関を出ると、いわゆるはっぴを着た“番頭さん”みたいの人が、「赴任おめでとございます。」
「はぁ…あ、ありがとうございます」
「顔合わせの親睦会があります。是非ともいらして下さい。」
“……あやしい?”
“……行った方がいい?”
少し恐怖を感じながら、言われるままに車に乗った。
着いたのは15分ほど走ったある旅館だった。
玄関には女将さんらしき人が待っていて、座敷に案内してくれた。
“怖い!怖いが行くしかない!”
こんなところで、変なことはないはず😣
覚悟を決めて、座敷の中に!案内してくれた女将さんは、緊張感半端ない私を一人置いて座敷の襖を“ピシャッ”と丁寧に閉めた。
“えっと…私はどうした ら?”
そこにいた人たちは、いわゆる村の長老(おさ)みたいだった。
襖のすぐ前に正座でいたら、真ん中ににた一番の村の長老らしき人が、“こっちへ…”と声もなく、手招きされた。
怖い… 怖い… 怖いよー!と、心で叫びながら
「し、し、失礼します」と、とりあえずふるえる声であいさつをした。
改めて163cm70kgの体格はしていたが、20歳そこそこの女である。
人生で初めての経験。
正直、「女将さ~ん」と泣きそうになった。
あいさつをして、手招きをする長老の近くに正座した。すると、「名前は?」と聞かれた。
言われた通り「◯◯◯です」と自己紹介をした。
すると、長老たちは優しい笑顔で「よく来たね。」「頑張りなさいよ」と、言葉をかけてくれた。
はい、思わず泣いてしまいました。
怖さと安堵感が入り交じった不思議な感覚だった。
そこに女将さんがお膳を用意してくれた。
何とか長老さんたちと話ながら食べていたけど、ほとんど味は覚えていない。
ここでは、小学校も中学校も1校ずつしかない。今通っている生徒の親も、またその親も代々にわたって同じ学校に通っている。だから学校は街の中心で、そこで働く教員たちは家族のような感覚だった。
長老さんたちへのあいさつと、顔合わせの食事会は緊張したまま終わった。
もちろんお酒の強要もなければ、お酒をつげ!という強要も一切なかった。
私が勝手に“怖い”と思っていただけだった。
長老さんたちは、学校行事のときは惜しみなく協力してくれる。
新鮮なお魚とかも大量に差し入れしてくれた。
こういう狭い街では、みんな顔見知りで家族のように暮らしている。
都会よりは、遥かに学校と職員と地域のみんなの距離はグッと近いのだ。
それがまた良くもあり、プライベートはほとんどないに近いから、煩わしく思うこともあった。
こうしていくつかの試練を乗り越えて、教師としての日々が始まることになった。