episode7 我、異世界の畑を耕す②《異世界で、我、畑を耕す☆》
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目が覚めると、ミツハから借りたベッドで寝ていた。ついに我の部屋が支給されたのだ。ら二階の1フロアの小さな部屋――ベッドと机、本棚しかない。本棚には難しい本がずらりと並んでは埃が被っている。長い間手つかずの本なんだろうか。
「すぅーすぅー」
すると、隣の椅子でミツハが寝息を立てて寝ていた。彼女の部屋は一階であり同室ではない、何故椅子で寝ているのか不思議だ。起こさないように我はそっと上半身を起こす。
だがしかし、エルフという種族は物音には敏感らしい。ミツハは、「はっ!」と目を覚ます。。
驚かせるつもりはないか声はかけることにした。
「ミツハさん、おはよう」
「呑気におはよう、じゃありませんよっ! ジョニぃーは、三日も眠ったままだったのですよ!!」
「いや、確か昨日はベッドで9時前はとても良い子、良い子で寝たはずだが、問題はない」
「覚えていないのですか……? 私がお酒を奨めたまでは、そこまではいいんですけどね。いきなり泡を吹いて倒れたのですよ」
思えば、確かミツハからお酒を奨められたのまでは覚えている。どうやら二日酔いにでもなったらしいな我は。お酒はあまり強くなかった気がする。
目を凝らすと部屋の片隅に段ボールのようなものが置いてあった。
「あれには何が入っているのか、まず聞きたい」
「アレ……、あれはですね、昨晩に雷がどっかーんと一回鳴ったと思ったらバラバラとお空から降ってきたのですよ。高価な園芸用品なのは見てわかりました」
段ボールに向けて指を指して、問う。ふと、まさかと思う節があった。先ほどまでの気色の悪いとても不健康な残酷な夢を思い出した。あれは夢ではなかったのか。
ベッドから立ち上がるも、ふらついてまともに歩けない。三日も寝ているとこんなにも足腰が弱くなるとはまるで病人じゃないか!!ガタつく躰に鞭を入れるかのように身体を無理やり稼働させる。
動かすのは、体感するのでは大違いだ。
倒れ掛かるのをミツハが支えてくれる。
「危ないですよォ!今、持ってきますからぁ」
段ボール箱をミツハが持ってくる。我が蓋を開けると、やはりそうだ
鎌、鍬、スコップの(大)と(小)、マルチフィルムが入っていた。
嫌悪を抱く黒い影と虚数と呼ばれる消失した言葉。――アレは夢じゃなかったのか、否、そうではないのか。記号のように無意味な世界。夢の世界。裏の世界。浸食された現実世界。
しかし、現実として購入したものはここに揃っている。よく見ると、1つだけ買ったのだが、各種3つほどに増えている。――おまけで軍手が一組付いてきてるし。
そして、段ボールの前方に伝票らしきものが張られていた。
【せかいやさしい、やさしいせかい。せかいはやさしい】
世界は優しいのか、優しい世界なのか、答えは否である。世界とは常に厳しい現実が待っているだけだ。しかし世界を恐れると何もかもが手に付かなくなる。世界とはそういうものだ。
「ところでミツハさん、ここで黒い影のようなものを見なかったか?」
「いえ、いつも通りお客さんはいっぱい来てくれましたが、そのようなお客さんは来ていませんよ」
まぁいい。
実際にあの空き地をどうにか対処する手段と道具、畑へと開拓する術さえも見つかった。
記号世界からの成果は、農業をするに当たってマルチフィルム(※以降マルチ)の存在は、大きい。
畑に畝うねを作るのにマルチは必須だ。
《マルチ(マルチング)フィルムの特徴》
・畝うねにマルチングを行うことで、土壌水分の蒸散を抑える効果が一つ。
・また土壌温度変化が緩やかになる。よって作物に良好な環境を作ることができる。
・雑草の抑制や肥料の流出抑制、土壌中の病原菌による被害の抑制など様々なメリット付 き
・使用後の処分負担が軽減される生分解タイプもあるといわれる。
これがあれば、Vサイン(victory)でも取りたいくらいだ。だが切り株はどうする――?
――スコップで掘り起こせばいいという問題ではない。切り株には根強い根っこがあり重機でなければ取り除くことは不可能に近い。なら、どうすれば――、
「先輩、やるんですか? ヤサイ作り」
「もちろん。てか、いつの間にかジョニーから先輩に変わっているし」
「ヤサイに関しては先輩ですからね! ちなみに、今日は休店日なので一日中お手伝いできますよ」
これで、空き地ともオサラバだね。やったね!だが切り株は残ったままだ、問題は根本的に解決したわけではない。重機がレンタルできる工事現場みたいな施設は異世界にあるだろうかとも考えたが、街で見かけた《馬車》なる乗り物を見かけたことを思い出す。
都合の良いものはいつだって手に入らない
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「我は空き地の雑草をこの鎌で刈っているので、ミツハさんにこちらのメモを渡しておきますね。前にタネを蒔いたときのようにお願いします」
「はい、かしこまりました! 私にお任せくださいね」
空き地に繋がる裏口で、ミツハにメモを渡して、分担作業の開始だ。我はこの後、新しき農具カマで無限の雑草と根気比べすることになる。それは地獄が生温く感じられるほど苦難であった。単純作業程、大変で労力を使うとはこのことである。
--ミツハside--
「ええっと、これは≪京まつり》? ピーマンだね。シシトウってものあるはずだけど。あ、これか!」
ミツハは《京まつり》、《シシトウ》と書かれた紙袋をガサゴソと振る。
振ることに特に意味はないのだが、かの有名な『先導者チーター』も最初は袋を振ることから【お花】を咲かせたという。
「これ、ナスと同じタネの蒔き方でいいのね」
ミツハは、8~9センチの列の間隔を空けて、タネとタネの間はこれよりもっと狭い、0.5~0.8センチの間を開けて一個づつゆっくりと蒔いていく。
書き足しのメモを見ると、生育は遅いと書かれている。苗が12センチに成長したら鉢に植え替え花が咲くまで養成する、と書かれている。
「花ってことはヤサイも《お花》一種なのね。なのねー」
次のタネ蒔きいってみよう☆
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「しせん……?、シセン、四川、四川キュウリ、キュウリだー!!なになに? 列を溝にするって書いてあるね」
キュウリは、茎は、つる上に上に伸びていき、細長く緑色した棒状の実が成るヤサイらしい。
ミツハは、作り置きしておいたイクビョウバコを見てかしげる。
閃いたように木片を縦に擦り付けるように列を作る。列の間隔は、8センチ~9センチだ。
タネは、溝の中に横向きで丁寧に並べると、二葉もきれいに横向きに開く(らしい)。
暖かければ鉢に直播きしても、イクビョウ(育苗)できるそうだ
ある程度成長したら支柱を立てないといけないみたいなのだが、今回はまだ立てない。
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最後は、《カボチャ》なる少し大きいヤサイだと聞いた。硬い殻(※皮)の中ある黄色の部分が食べられると聞いた。潰して(マッシュ)もしてサラダ?にも使われるそうだ。煮ても美味しい。(らしい)。
これらは一例であり、形や味などが違った種類がありは幅広く楽しめる(らしい)。
他のヤサイと同様に土を盛ったイクビョウバコにタネを蒔く。――ここで、注意点を教えてもらった。
カボチャの茎は、地面を這うツタ状に伸びる。
ある程度育ったら地面に移植してやらなければいけない、と。
決して《ぷらんたー》なる栽培は出来ないとまで言われたが、よくわからない。
「うーんと、タネの間は2.5センチ、列の間隔は9センチから10センチ。細かいなー」
慎重にカボチャのタネを蒔くミツハであった。
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**ジョニーside**
「まずは、雑草を刈り取ってしまおう」
一戸建ての住宅が3軒分ある畑の草を刈り切るには、時間と労力を費やしても明日に持ち越しも有り得る。その戦いは、本時刻を持って始まった。終わりなき聖戦だった。
前線を掛ける兵士の如く叫びをあげる
「ファイトぉ~っ!! 一発~っゲキダマァ」
それは某CMの言葉でアレンジしたものだ。一発、気合いを入れる。荒れ果てた土地を見て、未だに顔は引きつったままだが、こうも悠長に構えてはいられない。
軍手をはめた手に鎌を持って、刈り取り作業の始まりだ。――草の上部を持って、根元からばっさりと刈り、一か所に山積みにする。
それ以外に現状しては分からない。そうするしか方法はない。草刈り機があれば1時間もかからないだろうが。――それを動かす燃料があるかどうかだ。
気づけば、――。
ミツハも脇の方から同じように鎌を使って真似るように刈り取りを始めている。
だが、経験者からいわせれば我の方が刈る効率もスピード正確性も勝っている。
時は一刻と暮れ方へと移り変わっていく。立夏の黄昏、ある日のこと。
つづく。
次回予告:
我、ドーブツに殺される。。。