[長編伝奇バトル小説]ステロイダー剛 第8話
第8話 パンティ・パンティ
「すばらしい試合だったわ。」
ブラジャーかぶりは剛と担架に乗せられて運ばれている天本に対し、拍手をした。
観客達もそれにつられてか、二人に対して盛大な拍手が送られた。
剛は担架を見送った後、一人控え室に戻っていった。
「マーガレット。
あなたは先に帰って“プリンセス”に、この闘いの報告をしといてちょうだい。」
「わかったわ。お姉様はどうするの?」
「私は剛に挨拶してくるわ。天本のおじ様の容態も気になるし。」
ブラジャーかぶりとマーガレットは席を立ち、各々別の方向に歩き出した。
乳首という山がある。
その頂上に到達する為の登山ルートは、ステロイ道の先人達のたゆみない研鑽によって開発され尽くしていたと剛は考えていた。
だが、それは誤りであったと、この闘いで剛は思い知らされた。
天本の持つ天才性と情熱が一代にして乳首という山の頂上へと向かう新たな登山ルートを開拓したのをまざまざと見せつけられたからだ。
今、天本は地下のスペースにある救急救命室にて緊急の手術中である。
(死なせるにはあまりに惜しい男だ。
助かってくれ・・・)
剛は控え室で天本が命を取り留めることを願っていた。
ふと控え室のドアがノックされ、しばらくののちドアが開き、ブラジャーかぶりが入室してきた。
「誰だ?」
「はじめまして。
私の名前はパンティ・パンティ。
あなたの試合に感銘を受けた観客よ。」
パンティ・パンティの体つき、そして体から放たれるオーラ・・・
そのすべてがただ者ではないと、剛のセンサーが反応していた。
「最新のグッドニュースよ。
天本のおじ様が一命を取り留めたわよ。
どう?うれしい?」
「ああ・・・」
そっけない返事をしたが、内心、剛はうれしく思った。
「パンティ・パンティといったな。
あんたの用件はそれだけか?」
「そうね。
今日のところは自己紹介ってところね。
そうだ。
記念に握手してちょうだい。」
パンティ・パンティが右手を差し出してきた。
剛も右手を差し出し、二人はがっちりと握手をした。
剛はパンティ・パンティとの握手の中で、彼のとてつもない筋力と濃密なエネルギーの片鱗を感じとっていた。
「また会いましょう。
それじゃあね。」
パンティ・パンティは目にかぶせているブラジャーを上にずらし、剛に向かってウインクをして控え室を出ていった。
彼の瞳は、吸い込まれそうなほどの透明感のあるコバルトブルーであった。
剛は先程のパンティ・パンティのことを思い出していた。
(あの男・・・得体の知れない・・・
いや、底知れないスケールを・・・)
会議室にて地下格闘技主催者達が会議をしている。
議題はお決まりのタイトルマッチについてだ。
「来月のタイトルマッチについてだが・・・」
ミラー博士の改造人間をタイトルマッチに投入できるのは2ケ月後、この地下格闘技場の不文律として月一回のタイトルマッチを行うというものがある為、来月のタイトルマッチの挑戦者をどうにかしないといけないが、チャンピオンはあのステロイダー剛だ。
生半可な挑戦者では勝つことは不可能ではあるし、観客も満足しない。
「ミスター服部、挑戦者に推薦したい者がいるのだが。」
主催者達の内の一人、ミハイル山田が声を上げた。
「ほう、誰だね。
君のめがねにかなった者は?」
会議の議長でもあり、主催者達のリーダーでもあるクラウザー服部が山田に促した。
「名前は不破キャサリン。」
山田と服部以外の主催者達がざわめいた。
「女じゃないか。」
「女では剛には勝てないぞ。」
服部がざわめきを制した。
「皆、静粛に。
ミスター山田、女の細腕では厳しいと私も思う。
が、一応流派を聞こうじゃないか。」
「アマゾネス女陰拳・・・」
その流派の名前を聞くと主催者達からどよめきが起こった。
「まさか・・・」
「あの伝説の・・・」
山田は周りを見回し主催者達の反応を確認した後、服部に聞いた。
「ミスター服部、挑戦権はおアリかな?」
「大アリだよ。
ミスター山田。」
謎に包まれた拳法・・・
アマゾネス女陰拳が剛の前に立ちはだかろうとしていた。