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[短編コメディ小説]ピーちゃん

今日、ピーちゃんが死んだ。
僕の友達、インコのピーちゃん。
とても可愛がっていた、ピーちゃん・・・
悲しくて悲しくて、きれいな青空を見ただけでも涙が出そうだよ・・・

それなのに、ママ、なんで今日の晩御飯のおかずを唐揚げにしちゃうんだよっ!
ニワトリとインコは違うのは分かってる、分かってるんだ・・・
でも同じ鳥類だろ!連想しちゃうだろっ!
僕はママに怒りをぶつけた。
するとママはあっけらかんとした顔で

「だってアンタ唐揚げ好きでしょ。
アンタを元気づけてあげようと思って・・・」
「いつもそうだ・・・
ママは自分の思い込みだけで突っ走るんだ・・・
僕の名前だってそうだ・・・
なんでママが“ジョジョの奇妙な冒険”が好きだからって僕の名前を“ジョナサン”なんかにしたんだ!日本人なのに!!ウチの苗字は“城島じょうじま”なのに!!
おかげでどこいってもあだ名が“ジョジョ”になっちゃうんだよっ!!」
「あだ名がジョジョだなんてかっこいいじゃない。」
「僕はジョジョ嫌いなんだよっ!!
絵柄が生理的に受け付けないんだよっ!!」
「お前今なんつったぁ!!
ジョジョの悪口は許さないっ!
アンタがっ!泣くまでっ!アンタを殴るわよっ!!」
「ひっ!ごめんよぉママ・・・」
「分かればいいのよ。
さあ、ご飯を食べなさい。」

悲しくてもお腹はへってしまう。
僕はご飯を食べ始めた。
悔しいけれど唐揚げは美味しい。ごめんよ、ピーちゃん・・・
あれ?

「なんだこの唐揚げは、やけに小骨が多いぞ・・・
何か歯に引っかかった、これはちいさなネックレス!僕がピーちゃんにあげたやつだ!
まさか・・・」
「そう・・・
その唐揚げはピーちゃんよ・・・」
「ママッッッ!
なんでそんなひどいことをするんだよっっっ!!」
「何をギャーギャーと・・・
アンタは今までに食ったピーちゃんの数を覚えているの?」
「一羽だよっ!!
たった今ママに食わされたっ!!」
「これはね、ママの考えがあってやったことなの。
ピーちゃんを食べることにより体内に取り込まれ、アンタの中でピーちゃんは生き続けるのよ。
もう、これでアンタとピーちゃんは離ればなれになることはないの・・・」
「・・・
でもママ・・・
ピーちゃんがうんこになって出てきたらどうすんのさっ!?
僕にうんこを食えっていうのっっ!!?」
「・・・りんご・・・」
「えっ?」
「庭にりんごの木を植えましょう。
そしてピーちゃんのなれの果てのうんこをまいて肥料にするのっ!
そうすればりんごの木はピーちゃんを吸収して、ピーちゃんはりんごの木と一体化するわっ!
そうすればずっと私達と一緒にいられるっっ!」
「ママ・・・」
「善は急げよ!
ママはりんごの苗木を買ってくるからアンタはバケツにうんこしときなさい!」

そう言ってママは僕の前に下剤を置いて、急いでりんごの苗木を買いに行った。


それから月日は流れ・・・

「こちらは、全日本りんごグランドチャンピオン品評会で優勝しました、りんご界の“ジョジョ”こと、城島ジョナサンさんです。」
「こんにちわ。よろしくお願いします。」

あれから僕はピーちゃんのりんごの木を育て、それが高じてりんご農家になり、テレビの取材がくるようにまでなっていた。

「このりんごの木には城島さんの思い出がつまっているそうですが?」
「ええ、そうなんです。
この木は母が買ってくれて、そして、僕が可愛がっていたピーちゃんでできたうんこを肥料にして育てたんです。」
「お母様が・・・
今、お母様は?」
「母は十年前、世界一周してくると言って気球に乗って飛び立ったきり・・・それきりです・・・」
「そうなんですね・・・」

目を落とすリポーターを尻目に僕は大地に耳をつけた。

「母は今頃この地球ほしに還っていることでしょう。
だから、こうして大地に耳を澄ませると母のあのヒステリックな声が聞こえてくるような気がするんです。」

「そうなんですね・・・うう・・・」

僕のことを同情してくれた女性レポーターの目から涙があふれ、ひとしずく頬をつたい落ちた。
僕は素早く涙の落下地点に顔をスライドさせ、涙を口で受け止めた。
口の中にファンデーションの風味と程よい塩味が広がった。

ママ、ピーちゃん、僕は寂しくなんかないよ。
だってママとピーちゃんの思い出がいっぱいつまったりんごの木が寄り添ってくれているのだから・・・
僕は澄み渡った青空を見上げた。


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どんぶりめしまる
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