SS就実合同公演「ソーダフロート」より、「可惜夜」感想

 はじめまして。しろながすと申します。
 演劇には高校時代に触れていたものの、それ以来全く触れずに30年。家人が演劇団体に所属したことにより、また怖々と触れはじめた、岡山在住の歳ばかりとった初心者です。
 家人が参加している公演を何度か拝見し、「こう言うのって、感想があるとないとでは役者さんのモチベって全然変わるよなぁ……ちゃんとお伝えできたらなあ……」と常々思っておりましたので、見に行けたものだけでも書き記したいと思い、こちらを立ち上げました。本数は増えないだろう、あまりに限定的なnoteではありますが、お付き合いくださると幸いです。

 さて、今回はSSActorsさんと就実大学演劇部さんの合同公演「ソーダフロート」より、SSActorsさん側の演目「可惜夜」「アナタはかえらない」の感想です(2回に分けて投稿予定です)。就実大学演劇部さんの「千天護持物語」は、残念ながら見る機会を持てませんでした。和風ファンタジーとお聞きしていたので、異色の世界観、拝見したかったです、残念……。 
 それでは、「可惜夜」から、感想を述べていきます。一度見ただけのものをどこまで書き記す事ができるか分からず、的外れ、また少々乱暴な感想になるかと思いますがご容赦ください。

可惜夜感想

 雨に降られた女性が2人、登場。片方の部屋へと帰り着き、濡れた体の後始末。気の置けない関係なのだろうざっくばらんな、肩の力の抜けた会話が繰り広げられます。
 脚本家さんを一方的に存じ上げておりますが、男性が書いた作品とは思えないほど、女性同士の会話が自然で、「あーあーあるある」「こういう感じの二人、いるよね」「よくみたわー」的な感想を持つ中、開幕早々からひなた役の役者さんの演技にものすごく……ものすごく含むものを感じる。「あ」、と感じさせるものが「ああ……」となったのは、ゆい宛に気になっている男性から、これから会おう、と言う電話が掛かってきたことを知ったひなたの表情が、ざらりと硬くなったこと。
 苦しい。良い友達、として括られてしまって、そこからはみ出す事が出来ない。はみ出したら最後、繋いだ手はぷつりと離され、二度ともとには戻らない。そんな無邪気な残酷さをゆいから感じ、役者さんの力量だなあ……と感心しつつも、ああ、こういうのつらい、やだなぁ、とざらざらした感触を心のなかに覚えました。
 電話をかけてきた男性はひなた曰く「あまりいい噂を聞かない」タイプ。それでも「好き」と曲げないゆい。うまくいくかどうかは分からないどころか、ゆいが傷つく結末ばかりが見えるから、ひなたはどうしたって止めたいよこれ。あと、「終電間際に会いたいと言う男」が信用ならないのはマジでひなたに同感。碌なもんじゃないぞ、先に退路を断ってくる男なんぞ。主語がでかいと言われてもそれはマジで。
 そしてゆいから繰り出される「親友だから背中を押してもらいたかった」の言葉。その台詞を聞いた時、私の顔は本気で歪みました。
 あああ、女性の嫌なところを煮詰めてお出しするのはやめてもろて。何この何度となく聞いたフレーズ。見せかけだけは対等だけど対等ではない、どちらかが相手に寄りかかりがちな関係で、相手にずっぷりと甘えているそんな女性からしか出てこない言葉ですよこれは。リアルだ。リアルすぎて寒気がする。
 そんな伝家の宝刀を抜かれてしまっては、ひなたは口をつぐむしかないじゃないか。頭を抱えたくなりながら、分かりきった経緯をたどる2人を眺めます。やっぱり止めることはできないわなあ。胃が重たいや。
 ゆいの身支度を見守り、世話を焼くひなた。アイラインを引いてほしい、と頼むゆいに承諾して、目蓋にそっと化粧を施すシーンがあったのですが、このシーン、圧巻だった。
 まずね、ゆいの表情が、もう安心しきった、相手に完全に任せきった表情なのです。うわあ。さっきまでの諍いを、大きなものとしては捉えていない。いつもひなたは私の味方で、一番の理解者で、時々は諌められても、結局は私のことを尊重してくれる。そう分かりきってる、と言わんばかりの雛鳥のような表情で。
 対するひなたは、しん、と黙って化粧を施すものの、愛しいの気持ちが糸を引かんばかりに滴り落ちていて。愛しい人が他人の元に向かう、そんな刹那でさえ、この人の美しさを引き立てたいと飾るその手つきは恭しくて。
 またこれが、アイラインを引くという行為なところが罪深い。絶対にその目蓋は開かない。ゆいがひなたを見返すことはない。そんな瞬間にしか零し得ない気持ちがある事が悲しく、また胸に残るほど美しく見えました。いいシーンだったなあ。このシーンに持って行くまでに重ねた役者さん2人の気持ちが、綴ら織りのように透けて見えて、感服しました。
 そうこうしている間に時間は過ぎているのに、男性が迎えに来ないことに焦るゆい。電話をかけて安否を確認するのですが、その電話の口調がもう完全に恋する人のトーンで、ひなたからすれば、分かっていたにせよ矢張り苦しいものだったろうなあ、という感じで。それに対抗するように、ゆいを引き止めたい気持ちを見せるように零されたひなたの「私にも好きな人、いるよ」の言葉は、語ることの出来ない、秘めていかねばならない気持ちのある人の精一杯の吐露で、私としては危ういな、と思いつつも、それくらいはゆいに覚えていてほしいよねえ、と思ってしまった。辛いなあ。
 ベッドに寝そべるひなたを置いて、ゆいは迎えに来た男性の元へと出ていく。舞台から捌けたゆいの明るい声を最後に、暗転、そして終劇。少々呆気なさすら感じる幕切れでしたが、同行した旦那はこれで終わり?みたいな顔をしていたので、もう少々、余韻を残す何かがあっても良かったかも。

 可惜夜と言う題名も秀逸ですね。かなり独りよがりな解釈かもですが、可惜夜……明けるのが惜しい夜、を少しひねった感じではありますが、ひなたにとっては留めておきたかった時、という事なのかな、と感じました。ひなたというひとが、過ぎ去る時の中で、時々手繰り寄せては「ああ、本当に好きだったなあ」と思い返すのは、ゆいの目蓋に化粧を施したあのシーンであって欲しいなと思いました。

 

 以上、「可惜夜」の感想でした。
 長くなってしまいました。また次回の更新で、「アナタはかえらない」の感想を述べていこうと思います。それでは、また。
 

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