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中国SFの未訳長編を読む:江波「機器之門」(3)


あらすじ

奥霊之手のアジトからうまく逃げおおせたサンディープと南天。一方大剛は同じミッションを課せられた仲間のサイボーグともに戦いを繰り広げ、敵に包囲されながらも機転を利かせて形勢逆転に成功する。
そのころ、ある理由から負傷して意識を失った南天は、目覚めると病院の手術室にいた。そこへ再び、謎の人物・シャオリウから電話がかかり、機器人類で構成された集団である〈機器連盟〉と人類ーー具体的にはアメリカ軍ーーとの戦争が勃発したことを知らされる。衝撃を受ける南天だったが、それよりも恋人のシャオファが奥霊之手に囚われたままであることを思い出し、弱りきった身体のサイボーグ化を決意する。
一方、大剛は潜伏しながら移動を続け、中国国内に入ったものの、なぜか中国軍の部隊に捕らえられる。自分を知る旅団の兵士=ネズミが発見してくれたことで事なきをえた大剛だったが、突然の集中砲火に襲われネズミは死亡する。ところがネズミは動き出し、そのうえ自壊してしまう。実は部隊は乗っ取られており、中国西部はすべて機器連盟の手に落ちていたのだった。ネズミは死体を操られ、動いていたのに過ぎなかった。大剛は、今や世界が世界政府対テロリストの大戦に突入していることを知る。
上官のジャントウに会うため大剛は本部に向かうが、そこにも機器連盟は入り込んでいた。機器連盟は世界中の軍隊をハイジャックしつつあった。なんとかジャントウに会えた大剛だったが、驚くべきことにジャントウはシャオリウを知っており、その上、現下の状況では〈脳庫〉で働き情報を持っている彼に従うしか手はないと言う。大剛はシャオリウの指示の下、新たなミッションに向けて動き出すのだった。

感想

いよいよ主要な登場人物が顔を合わせました。大剛は同僚とともに戦いますが、彼は戦死してしまいます。敵に対しては容赦なく攻撃を加え、常に冷静に状況を判断する大剛が、そのときは同僚の遺体をなんとか回収しようと奮闘します。これまでの章ではいかにも軍人らしくミッションに取り組んでいた大剛ですが、鋼鉄の体の中に人間味のある一面を隠していることがわかり、キャラクターとしての厚みを感じるシーンです。
一方、大剛とは対照的に生身の体にこだわってきた南天は、ここでやむをえずサイボーグ化手術を受けることになります。実は南天が負傷した理由とは、奥霊之手によって体に追跡器を埋め込まれていることに気づいたサンディープたちの手で埋め込み場所を(麻酔なしに)えぐられたからなんですね。非常にかわいそうです。
ともあれ、おかげで奥霊之手の追跡からは免れましたが、自身が大切にしてきた生身の体をサイボーグ化することになってしまいます。ここへ来て南天は理想と現実の乖離をまざまざと見せつけられ、後者を受け入れるわけですが、鋼鉄の体になることは心の強さを手にいれることの比喩であるのかも知れません。実際、このあと南天は再び大剛ともサンディープとも別れてしまい、独力で行動しなければならなくなります。
三人はこれからどうなるのか? そして、機器連盟とは何なのか? シャオリウの正体は? 今後の展開が気になります。