
中国SFの未訳長編を読む:江波「機器之門」(4)
あらすじ
不本意にサイボーグ化されてしまったことにショックを受けつつも、病院で平穏な日々を過ごしていた南天。しかしある日怪しげな黒ずくめの人々が近くまで来ているのを目撃し、逃げようとすると、南天の手術を行なった医師・サディーシーが隠れ場所を教えてくれる。そこから病院が崖沿いにあることを知り、隠れ場所を確かめた南天だったが、数日間の疲れから眠り込んでしまう。
目覚めた南天の目の前にあったのは燃え盛る病院と多くの遺体。南天はサディーシーを探すが、彼はすでに殺害されていた。呆然とする南天。そこにサンディープが現れる。南天は装甲車に載せられ、サンディープが戦場でロボットに親を殺された幼い兄妹を連れていることを知る。
一行は中国とインドの国境地帯に辿り着く。そこには崩壊したとされていたインド軍がおり、国境は封鎖されていた。サンディープはそこで南天に子どもたちを託し、中国へと送り出すことを決意する。そのとき突然攻撃が始まり、人々はわれ先にと中国行きの列車に乗り込むべく走り出す。南天もなんとか列車に乗り込み、サンディープは応戦を始める。修羅の巷となった国境で二人は別れるのだった。
一方そのころ、大剛は南天をGPSで追跡して草原を移動し続けていた。
一度集合するもまた別れることになった三人。それぞれの運命が動き出す……。
感想
南天が眠り込んでしまうシーンで、これまでの出来事が「ここ数日間」のことであると明記されており、盛りだくさんな展開に改めて驚きます。今回も戦闘シーンはあるわ登場人物は増えるわで読みごたえがあります。
南天が眠り込んでしまうのは、サイボーグ化したと言っても体のごく一部を人工臓器に置き換えたレベルの話なので、まだまだ生身の人間並みに休息を必要としているというわけなんですね。一方で、サンディープや大剛は「鋼鉄の体」の持ち主として描かれているので、眠ったり食べたりはあまり必要なさそうです。実はこのことは今後の展開においてトラブルの元となってしまいます。
ちょっと先にネタバレしておくと、大剛がまとまった人数の生身の人間を救おうと基地へ護送したところ、基地はサイボーグもしくはロボット用に作られていて、食料もなければ洗面所もほとんどない、人間仕様になっていないことで困ってしまうという場面があります。
この場面からは軍隊がほとんどサイボーグとロボットで構成されているのに対し、一般市民は生身の者が大半を占めていることがわかります。つまりこの近未来は、未来ではあるものの人類のほとんどがサイボーグになっていたり、肉体を捨ててネット世界に生きているような未来ではなくて、サイボーグと生身の人間が対立し、互いの勢力も拮抗しているくらいのいわば機械化の端境期だということになります。
SFにおいてポストアポカリプスや第三次世界大戦後の荒廃した未来を舞台にしたコンテンツは大きなジャンルを作っていますが、この「機器之門」ではその大戦そのものに焦点を当てて、人類の存亡をかけた戦争とはどんな時期にどうやって始まりうるのか、誰と誰の戦いになるのかーーこうした点を身体と科学技術の面から考えているということが、このあたりまで読んでいくと徐々に実感できます。とはいえ、テーマを言い表すのは簡単ですが、物語の実際はどんどん入り組んでいきます。本当にどこへ着地するのか予測できず、今後の展開から目が離せません。