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中国SFの未訳長編を読む:江波「機器之門」(2)
あらすじ
テレビ局から連れ去られた南天と恋人の饒華は〈奥霊之手〉のアジトにたどりつく。サラディンと名乗る全身を機械化した人物の案内でアジト内部へと連れていかれる南天。サラディンの姿を見て、南天は人類至上主義者のアジトにサイボーグがいることに混乱する。
しかしサラディンはそれに構わず「新人類」を自称し、誘拐の目的が、反サイボーグ化の穏健派として強い影響力を持つ南天を自分たちの仲間にすることだったと明かす。その方法とは、南天にマイクロマシンを投与することだった。
マイクロマシンを注入された南天は小六と名乗る謎の人物からのメッセージを受け、行方不明になった後、実はこのアジトに監禁されていた〈人類の日〉発起人の胡安康との対面に成功する。しかし胡は痩せこけている上、首から下を機械化されていた。
一方、大剛もアジトに到着する。なんとか建物内部に入ろうと苦心する大剛に、未知の人物が接触してくる。それは先ほどの小六で、建物の情報を教える代わりに自分に協力しろというのだった。小六はハッカー集団・アノニマスの一員であり、同時に中国の情報部〈脳庫〉で働いていると言う。また、最近ある集団と知り合ったと話す。その集団こそ、サンディープ率いる「アベンジャーズ(復讐者集団)」だった。大剛は迷った末に小六への協力に同意する。
その頃、南天は胡からことの真相を聞き出そうとしていた。そこへ突然2体の巨大ロボットが突入し、胡の生身の首をはねる。アジトでは侵入者を検知して攻撃が始まり、ターゲットの居所を探し当てた大剛によって南天は救われる。逃げた先にはサンディープが待っていた。
しかし脱出後もなぜか追っ手の数は増える一方だった。その理由に気がついた大剛とサンディープは……。
感想
ちょっと気持ちが追いつかないくらいにストーリーのテンポが速いです。役者がそろったところで事態が大きく動きはじめ、激しい戦闘シーンも描かれます。
キャラクター設定については、サラディンがとてもいやな感じかつ謎めいていて気になります。妙に物腰がやわらかく、レクター博士のようなタイプのサイコパスっぽい雰囲気も漂わせています。サイボーグであるにもかかわらず、人間の怖さというか、底知れぬ不気味さがあります。元の性格なんでしょうか……。
そして、全身機械化した人物が、なぜ反サイボーグ主義のグループで幅を利かせているのか?南天や胡安康を誘拐した本当の目的は?など、一見行動原理を理解しにくい存在でもあります。その真相は南天と胡との対話で示唆されており、〈奥霊之手〉も〈人類の日〉運動も、より大きな勢力の掌の上で動いているに過ぎないというのです。しかし詳しい話を聞く前に胡は首をはねられてしまい(首は培養液の入ったガラス瓶に入れられてしまいます。なんとなく、もののけ姫のシシ神様が桶に入れられたシーンを思い出します)、謎が謎を呼ぶ展開になっています。
この先では、ここで示された「より大きな勢力」とは何なのかが、徐々に明らかになっていきます。ところがこの引き伸ばしがなかなかに長く、その間に新たな登場人物も少しずつ増えていきます。実は本作には続編『機器之魂』があるのですが、ここで新たに登場する人物がそちらではメインキャラクターになっている模様。ということは、『機器之門』前半は壮大なサーガの序曲である可能性も……?気長に読み進めていきたいと思います。