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「科幻世界」を読む(6)新学期は大混乱:阿欠「科幻小説創作理論与実践」

あらすじ

「科幻世界」2024年第7期掲載。

今日は大学教員の「私」が担当する講義「SF小説創作理論と実践」の第1回だった。朝8時から始まる2コマ続きの講義とあって、学生たちは初めからやる気がない。携帯電話で遊ぶ者あり、いちゃつくカップルあり、居眠りする者あり。アイスブレイクのつもりで口にした冗談も完全にスベり、「私」は少し傷つきながら講義を始める。
それでも熱心な女子学生の存在に勇気づけられ、なんとか授業を軌道に乗せた「私」。カップルの片方の男子学生を指名して「伝統的なSF小説における三大テーマ」を尋ねると、男子学生は「クローン人間、ロボット、宇宙人」という答えに続いて、クローン人間が人類に取って代わるため計画を立てるという小説のアイデアを意外にも情熱的に語り始める。ところが「私」が計画の欠点を指摘すると、意気消沈してガールフレンドとともに教室を出て行ってしまう。
次はロボットのテーマについてだったが、今度は巨体の男子学生がロボットとAIによる世界征服の物語を発表する。どこからかやってきた謎の受講者の応援も受けながらプレゼンを進めていくが、過剰な盛り上がりに危険を感じた「私」によって阻止され、彼らもなぜか教室を去る。
何かがおかしかったが、とにかく授業はやっと終わりに近づく。来週提出の宿題について指示を出したところで、唯一初めから熱心に聞いていた女子学生が立ち上がる。彼女は目を光らせながら、最後のテーマである宇宙人について考えを述べ、まもなく滅ぼされる地球に来週はないと言う。「私」は女子学生の意見を否定するために……。

感想

とにかく楽しい小説です。短編小説として一定の長さがあり、ショートショートではないのですが、ストーリーがシンプルで、文章も会話文中心のため、短時間で読むことができます。また、ところどころギャグやパロディが散りばめられていて、舞台はずっと教室で変わらないので、本作は気軽に楽しめるシットコムとも言えると思います。
そんなコメディストーリーなのですが、内容は細部の描写がとてもリアルだと感じました。特に冒頭では、朝早くからの授業でやる気が出ない学生たちの様子が描かれていますが、思わず学生時代の教室の雰囲気が脳裏によみがえりました。日本も中国も変わらないんですね。個人的に、中国の大学生はすごく熱心に勉強するイメージがあったのですが、そうでもないんでしょうか……。
一方で、先生が飼い猫を教室に連れてきているという謎めいた設定も。実際にそういうことがあるのか、この小説の世界だけの話なのか少し気になりました。ちなみに、この飼い猫は結末でとても重要な役割を果たします。その意味で、猫好きのSF好きの方は一読の価値ありかもしれません。

作者について

阿欠さんは1990年生まれ。2011年、大学在学中に「蒿城旧事」でデビューして以来、次々に作品を発表し、銀河賞や星雲賞など、数々の受賞歴があります。現時点で長編小説を9編、短編小説を72編発表しています。
2020年に「三体X」で知られる宝樹さんとの共作「七国銀河」を発表しており、2022年には短編「雲鯨」が舞台化されるなど、大活躍の若手作家です。
しかしながら残念なことに、阿欠さんの作品はまだ和訳されていない模様。90後の作家として実績を積み重ねているので、ぜひ翻訳されてほしいですね。