2024年4月28-5月3日石川滞在記2
1はこちら
明るさを感じて目を覚ます。
時刻は5時30分だった。
こんなに早く目覚めたのは久しぶりだ。
朝日の眩しさで意識が浮上してくるなんて。
昨夜は真っ暗だったから気が付かなかったが、ともやの部屋には大きなすりガラスの窓があって、カーテンはかかっていなかった。
そこから全面に入ってくる太陽が部屋中を照らす。
すがすがしい空気に気分は最高だったが、昨日の寝不足を考えるともう少し寝ておいたほうがいい気がした。
そのまま目をつむって、次に目を覚ました時は、iPhoneが振動していた。
「もしかして、ひかりちゃん、まだ寝てた?」
町の中で一番私の面倒を見てくれる、下坂さんからの電話だっだ。
寝起きの声だとすぐにばれる。
集合場所が変わったらしい。
お迎えに来てくれるはずだったが歩いて行かなくちゃならない。
家から集合場所まで、歩いて20分くらいかかる。
時刻はすでに7時を過ぎていた。
営農組合の仕事は7時45分から始まる。
ひじょうにまずい。
起きたらゆっくりと散歩を楽しみながら出勤したかったのに。
7時30分には集合場所でみんなと久々の再会を喜んでいるはずだったのに。
こういうときほど冷静になるものだ。
かつて、7時15分出勤の仕事で、7時13分に起床したことがある。
任意の7時15分出勤だったので、タイムカードは7時30分に押せばいいものの、あれほど目覚めに頭の中が冷静になったことはない。
結局その日は1分だけ遅刻した。
ほぼ間に合ってるのに、間に合ってない気持ちになるタイムカードの1分が恨めしい。(実際間に合ってない)
今日は町のおじさんたちとの仕事だから、そんなに堅苦しく考える必要はないが、
遅刻をして平然とした顔でいられるタイプではないので急いで歯ブラシに手を伸ばした。
7時30分に家を出ようとしてまた電話のバイブレーションが鳴った。
今度は東さんだ。
営農組合員の中で最も(といっても過言ではない)しっかりしていて、愛らしさも兼ね備えているおじいちゃんだ。
「お~ひかりちゃん、おはよう。今日は、小谷さんのとこの裏のビニールハウスに集合やぞ。みんな張り切っとって、7時30分からはじめとるんやわ。ひかりちゃん大丈夫か、ここまでこれるか~?」
できれば音声付きで流したいところだが、この石川弁がたまらなく好きだ。文字だけでは伝わらない。抑揚が柔らかくてあたたかい。
今歩いてます!と返事をして、あわてて下坂さんが貸してくれた長靴に足を通した。
町は朝日に照らされて、きらきらと輝いている。
滝ケ原の町はどこを見ても美しくて目の保養だ。
この日はあいにく携帯電話を家に置いて来ることにしたので、皆さんに写真でお届けすることができないのが本当に残念。
たとえるなら、朝の田んぼは爽快感たっぷりのクリームソーダ。
山と苗の緑が太陽に照らされてキラキラ輝く水面に反射して、みずみずしい。空色がスッキリ感をより際立たせている。
歩きながらスキップしてしまうほど。私が今ここに存在できていることが本当に幸せだ。
時間がまずいので、小走りにビニールハウスまで向かう。
走ってる間に、青々とした苗を荷台に乗せた軽トラが田んぼの方に入っていくのが見えた。
今年の営農組合長を担当している滝口さんと、組合員のかつあきさんだった。
「おはようー!!」
息を切らしながら通りすがりに元気いっぱいに挨拶をした。
久しぶりにおじさんたちの顔を見れることが嬉しくてたまらなかった。
「おーひかりちゃん、走らんでええぞ!よりたけが今ハウスのほうにおるわ、ゆっくりいけ!」
「ありがとーー!」
そういいながらまだ走っていたら、走らんでええぞ!ほんまに!という声が後ろからまた飛んできた。
途中で東さんと加藤さんがさなえ号に肥料を積んでいるのが見えた。
加藤龍虎さんは、さなえ号と呼ばれる田植え機の操縦担当で、私の大好きな人だ。
営農組合で動いているメンバーの中では一番若く、みんなから「龍虎~!」と名前で呼び捨てにされるので、私も龍虎くんと呼んでいる。
歩いていた道路からはちょっと距離があったので、おはようを言うかどうかを少し悩んで、通り過ぎた。
下坂さんが待っているから早く一緒に苗運びをしてあげなきゃいけない。
ハウスに向かう脇道に入った。
田んぼ一枚挟んで、向こう30メートル先に東さんと龍虎くんが見える。
やっぱり挨拶したかった。
「おはよ~~~!!!」
おっきな声で、腕をぶんぶん振って二人に挨拶した。
おーひかりちゃんかあ。と言ってる声が聞こえてきそうだ。
小さく手を挙げてくれた彼らが、いとおしかった。
やっとハウスに辿り着いて、下坂さんと合流した。
一人で荷台に苗を積んでいたみたいで、遅くなったことをごめんなさいと謝りながら急いで手袋をはめる。
下坂さんは人と話すのが大好きな方だ。
えへえへ笑いながら、「お~お~全然大丈夫だよ~ひかりちゃん~」と言ってくれる。
親切で、人当たりもよく、本当に良くしてくれる。
そして僭越ながら、私のことがとても好きだ。(笑)
案の定、朝の寝起きの声をいじられながら、苗を積むのを手伝った。
「今日は龍虎号ですか?」
苗を積み終えて田んぼへ向かうために助手席に飛び乗って。
今日最も重要で、ここ1か月間一番気になっていた質問をした。
「おうほほほ、今日はね、そう、龍虎のところに付く、うん。僕とあと別のチームがゆきおと、かつあきで、藪谷さんのほうに付くと思う。僕は今日ひかりちゃんと一日一緒にいられる。このまま二人で抜けてデートに行こうか? でへへへ」
下坂さんといると。いつもこうだ。(笑)
笑ってしまうし、つい突っ込んでしまう。
嫌ですと強めにお断りして、二人で笑いながら田んぼに向かった。
龍虎号だ。
龍虎くんと一緒に仕事をするのが本当に大好きだった。
大好きなみんなとまた一緒にお仕事ができることが、幸せでたまらなかった。
3はこちら
陽
♡