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能登・珠洲でみたもの~中編~

前編はこちら

道の駅すずなりを離れ、町を歩き始めた。
タイニーズファームへの道をあらかた頭に入れる。
Googleで検索すると、5.1キロ。まあ歩けるだろう。

すずなり〜タイニーズファーム


ぼちぼち歩こう。

割れて隆起した道路に、傾いた電柱が目に新しい。こっちではきっとこれが普通の風景になっているのだろうなぁ。

傾いたまま作動する信号

ひび割れた道路を歩きながら、
何台かの車とすれ違った。
隆起がひどい場所もあり、皆そっと運転をする。

当たり前だが、町は滅茶苦茶だった。

"危険"との赤紙判定がされた家

すれ違う人もほぼいない。
傾いた信号の前で、おじいちゃんがぼぅっと庭を眺めていた。

そのまま町の様子を観察しながら15分ほど歩いていたが、急に自分が何の食糧も持ち合わせていない事実に不安を覚えた。
閉まったコンビニを通り過ぎ、何かしらのお店が開いてる気配など一切感じられなかったからだろうか。

このままなにも食べず、腹ペコの状態で人の家にお世話になりに行くのか?
大迷惑ではないか。

"ボランティアは自己責任、自分の面倒は自分で見れる人でないと足手まといだし行く意味がない"誰かがインスタで書いていた言葉がふと頭をよぎる。
困っている人を助けようと思って来たのに、飢えてしまっては自分が助けられる状況になってしまう。本末転倒で良い迷惑な話だ。

時刻は11:20だった。
今朝は出発時間も早かった分、お腹はすでにペコペコだった。ある程度まで歩いて来たところでくるりと踵を返し、もと来た道を引き返した。


道の駅すずなりの隣にファミリーマートがあったことを覚えていて、5分くらいかけて道の駅まで戻った。何人かが車を停めて入っていくのが見えて、コンビニが営業していることがわかった。

中に入ると、何人かの従業員がせっせと棚に商品を陳列していた。冷蔵コーナーの電気は消されていたが、大量の食糧が並べられている。
店員さんはやけに元気いっぱいに接客してくれた。

ファミリーマートを出てどこかベンチに座ろうと、ロータリーを渡る。

バス停のど真ん中にある石碑が倒れていた。

一旦通り過ぎて、違和感に気づいて二度見した。何で素通りしたんだってくらいのデカさ。
こりゃぁ…。思わず息を飲んだ。

すずなり館前の石碑

さっき女性たちが座っていたベンチに座ろうと思って、すずなり館のシャッターが開いてることに気がついた。

なにやら筍やらわかめやらが置いてあるのが見える。ソフトクリームの看板も出ていた。
塩ソフト、キャラメルソフト。
美味しそうだ。

ふと、すずなり館の隣の、駐車場のようなだだっ広いスペースが人で賑わっているのに気づき、よく観察すると炊き出しをしていることがわかった。

皆一様に段ボール箱や買い物カゴのようなものを持って整列している。20人程度の人だったろうか。順繰り順繰り、人がやって来ては並んで、配布にありつけた人が列を抜けて車に乗り込んでいく。
近づいてみると、わたあめを作る機械が見えた。

炊き出しを行なっているスタッフの方々のTシャツに、"極太麺命" という文字が見えた。どうやら焼きそば屋さんらしい。
なぜわたあめなんだろう、とすこしクスッと笑えた。それが大事なのかもしれない。日常のちょっとしたユーモアってやつ。


ベンチに座り直し、温めてもらったグラタンを取り出す。
餓死してしまうかもしれない不安感に駆られたのか、おにぎりやパンやお惣菜やと、絶対に1人で消費しきれない量の商品を購入していた。

こりゃ買いすぎたな。
先の未来で重い思いをしていることを想像し、反省しながらグラタンにスプーンをつけた。

隣では、中年の女性が座ってソフトクリームを食べていた。
今日は結構寒いけどソフトクリーム食べるんだな。

私はあたたかいものが食べたかったから、ほくほくのグラタンに頬が緩む。突然いい匂いをさせはじめたからか、若干の視線を周囲から感じつつも、気にしまいと食べ進める。

半分ほど手をつけた頃に、段ボールを抱えたおばあちゃんが「ちょっとごめんね」と言いながら女性の隣に座った。

「ごめんねぇ今友達と待ち合わせでねぇ」
「炊き出しですか?」
隣で始まった会話に、ダンボのように耳を大きくさせて全集中する。

「そう、今日は何だか食べたことのないようなものでねぇもらってみたんやけど」
おばあちゃんは目元にきゅっと笑みをたたえ、口元をそわそわと隠しながら話をする。
「毎日やっとるんですか?」
「いやぁ毎日ではないんやけどぉ、最初の方はもう毎日しとってんけどねぇ。最近はおっきいのが週にいっぺんくらいあってぇ、こない今日みたいなちっちゃいのがあったりなかったりして」
「そうなんですねぇ。この辺にすんどるんですか?住まいはどうしとるんですか?」
「そう、すぐそこにある避難所から来とるんや〜」
「いやぁ大変なことになってしまいましたねぇ、私たちは金沢から来とるんですけど、本当に大変でしたね。」
「そうねぇ、もうねぇ、もう十分泣いて泣いて、悲しみつくしたから、もういいんやってね。大変でも前を向かんないかんのよ」


そう笑いながら話すおばあちゃんの、心はどんなことを諦めて、どんなふうに乗り越えて来たのだろうか。
何かを受け入れて前に進むしかないと、本気で悟った様に私の目には見えた。


女性の連れの人が、すずなり館からまたソフトクリームを持って出て来て、女性は立ち上がった。
去り際に、「あそこのうどん屋さんは営業してないですよね?」とおばあちゃんに聞いていた。
「いやあ、どうかねぇ。わからんねぇ。水が戻ったのが最近のことやから。さすがに飲食店なんかおっきいところはまだ営業できるぐらいではないんじゃないかね。」


女性が立ち去った。
話している間チラチラと私の方をみていたおばあちゃんと、改めて目を合わせ、私は座り直した。
「友達が来るはずなんやけどねぇ、ここで待ち合わせとるんやけどぉまだこないのよ。もう並んどるんかどこにおれんやろか。」 
また口元を抑えながら、キョロキョロと辺りを見渡しながら、私に話しかけた。
「もう並んどるんかなぁ」
もう一度言って、私にごめんねぇと謝った。

「いえ、全然大丈夫ですよ。ここで待ち合わせなんですね。いつも炊き出しにこられるんですか?食事とかって今どんな感じでされてるんですか??」
ずっと珠洲の人と話したかった。
聞きたい話は山ほどあった。

「食事は一応お弁当が用意されるんよ。ほんでこういう炊き出しにももらいに来とるよ。最初の頃は毎日毎食ちゃんと当たっとってんけどね、最近はちょくちょく当たらん時もあるんやってね。こんなところに来たら普段食べれんものが食べれるやろう?やし来れん人の分ももろといたら、誰か当たるやろ思ってね、今日は3人分余分にもろといた。ほんで友達と電話しながら、ここでお喋りしよいう約束して来たんよ。」

「そうなんですねぇ。お弁当ってどんなの?おかあさん、パンとかも食べるの?」

とにかく能登の人に何かしてあげたかった。
与えたかった、が正しいだろうか。

ちょうどコンビニで買った袋の中にパンがある。
返事も聞かずにおもむろにコロッケコッペパンサンドを取り出して手渡した。

「おかあさん、こういうのも食べる?良かったら食べて。」
おばあちゃんは驚いた顔を見せて、すぐに恥ずかしそうにはにかんだ。
「いいの?もらっておくわ。ありがとうねぇ」

とても嬉しかった。
なんでだろう、素直に頼りにされてるような気持ちになった。人助けって、助けてる本人が一番、相手のありがとうに助けられてるよな。
こんなふうに素直に受け取ってくれる人がいるから、私も与えることができる。
ありがたいことだよなぁ。

ぼんやり考えながら、もう一袋ハムチーズロールを取り出して段ボール箱の中に入れた。

「これももし良かったら。」
「えぇ〜いいの?悪いわぁ、でもありがとうねぇこれでみんなにわけてあげられるし、何かつまらん時に皆んなで食べられるし、本当にありがとうねぇ。」


聞きたいことは山程あったけれど、
これ以上は辞めておこう。

「おかあさん、私三崎町に行きたいんやけど、どうやっていけばいいかな?」
「え〜、三崎の方かねぇ〜私はすぐこっちからきとるやけどぉ〜今日みたいな小さい炊き出しの時はあんまり三崎の人はきとらんねぇ〜
どうしよう誰か来てたら聞いてあげれてんけどねぇ。今日は誰も来とらんかもねぇ。」

「いやいや、全然いい!ありがとう。歩いていくし、大丈夫やってね。」
「三崎は歩いて行ける距離じゃないねぇ、どっかバスが動いとらんかね?」
「あ、もうバスが動いてるんですか?」
「うん、市のバスが走っとるはずや。この中の人に聞いてみて、どっか三崎の方まで走っとるはずや」

「バスか〜。歩いて行こうかなぁとおもっとってんけど」
「歩かんでいい、いやぁ誰か三崎の方から来とる人おらんかねぇ、、、」

立ち上がって軽トラに乗ってる人に声を掛けそうな勢いだったおばあちゃんを制して、お礼をいう。

「大丈夫や、最悪歩いて行くし。ありがとう。」
「中の人に聞いてみるといいよ,それが一番早くいけると思う、うん。それがいいよ。」
「ありがとうね、そうしてみる。」

バスに乗る気はなかったが、おばあちゃんが言ってくれたアイデアだったから、試してみたかった。
食べ終わったグラタンの蓋を閉め、袋の口を結んで立ち上がった。

「ありがとうございます。お友達、会えるといいですね。」
「こちらこそ、本当にありがとうねぇ、いただくね。」
リュックの紐をキュッとしめて
すずなり館の入り口をくぐった。


能登・珠洲で見たもの~後半~に続きます。

今日もありがとうございます。

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