<野生>のプロジェクトマネジメント――レヴィ=ストロースの哲学からプロジェクトマネジメントを問い直す
従来、対面でのミーティングが当たり前だった時代には、物理的に移動する時間があり、それによって、ある程度「ミーティングではない時間」も存在していました。しかしリモートワークが普及する中で、「1日中隙間なくミーティングが入ってしまっている」という方も数多くいらっしゃるかと思います。
このような状況は、たしかに「合理的」な側面はあり、私も日々、スピーディーに多くのミーティングを行えることの恩恵を感じています。ただ一方で、1時間ごとの枠の中で議題を対処するばかりで、「十分に会話を行えていないのではないか?」と感じることも少なくありません。
かつて、民族学者の宮本常一が書いた有名な話に「寄り合い」があります。
時間やスピードを重視する現代社会の感覚から言えば、これは現実的なことではありません。では時間が許せば、このようなアプローチを取るべきだと考えるでしょうか。寄り合いで行われているコミュニケーション形態が、現代のプロジェクトやプロジェクトマネジメントにおいて持つ意味は何でしょうか。宮本がこれを書いたのは1950年代後半ですが、その時から60年以上たった現代においてこそ、再考しなければならない論点を提示してくれているように思います。
この記事では、上記の問題意識から、プロジェクトマネジメントを他者のメガネ・視座を借りて見つめ直し、プロジェクトを進めるにあたって重要なのは何かを問い直したいと考えています。そのメガネとして用いるのは、宮本と同じ民族学者である「レヴィ=ストロース」です。
レヴィ=ストロースとは
レヴィ=ストロースは1908年生まれのフランスの文化人類学者で、「構造主義」という考え方の創始者です。
レヴィ=ストロースによれば、「構造」は「要素と要素間の関係とからなる全体であって、この関係は、一連の変形過程を通じて不変の特性を保持する」ものであるとされています(レヴィ=ストロース『構造・神話・労働』、p37)。この定義を読むと非常に難しい概念ですが、レヴィ=ストロースは同時に、構造主義を「問題に注目し、接近し、これを取り扱う際の、特定の仕方」である「ひとつの認識論的態度」とも言っています(前掲書、p37)。構造/構造主義については、別の記事であらためて詳細を検討したいと思いますが、レヴィ=ストロースは、このような「態度」からブラジルの先住民族などを調査し、社会の「構造」を明らかにしてきました。
その際の重要なスタンスが、彼の書籍のタイトルにもなっている『野生の思考』です。彼は、先住民族の知識や文化が、私たちが持つ科学的な知識と同等の重要性を持つと考えていました。この点が今回、レヴィ=ストロースを通じて、プロジェクトマネジメントを見つめ直したいと考えた理由であり、本記事のタイトルを「<野生>のプロジェクトマネジメント」としている理由です。
なぜ、レヴィ=ストロースなのか?
なぜ、レヴィ=ストロースを通じて、プロジェクトマネジメントを考えるのか。
その理由は、1つには、プロジェクトマネジメントが前提とする現代社会の常識や価値観から離れた視点を持ってプロジェクトマネジメントを見つめ直してみたいということ、もう1つは、レヴィ=ストロースが提唱した各種の概念が、プロジェクトを進める上で非常に重要なヒントを与えてくれているのではないかということです。
前述の「構造主義」「野生の思考」だけではなく、そのときそのときの限られた道具と材料の集合でなんとかしようとする「ブリコラージュ」や、「贈与・互酬性」――それによって、コミュニティの構造が維持される――などの概念は、「プロジェクトマネジメント」のあり方のみならず、さらにそのプロジェクトが行われる環境/場である「組織」のあり方を考える上で、重要な視点を与えてくれているように思います。
本テーマは今後何回かの連載記事となる予定ですが、上記のようなレヴィ=ストロースが提示したいくつかの概念を参照しながら、プロジェクトやプロジェクトマネジメントについて考えていきたいと思います。
参考文献
クロード・レヴィ=ストロース. 構造・神話・労働―クロード・レヴィ=ストロース日本講演集. みすず書房.
クロード・レヴィ=ストロース. 野生の思考. みすず書房.
宮本常一. 忘れられた日本人. 岩波書店.