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日本の英語とアメリカの英語

先日、日本からアメリカへ小包を発送した際に、日米両方の郵便局で追跡する必要が生じたのですが、これが思いがけず日本の英語とアメリカの英語を見比べる機会になりました。どちらが良いとか悪いとかではありません。「同じ小包の同じ動きを、同じ英語という言語で表現していても、違いがあるんだ」と感じていただけたらいいなと思い、シェアします。

日本の英語とアメリカの英語。同じことを言ってるけど、ちょっと違う。

以下、「郵便局」「Japan Post」「USPS」のそれぞれの列にある表現を「日本語」「日本の英語」「アメリカの英語」とします。

静的な日本、動的なアメリカ

並べてみると、日本の英語とアメリカの英語との違いがよくわかります。印象として、日本の英語は静的、アメリカの英語は動的。日本の英語は名詞が中心、アメリカの英語は動詞が中心になっているからでしょう。

この点は、日本人の英語に詳しい英語ネイティブたちによく指摘されるとおりです。たとえば、トム・ガリー氏は「日本語くさい英語」と呼び、ポール・ウォラム氏は「英語は動詞が好きな言語」と解説しています。


日本語と日本の英語は近い

日本の英語とアメリカの英語が離れているのに対し、日本語と日本の英語はかなり近いことがわかります。こうした特徴は、日本語で考えてから英語にする癖がついている学習者の英語にも見られます。翻訳アプリを使った場合もこんな感じです。

日本の英語は日本語の発想でできていますから、日本語話者にとって使いやすい英語です。学校英語などではこのタイプの英語の完成を目標にしていると思われる面があります。英語ネイティブを含む外国人の多くは「意味がわかればオッケー」と言ってくれるので、これで十分と考えるのは自然なことです。

多文化共生のツールに「やさしい日本語」という外国人向けに調整した日本語がありますが、日本の英語は、いわば日本人向けに調整した英語の一種です。いわゆるネイティブの英語とは別物ですが、「世界にはいろんな英語があっていい」という World Englishes に即した考え方です。この考え方は1980年ごろから広まりはじめ、最近では日本でも教育者を中心に知っている人が増えてきています。

より英語らしい英語を使えるようになりたい学習者は、英語モノリンガルなど日本語を使わない人向けに書かれた英語に触れる必要があります。その英語をじっくり日本語に訳すなどして「英訳しやすい日本語」の感覚を身につけておくと、翻訳アプリを利用する場合にも役立ちます。


生真面目な日本、ざっくりなアメリカ

#3~5の経過を見ると、「国際交換局に到着」「国際交換局から発送」というよくわからない内容が、日本の英語でさらにわからないことになっています。ところが、アメリカ側ではあっさり "Processed Through Facility"。こういう丸め方、通訳をしたことがある人ならピンと来るでしょう。日本語でわからないことは、丁寧に訳せば訳すほど意味不明になります。内容をしっかり理解してから伝えるか、それができない場合はこんなふうに思いきって情報を削るかすると、英語話者に伝わりやすくなります。

このように、日本の英語では書き手・話し手の生真面目さが、アメリカの英語では読み手・聞き手の理解が優先される傾向があります。「もう一伸び」を望む学習者は、こうした違いを踏まえて自分の英語を見直してみるとよいかもしれません。

ちなみに「国際交換局」というのは、ざっくり「税関」みたいなことのようです。そうとわかれば、アメリカの英語は "Arrived at Customs" とか、 "Cleared Security Screening" とかになりそうな気がします。


外来語の使い方

#2の「中継」を "En route" と訳しているのはおもしろいなと思います。もしうちのコがこう書いてきたら、なぜこれを選んだか聞いてみたいです。その答えによっては、セッションの中で少し時間をとって、日本語と外来語の話をするかもしれません。

"En route" は英語の中でよく使われるフランス語からの借用です。ここで使っても問題ありませんが、特に意図がなければ "In Transit" でいいような気がします。


さいごに

日本の英語とアメリカの英語はちょっと違います。繰り返しますが、どちらが良いとか悪いとかではありません。

日本の英語は、日本語の発想がそのまま使えて便利です。さらに、日本語で書かれた本やサイト、日本の街で見かける案内、アプリの翻訳結果など、身近なところに例がたくさんあるので学びやすいです。日本国内で使うなら、相手も日本の英語に慣れている可能性が高いですから、手軽に「通じた」という経験を積むことができるでしょう。

一方、より英語らしい英語を身につけたい人は、日本の外に目を向け、自分が使いたいと思うタイプの英語を積極的に取り入れる必要があります。「まずは日本の英語をマスターして、それから次の段階へ進む」という考え方もありますが、もしすでに目標が定まっているなら、日本の英語は飛ばしても構いません。

大切なのは「自分が何を、どこまで学びたいか」。それさえ決まれば、学びの材料や道具は日常生活の中にいくらでも転がっています。


Joel Moysuh on Unsplash

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