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文法学習から文字をとっぱらって、感覚に働きかけてみよう
英語の文法というと、板書や教科書の文字を見て、それを読んだり書き写したりしながらルールや型を覚えていくもの、という印象を持っている人が多いようです。学校や塾、英会話スクールはもちろん、英語系YouTubeでも広く取り入れられている超メジャーなやり方だからでしょう。
そのやり方で文法がよくわかるようになった人は、そのまま続けてもらって構いません。でももしそのやり方が合わず、たとえば「文法が苦手で英語が嫌い」というような人は、やり方を変えてみる必要があるかもしれません。また、「英語は得意だけど、ところどころ文法が危うい」という人も、違うやり方で学ぶとわかるようになる可能性があります。
Kamiya English Coaching および私が担当する大学の授業では、文法説明で極力文字を使わないようにしています。理由は上述したとおり、世の中のほとんどの文法学習が文字で埋め尽くされていて、それがどうやら万人向けではなさそうだと感じるからです。いつの時代も教室の黒板・ホワイトボードには文字がびっしり並んでいます。私自身もそうやって文法を学んできました。でも、英語学習者は私のように文字との相性が良い人ばかりではありませんから、別のやり方が合う場合もあるはずです。
そもそも文法は文字ナシでも学べます。世界の言語のうち、文字のある言語は少数で、ほとんどの言語は音のみで成り立っているのです。もし文法を学ぶために文字が必須だったら、文字のない言語を使う人々は文法を共有することも、次世代に引き継ぐこともできなくなってしまいます。
外国語の文法学習に文字が重宝されているのは、それが便利でわかりやすいと感じる人が、特に教える立場の人に多いからでしょう。言語学者や言語の先生は文字に親しんでいる人が多いですから、文字以外の方法を必要としていないのかもしれません。学問的に文法を体系化し、記録を蓄積、分析するためにも、文字化して書き残すのは大変有効な手段です。
でもこれ、言語を使えるようになりたい学習者には、あまり関係のない話です。文字を見るとうんざりするタイプの学習者にとっては、文法学習が文字だらけだと言語を学ぶハードルが上がってしまいます。
文字を多用する学習には弊害もありそうです。板書をきれいに写すとなんとなくわかったような気になりますが、本当に理解して aha! を体験する瞬間には文字が介在していないことが多いものです。また、日本の英語学習には訳読のイメージが強いですが、これも文字中心の学び方が影響しているでしょう。そういえば日本には「読み書きはいいけど話すのは…」という英語学習者がたくさんいますね。
いわゆる受験英語において文法は「数学の公式のようなもの」と言われることがあります。出題傾向をもとに対策すると、ルールを暗記して、そこに単語をあてはめれば正解となって得点につながりますから、それが賢いやり方とされているのでしょう。しかし、一部の人工語を除いて、実際の言語はそんなふうに文法ありきで使われているわけではありません。文法とは、人々が自然に使っている言語を記述して、パターンを抽出したもの。だからネイティブスピーカーなどは言語を使えても、普通は文法の詳しい説明ができません。その言語を使う人々がスッと理解できれば文法的に ”正しい” とされ、「なんかおかしい」と感じれば ”正しくない”。文法は大いに感覚的なものなのです。
学校で英語が苦手だった大人の学習者が、この「感覚に働きかける文法」に触れると英語に対するイメージがゴロッと好転することがあります。KEC ではおなじみのやり方ですが、今春以降は受験英語を乗り越えたばかりの大学1年生たちにも体験してもらうことができました。学生たちの感想はこんな感じでした。
説明を聞いてそれぞれの特徴をイメージでつかむことができた。空間のイメージに結び付けると理解しやすい。
文法を感覚的につかむ方法を学び、イメージしながら取り組むことで理解しにくいこともすんなりわかるようになった。
高校までは勘で使っていたけど、今度はなんとなくわかりました。けど、まだ咄嗟に言われた時に答えられない気がするので、もう少し例文をみて使い方を調べてみたいです。
よくwritingやspeakingのときに間違ってるのかなと気になって悩むことが多かったのですっきりしました!
高校のとき分からなかった違いがようやく分かった。高校時代つかっていた参考書などを用いて文法や語法について学びなおしたい。
未来予想しながら文法を学習できたのが面白かった。ここの文法はとても苦手としていたので改めて学習し直せてよかった。
高校のときに習ってからずっとモヤモヤしていたものが解消されてすっきりです。ありがとうございます!
というわけで、文字を減らした英語文法の学び方をご紹介します。学習者が試す場合、一人では難しい部分がありますので、信頼できる英語の先生やコーチの力を借りてください。手順は以下のとおりです。
使いたい気持ちを高める
イメージする
使ってみる
例に触れる
使う
もっとも重要なステップは使いたい気持ちを高めることです。これを飛ばしてしまうと、後の工程は薄っぺらで機械的で無味乾燥になり、脳は学んでくれません。たとえば時制を学ぶなら、昨日起きたことや小さい頃の話を「聴いてほしい」と思うこと。分詞構文なら、複雑な事柄を「パキッと端的に表したい」と望むこと。学習者それぞれが、どんな場面で、どんな相手に向けてそう思うかまで具体的に考えます。文字は必要ありません。
使いたい気持ちが高まったら、それを叶えるために文法を登場させます。構造ではなく、まずはその文法によって表現できることをしっかりイメージします。このとき、自分が発信することだけでなく、ネイティブスピーカーなど、その言語を使う人々が当たり前に念頭においている感覚を想像しておくと、リスニングや読解にも良い影響をもたらします。ここでも文字は必要ありません。
イメージができたら、さっそく使ってみます。文法的に ”正しくない” ものや、文脈に合わないものも歓迎します。ここで間違えておくと ”正しい” 文法に対する理解が深まり、かえって学習効果が高くなるからです。口に出す場合は文字不要ですが、書いた方がよいと思う人は文字を使ってもOKです。
ここで気をつけたいのは、目標とする文法項目に絞ってブレないようにすることです。たとえば昨日の行動を説明しようとして「I goed* school yesterday.」と言ったとしても、過去のイメージをもって「-ed」を付けているのですから上出来です。ここで不規則変化や前置詞を気にして “ついで学習” が始まると、せっかく1. 2. のステップで作った気持ちやイメージが消えてしまいます。*ちなみにこの現象は overregularization(過剰一般化)と呼ばれ、母語の発達段階でも見られます。
使ってみて、間違えたり迷ったり、言えたり言えなかったりした後、いよいよ例に触れます。上に引いた学生たちの感想にも表れているように、ここまで来ると学習者は例を見たくてウズウズしています。学習者側の学ぶ態勢が整ったこのタイミングで文字を ”解禁” すると理解がグッと進みます。教科書、文法書、サイト、動画など、好みのもので構いません。目標とする文法が使われている例をどんどん探しましょう。なるべくいろんな場面、文脈で使われているところを目撃して、「なるほど」と思える体験をたっぷりしておくと、後々自信をもって使えるようになります。
使い方と使いどころがわかったら、あとは使うのみ。実際に使えたらその喜びを誰かと共有して、成功体験をしっかり記憶に留めておくようにしましょう。
Photo by Ryan Wallace on Unsplash