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CALL教室はオンラインとオフラインのいいとこどりだった

大学では CALL 教室を使わせてもらっています。CALL とは Computer Assisted Language Learning のことで、日本語では「コンピュータを使った語学学習」か「語学学習支援システム」と訳されることが多いようです。

言語教育の用語としては知っていましたが、実は私は CALL が採用されている教室を見たことがありませんでした。今年4月、授業初日の前夜に上司のA先生にお願いして自分が使う教室を見せてもらい、その仕組みや使い方をはじめて知りました。

15年ぶりに教壇に立つ私にとって大きな心配のひとつは「オフライン/対面で学びを届ける」ということでした。コーチングセッションや講座など自分がホストになるものはもちろん、研修やセミナーなどを受講する場合でも、私が関わる学びの場はほぼすべてオンラインだからです。コロナ禍に学校の先生方が急にオンライン仕様を強いられて苦戦されているのを遠目に見ていましたが、その反転現象が数年遅れで私のところへやってきたと思いました。

はじめて足を踏み入れた CALL 教室には、正直、圧倒されました。70台以上のモニターが背を向けて整然と並ぶ光景。そして “センセイ席” には3台のモニターと操作パネル。A先生には主電源の入れ方からパネルと画面ボタンの使い方、ケーブルやマイクの在処と接続の仕方、音量の調整方法、学生用パソコンの管理まで丁寧に教えてもらいました。教室を出て、鍵をもらう課やコピー室までの迷子になりそうなルートを案内してもらう頃には、もう私の頭はパンパンで破裂しそうでした。こんなにいろんなことを一度で覚えるなんて無理。そして翌朝からはそれらを一人でこなした上で授業を行うのかと思うと心細さは恐怖になりました。「新人なんだから、せめて普通の教室にしてほしかった」と泣きたくなりました。

これから CALL 教室を担当する方は、ここまでの予習を早めに済ませておくことをお勧めします。私は諸事情により前夜になってしまいましたが、それでも当日ぶっつけ本番よりはずっと良かったです。「事前に一回、教室を見ておいた方がいいよ」と助言してくれた友人で先輩のMさんのおかげです。

そんな感じで第一印象は最悪だった CALL 教室ですが、実際に使いはじめると操作は簡単、便利で快適で、すぐに慣れることができました。特にセンターディスプレイはオンラインでいうところの画面共有なので、ものすごくありがたいです。たとえばスライドの文字は通常の画面サイズで用意すればいいし、ウェブサイトや教科書のデジタル版から見せたいところを拡大するというようなことも自在にできます。オンラインで同じようなことをやると、学習者側のパソコンが固まったりZoomが落ちたりしがちですが、教室内のシステムなのでなんでもサクッと共有できます。動画を横目に学習者それぞれがパソコン操作するのも普通にできるので、たとえばディクテーションやメモ取りなどの聞きながら書く練習をさせる場合もラクラクです。大人の学習者がこの環境を整えるにはパソコン複数台と高速インターネットを自分でそろえなくてはなりません。学生のみなさんにはぜひ存分に enjoy(享受する、満喫する)してほしいと思います。

また、マルチモニタでは学生側のすべての画面が常時見えているので、オンラインのときのようにいちいち共有してもらう必要がありません。指示したページやフォームがちゃんと開いているか確認したり、学習者の情報収集や辞書を引くスキルを観察したりなどが簡単にできます。小テストやライティングでは、各学習者がどこにどれくらいの時間をかけているか、止まっているか、書き終わっているかなどをチェックできて便利です。

教室に慣れ、自己流である程度使えるようになった6月、たまたま CALL を開発・販売している会社の担当者がハンズオンで説明してくれる機会があったのでチラッと参加してみました。学習者同士をつないでペアやグループ学習をさせる機能は「ブレイクアウトルーム」、メッセージ送信は「チャット」など、勝手に“オンライン語”に翻訳しながら説明を聞いていました。それだけ CALL 教室とオンラインセッションには互換性があるということでしょう。

CALL とオンラインは、教師の指向が浮き彫りになるという点でも似ていると思います。指向とは、たとえば授業の中で学習の完成度を高めることを目指させるか、そこで学んだことを現実の社会や日常生活で生かすように促すか。楽しく学ぶか、苦しくても我慢するか。これらは学習者に与える情報や課題、アクティビティの内容に影響します。もちろん教師の考え方の違いはどんな教室でも見られますが、CALL では学習者が自分の手を動かして使える道具が多く、個別学習とも相性がよいので、教師が学習者をどの方向に導こうとしているかがよりよく表れるように感じます。私にとっては、たとえば黒板や紙ベースの教室より CALL の方が授業や課題をデザインしやすいのですが、これは私がオンラインの広さと自由度を教室に持ち込むことができているからかもしれません。

そのうえ、CALL 教室にはオフライン/対面の利点もあります。ちょっとしたペアワークはすぐ実施できるし、そこから全体に戻すのも一瞬ですから時間のロスがありません。ディスカッションではペアやグループが盛り上がっているか、会話が続かず静かになっているかも一目瞭然。近づいていって聞き耳を立てたり、会話に混じって薪をくべたりするのもオンラインよりうんとさりげなくできます。あちこちで学習者たちが同時にしゃべっているのに全然うるさく感じないのは、人間の耳の優れたところでしょう。ゲームの時はグループごとに集まって作戦会議をし、勝てばメンバー同士でハイタッチ。この空気感や場のエネルギーは、今後技術がいくら進歩してもオンラインではなかなか出せないだろうなと思います。

そんなこんなで、久々のオフライン/対面におびえていた私は、意外にもはじめて出会った CALL 教室に救われました。というかこれ、別に言語以外でも学習全般にめっちゃ使えるじゃん?と思っています。Computer Assisted Language Learning。他分野の先生方、ご検討ください。笑


Photo by RUT MIIT on Unsplash

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