1%と99%の間の可能性が実現した夜 ー『まつもtoなかい』中居正広・香取慎吾共演を見て
2023年4月30日。新番組『まつもtoなかい』(フジテレビ)の初回ゲストとして出演した香取慎吾さんとMC・中居正広さんの共演は、約一週間前にその情報が公開された直後から大きな注目を集め、放映時にはわずか数分後にTwitter世界トレンド1位を記録するほどの反響を呼んだ。
また視聴率調査によれば、一般的にテレビ離れが進みリアタイをすることも少ないと言われる若年層を含むコア層(13~49歳)の支持を、同時間帯の番組の中で最も集めたこともわかっている。
その共演はSMAP解散後の2017年4月22日に、中居さんが香取さんがMCを務める『SmaSTATION!!』(テレビ朝日)にゲスト出演して以来約6年、実に2199日ぶりのことだった。
また同番組は前半のトークコーナーに続き、後半では話題のアーティストをMCの二人に紹介するという形式でのパフォーマンスコーナーという二部構成だが、その後半部分での香取さんの『BETTING』(韓国の人気グループ・SEVENTEENとのコラボレーション曲)の実演が、2016年12月の『SMAP×SMAP』最終回以来、実に7年ぶりの民放での楽曲披露となった。
当然のことながら番組はその話題性、稀少性から放送後も多くの関心を呼び、番組放映直後の香取さんのツイートへのコメントは8500件、表示は896万件(5月1日9時半時点)を超え、動画配信サイトTVerの総合ランキングでは、5月2日午前の時点でバラエティ番組としては異例の1位をキープし、これが瞬間的な反響に留まらないことを証明した。
この「世紀の」共演についてはファンのみならず、「特別にファンではないが」と注釈を付けた一般視聴者、芸能人、業界関係者など、幅広い層が話題とし、その声のほとんどが二人の「再会」を歓迎する肯定的なものだった。
もちろん私もこの間ずっと彼らを応援してきた一人として、この共演を待ち望んできたし、「やっとここまで来た」という特別な感慨を持っている。
しかしその一方で、ただ嬉しいだけではない複雑さとやるせなさ、そして消すことのできない怒りがあることもまた否定できない事実だ。
それは一言で言えば、
なぜ、この共演に6年もの時間がかかったのか。
なぜ、民放での楽曲披露に7年もの時間がかかったのか。
そして
彼らを巡るテレビは、本当に変わったのか。
ということに尽きる。
かつて中居さんは自身のジャニーズ事務所からの独立発表会見で、先に独立したかつての仲間たちとの共演の可能性を問われて、こう答えている。
この言葉についての感想を、私は当時noteにこう書き留めた。
今回の共演が特に業界内においても、これだけの反響と注目を集めるということ、それ自体がこの時の中居さんの言葉通り、テレビ業界においては未だ「ジャニーズ事務所を辞めた、かつて同じグループ所属のタレント同士の共演は『非常識』と呼べるようなレアケースである」ということの証である。
そして今回の共演が、そのテレビの中の「非常識を常識化」するための第一歩であることは間違いないのだろう。
しかし今回あらためて思わされるのは、そもそもそのように業界で常識とされている「ルール」自体の「非常識さ」だ。
『まつもtoなかい』内での中居さんと香取さんの会話によれば、二人は解散、独立後も連絡を取り合う仲であり、一時一部メディアがさかんに喧伝したような「不仲」が、彼らの共演を妨げる原因ではなかったことは明白だ。
また香取さんは番組内で、解散後の彼らに「テレビに出続ける」道か、「テレビに出られなくなる」道のどちらかを選択せざるを得ない状況があったことを明示した。
そして後者を選んだ香取さんが実際になかなかテレビ出演を果たせず、その中でも特に民放音楽番組での楽曲披露が、この新番組で実現するまで叶わなかったことを吐露している。
香取さんに、それにふさわしい実績がなかったからではない。
いみじくも番組内でも紹介されたように、2020年発売の1stアルバム『20200101』はアルバムチャート1位、今回披露された最新曲『BETTING』は配信チャート10冠を記録しているし、しかも『BETTING』はこの番組と同じフジテレビ系列で2023年1月期に放映されて話題を集めた連続ドラマ『罠の戦争』の主題歌でもある。
何より香取さんは、そのキャリアの中でSMAPとしてもソロとしても複数のミリオンセラーのヒット曲を持つ歌手だ。
それなのにこの7年もの間、民放の既存音楽番組は一度も香取さんを出演させることはなかった。これについては番組を見た視聴者からも疑問の声が上がっている。
番組内でも当然のように語られた「ジャニーズ事務所を退所をするとテレビに出られない」「民放音楽番組に呼んでもらえない」ということ。
業界内のみならず、いつのまにか視聴者の私たちにとってでさえ、長年「常識」のように受け入れられたきたそれこそが、むしろ変えられるべき「非常識」であることに私たちはもう気づいている。
間違いなくテレビでの実績は彼らが積み上げてきた主要なキャリアの一つなのに、解散後、それと何かのどちらかを選ばなければならない選択を迫られたということ。 どう考えても、その選択肢の設定自体が理不尽で非常識だと思う。
中居さんの言葉を借りるならば、もはや「(業界の)非常識を(一般社会のルールに沿って)常識化」することが求められている。
二人の共演を、まるで一般視聴者のように無邪気に喜んでいるテレビマン諸氏は、果たして自分たちに課せられている課題にどれだけ真剣に向き合っているのか。
二人から、そしてこの再会を心から喜ぶ多くの視聴者から、6年あるいは7年という長い時間を奪い取って来たその「罪」をいかに償うのか。
今回の『まつもtoなかい』に現われたテレビの「変化」の兆しの真価が問われるのは、むしろこれからだ。
いみじくもジャニーズ事務所創業者であるジャニー喜多川氏の未成年者への性的虐待問題を巡るテレビ報道の在り方が社会問題として問われている今、その「崖っぷち」を、肝心のテレビの「中の人たち」はどれだけ自覚しているのだろう。
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