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「オトナの事情」なんて知らない ー「SMAPの映像」がトレンドになった日

2022年10月5日。Twitterの「音楽・トレンド」に、午前中からほぼ一日にわたって一つのワードが上がった。

「SMAPの映像」

クリックしてみると、そのほとんどが某署名サイトで行われているキャンペーンのRTだったが、そこから派生したその他のツイートも次第に増えていった。
当該キャンペーンの主旨は、地上波テレビ番組で不自然にも流れない「SMAPの映像」を、きちんと映して欲しいというものだ。
私もこのキャンペーンに気づいて拡散した一人だが、キャンペーンの内容自体には、例えば署名提出先の明記がない等の不備も多いことについて問題視する声が上がり、私もRTを取りやめた。
そのような人は多かったはずなのだが、それでも「SMAPの映像」はいつしか「#SMAPの映像」というハッシュタグになってトレンドに残り続けた。
恐らくその頃にはキャンペーンとは無関係に、そのワードに触発されたツイートが増えていたのだろうと思う。
それは、例えばこのような内容だ。

実際、特に最近の音楽番組では不自然にSMAPの映像が流されないという事態が続いている。

実はSMAP解散後、稲垣吾郎さん、草彅剛さん、香取慎吾さんのキー局地上波テレビ番組出演が極端に少なくなったことに比べると、SMAPの歌唱映像に関しては音楽番組でも流れることがあり、そこではもちろん三人の姿も映し出されていた。
余談だが、この時期のテレビ東京ではしばしば脱退した森且行さんも含めた6人のSMAPの歌唱映像が放送されていて、ファンから「テレ東はSMAP解散を知らない!」と感謝を込めたリアクションがあったほどだ。

しかし、2019年7月の公正取引委員会による「注意」以降、三人の地上波テレビ番組出演の機会が徐々に増えていったのとまるで反比例するかのように、それまで流れるのが当然だったような場面で、SMAPの映像が流れないということが増えてきた。
これまでは音楽の特集番組で一貫してSMAPの過去映像を放映してきたテレビ東京でさえ、2020年6月に放送された「テレ東音楽祭2020夏」以後、ソロを除くSMAPの楽曲を一切取り上げなくなったのだ。
一方でこのような音楽番組では、彼らと同じくジャニーズ事務所を退所している複数のタレントの映像は流されていることを考えると、これはとても奇異に映る。
こうした異変にファンは徐々に気づき始めていたが、直近の出来事は、それを確信へと変えるものだった。

2022年9月5日にTBS系列で放送された『CD TVライブライブ』では、2000年9月のランキングを紹介するコーナーで10位~4位までは歌唱映像を流し、3位『慎吾ママのおはロック』(慎吾ママ)と2位『らいおんハート』(SMAP)は、ランキングに映し出されているにもかかわらず何の説明もなく飛ばされて、いきなり1位の紹介映像になった。

続く、9月27日に日本テレビ系列で放送された『解禁!音楽番組名シーンランキング THE神うた』という番組では、SMAPの名前も映像も出なかった。
この番組については「日本テレビの数々の音楽番組・音楽コーナーをお届けしてきた69年の歴史のなかで起こった今こそ観たい!!二度と見られない伝説の名シーン=神うたを厳選し、ふんだんにお届けする番組です」と説明されていたので、一部にはSMAPが日本テレビ音楽番組への出演が少なかったからだという声も見受けられた。
しかし同局では1995年から2015年という長きにわたり、毎年12月のクリスマス期間に『さんま&SMAP!美女と野獣のクリスマススペシャル』という冠番組を放送しており、そこでは必ずSMAPの歌唱シーンがあったため、それらの映像が流れることが期待されても何ら不思議ではない。
そして『神うた』が放映されていた時刻から、Twitterのトレンドには「SMAP」が上がり始め、その内容のほとんどが同番組でSMAPが取り上げられないことへの疑問と、SMAPへの映像への期待だったことを考えると、自社で保有している映像があり、なおかつ視聴者ニーズも見込まれるはずの「SMAPの映像」に対するこの番組側の対応は不可解としか言いようがない。

この出来事については、このようなネット記事にもなっている。

記事の中で「ワイドショー番組デスク」という人物が「SMAPの過去映像の放送や再結成」について話したと言う言葉がこれだ。
『残念ながらないでしょう。“オトナの事情”は根深いですからねえ。いつか双方が歩み寄る日も来るかもしれませんが、それにはまだ相当な時間を要すると思います。』

このような言葉から想像されるのは、以前公正取引委員会が「注意」を行なったような前事務所とテレビ局との間の「忖度」関係や、「SMAPの映像」の権利許諾にまつわるあれこれだ。
しかし問題なのは、それが果たしてグループとしての活動期間25年間のほぼ全てで「テレビの中」に存在し、その影響の大きさは誰もが認めるものであり(例えば、テレビ朝日系列『あなたが選ぶ平成ニッポンのヒーロー総選挙』1位はSMAP)、『世界に一つだけの花』という平成最大のヒット曲をはじめとして、数々のヒット曲とその歌唱映像が各局に残っているはずのSMAPが、まるでなかったもののように扱われることの根拠になり得るかということだ。
しかも、それすらテレビ局がきちんと説明したわけではないにもかかわらず視聴者側がまるでテレビ局側に「忖度」して、「今は別々の事務所にいるので、数十秒のためにあちらこちらに許可を取るのは面倒なのだろう」「テレビの中の人も本当は映したいんだろうが、前事務所のタレントが出演しているので難しいのだろう」などと、まさに「オトナの事情」を察してあげている。そんな今の状態は、はっきり言って異常だと思う。

前述の「ワイドショー番組のデスク」の言葉にある通り、この件に関する言説の全てが事務所やテレビ局とタレントとの間の話だけになっていることにも強い違和感を感じる。
一連の流れの中で、いなかったものとして扱われているのは彼らだけではない。それは同時に、彼らを求める大勢の人の声も存在もいないものとされていることを意味する。リクエストを募りながら、応える声と無視する声とを最初から分けている。それは全く聞かれないよりも心を削られる。

SNSを見れば、特別にファンじゃなくても、そこにSMAPがいることで安心したり幸せを感じていた人たちがいる。
それは彼らが長年、たくさんの人たちの日常に当たり前に存在してきた証だと思うし、それを奪う権利なんて本当は誰にもないはずだ。
それなのにこの件について語られる時、一貫してこの観点が抜け落ちる。そこではいつも視聴者(ファン)の存在が無視されている。

今回「SMAPの映像」が話題になったことで、一部には「確かに出られなかった時期もあったけど、今はよく見かける。消されていないじゃないか。」という声もあった。それは今でも彼らを見れば、「SMAP出てるじゃん」と感じる人が多いという証でもあり、皮肉でもある。
しかし2016年以降、ずっと彼らの活動を見守って来たファンからすれば、それは事実ではない。「SMAP」というグループの存在は、誰かの言葉の中でまるで「伝聞」のように語られることはあっても、その実態を映し出す映像という意味では明らかに消されている。

また、「活躍できるようになったのだから、過去のことはもういいじゃないか」という声も見る。彼らが活躍すればするほど、特別にファンじゃなければ、実情は見えづらくなっている。「活躍してるね、良かったね!」という善意は、だったら過去のことは「もういいじゃん」と紙一重だ。
しかし本当にそうだろうか。
そこに確かにあったものをなかったもののように扱うこと。そうやって私自身がこの目で見、聴き、経験してきた歴史が、今現在進行形で歪められていくことを、私にはどうしても許すことができない。それは同時に、私にとって大切な記憶や思い出が歪められ、蔑ろにされ、すっぽりと抜け落ちることでもある。
あるファンの方が「SMAPだから、ということではなくて。誰だって『存在を無きものにされる』ことなんて許されることじゃない。肖像権やら著作権やら権利を主張するのなら、人権という権利についてはどうなんだ?って思う」と書いておられたが、私も全くその通りだと思う。

消そう消そうと必死になるほど消えずに益々存在感を発揮して、シブトクつよく、決してはだかの王様ではなかったことを自分たちの手で証明した人たち。
それは本当に素晴らしいことだし、彼らを応援してきて良かったと心から思う。
しかし、だからといって今と未来と引き換えに、過去の存在そのものを消していいはずがない。それなのにメディアが結託すれば、簡単にそれができてしまうということが私には怖ろしい。
頼れるのは多くの人に刻み込まれた記憶と、違法アップロードの記録だけという現状の理不尽さを、どうか多くの人に知ってほしい。心からそう願う。


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