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「黒塗りSMAP」の何が問題なのか

2024年6月17日、フジテレビ系列で再放送されたドラマ『古畑任三郎』で、同ドラマに出演していた中居正広さん、木村拓哉さん、稲垣吾郎さん、草彅剛さん、香取慎吾さんの顔写真が「黒塗り」されるという「事件」が起きた。

後日、フジテレビの矢延隆生専務取締役は定例社長会見で「当社の放送対応で視聴者の、関係者の皆さまにご迷惑、ご心配をおかけいたしました。制作の詳細についてはお答えを控えさせていただきます」としつつも、「黒塗り」に至った経緯については「事務所からの要望ではありません」とし、「TVerでは加工せずに配信することになりました」と報告した。

確たる理由もなく出演者の顔を「黒塗り」したとなれば、これは著作権者であるフジテレビによる、他の権利者に対する優越的地位の濫用、独占禁止法違反が疑われる事案である。
もちろん言うまでもなく、個人の顔を「黒塗り」して消すという行為そのものが悪質な人権侵害として道義的・倫理的に問題があることは明白であり、公共の福祉を掲げた放送法に抵触する可能性も高い。
それでは「確たる理由」があれば良いのか、というと、それも甚だ疑問だ。それはここで推測できる「理由」のどれを取ってみても、やはり今回の「黒塗り」行為の問題性に変わりはないからだ。

例えば、今回のフジテレビの「黒塗り」の理由としては、以下が想定できるだろう。

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◆理由1:権利者からの許諾が得られなかった
これには、
 (1)出演者からの不許諾
 (2)肖像権の権利者からの不許諾
の二通りが考えられ、さらに(1)には①出演者全員と②一部の出演者の二通りが考えられる。

◆理由2:フジテレビにとっては「そのまま放送」することよりも「黒塗り」する方がメリットがあった
もしくは
「そのまま放送」することによるデメリットやリスクを回避する必要があった
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理由1について。
(1)の場合、①の可能性はゼロではない。しかし、ドラマ『古畑任三郎』に関しては、SMAP全員が犯人役を演じたスペシャル回も今回の再放送が叶っておらず、仮にその理由に①が関連しているとすれば、5人が許諾をしないことによって著作権者のフジテレビ及び他のドラマ出演者や制作関係者が、SMAP出演回が放送されることによって本来得られるはずの利益を損なっている訳で、そうなると、SMAPメンバーによる他の利益者に対する優越的地位の濫用の可能性が出てくる。
また②の場合には、これに加えて他のメンバーに対する優越的地位の濫用ともなるので、どちらにしても問題がある。
(2)の場合、現在5人の肖像権の所有者が誰であるのかが視聴者からは見えないが、たとえそれが誰であれ、明確な理由なく許諾しないことで他の権利者の利益を損失するのであれば、これもまた優越的地位の濫用である。
ゆえに、上記について優越的地位の濫用の指摘を回避したいのであれば、それぞれ不許諾についての合理的で明確な理由が明らかにされる必要があるだろう。

理由2について。
「黒塗り」することで生じるフジテレビのメリット、あるいは「そのまま放送」することのデメリットやリスクについては、現段階では判然としない。
ただし、先の会見でわざわざフジテレビ側が「(肖像権者であることが予想される旧ジャニーズ)事務所からの要望ではありません」と弁明しなくてはならなかったように、今回の「黒塗り」事案でも、これまでにフジテレビ自らが検証し、「あった」と認めてきた旧ジャニーズ事務所との癒着構造が背景にあることを疑う声は多い。

フジテレビは旧ジャニーズ事務所創業者による性虐待問題を受け、2023年10月21日に特別番組『週刊フジテレビ批評特別版~旧ジャニーズ事務所の性加害問題と"メディアの沈黙”』を放送。編成制作局、報道局、情報制作局に在籍経験がある社員や元社員に聴き取りを行った結果を公表したが、そこでは報道や番組制作の面で、旧ジャニーズ事務所に対する配慮や忖度があったことなどが明かされていた。

そもそもなぜそのような配慮や忖度があったかと言えば、これは他社の事例ではあるが、2019年に公取委による「注意」が行なわれて以降も「この1年の間にも、(前ジャニーズ事務所社長の)ジュリー氏を通してキャスティングを巡る圧力が番組にあった」(2023年10月14日『【報道特集】ジャニーズ事務所とTBSの関係 性加害問題 報じなかった背景』(TBS)ほか)という証言からも明らかな通り、実際に前ジャニーズ事務所の意に沿わない対応をすれば、テレビ局が不利益を被るというリスクがあったからである。

仮に今回の「黒塗り」においても、このような「配慮や忖度」が働いたとするならば、これはとりわけ深刻な問題である。
なぜならそれは、長期間にわたる重大な性虐待問題を引き起こした遠因でもあるこのような支配構造や癒着構造が、今なお是正されることなくテレビ局内に残存していることを意味しているからだ。

一方で、そのような「配慮や忖度」は一切なく、「黒塗り」に何のメリットも、そして黒塗りせずに「そのまま放送」することに何のデメリットもなく、もちろん不許諾も含め、その他の確固たる理由もないにもかかわらずフジテレビが「黒塗りSMAP」を放送したのだとしたら、それは前述の通り、独禁法においても、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする放送法においても、そして公序良俗の観点からも明らかに問題がある。

ここまで見てきてわかるように、この「黒塗り」がいずれの理由で行われたにせよ、そこに何らかの「違反行為」が指摘される可能性は極めて高い。
だとするならば、公共の電波を利用しているフジテレビには「制作の詳細についてはお答えを控えさせていただ」く権利はなく、むしろあるのは放送事業者としての説明責任である。それができないのであれば、フジテレビは直ちに免許を返上すべきだ。

少なくとも、これは単なる「芸能スキャンダル」などではない。
独占禁止法、放送倫理違反が疑われる事案であり、第三者による早急の調査・検証を必要とする、明らかな社会問題である。



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