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それでも今「20160118」を検証しなければいけない理由

2019年7月17日、ジャニーズ事務所に対する公正取引委員会の「注意」をNHKが速報で報じた時、事務所とNHK、民放各局は疑われているような圧力、忖度の存在をこぞって否定した。
公取委による「注意」とは、違反行為の未然防止を図るために取る措置で、違反行為の存在を疑うに足る十分な証拠は得られないものの、「違反に繋がる恐れがある行為」が見つかった場合に講じられるものである。
この時公取委が問題視したのは、事務所が一方的な契約を結んで芸能人の独立や移籍を制限することだった。
「独立や移籍の制限」と言えば、誰もが思い浮かべる出来事があるにもかかわらず、事務所もテレビ局もそれには一切触れなかった。
そう。それは2016年1月18日、独立を画策したと言われるSMAPのメンバーが、テレビの生放送で事務所社長に謝罪したように見えるあの出来事だ。

2023年。
旧ジャニーズ事務所創業者ジャニー喜多川氏による性虐待問題を受け、フジテレビは10月21日に特別番組『週刊フジテレビ批評特別版~旧ジャニーズ事務所の性加害問題と"メディアの沈黙”』を放送。編成制作局、報道局、情報制作局に在籍経験がある社員や元社員に聴き取りを行った結果を公表したが、そこでは報道や番組制作の面で、旧ジャニーズ事務所に対する配慮や忖度があったことが明かされた。
また同時期に「検証番組」を放映したTBSは、2019年の公取委による「注意」以降も、「この1年の間にも、(前ジャニーズ事務所社長の)ジュリー氏を通してキャスティングを巡る圧力が番組にあった」(2023年10月14日『【報道特集】ジャニーズ事務所とTBSの関係 性加害問題 報じなかった背景』(TBS)ほか)という証言を明らかにしている。それは旧ジャニーズ事務所の意に沿わない対応をすれば、テレビ局が不利益を被るというリスクが確かにあったことを意味している。
つまり、2019年当時は各局がこぞって否定してみせた「疑われているような圧力、忖度の存在」が、実際には「あった」ということである。

そして2024年。
10月25日に放映されたNHK『首都圏情報ネタドリ!』は、あの「20160118」を「事務所とタレントのいびつな関係」と「事務所の意向をメディアが過剰に受け止める構造」という文脈で取り上げた。

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昨年の検証番組で「旧ジャニーズ事務所に対する配慮や忖度があった」と明かしておきながらも、同番組内であの「公開謝罪」の検証がなかったことを問われたフジテレビの港浩一社長は、その後の定例社長会見で「番組制作においては、通常出演者サイドと相談しながら、制作担当者が内容を決めている。あの放送については、解散がささやかれていた当時の状況を考えて、SMAPの5人が視聴者の皆さんに番組内で直接メッセージを出すというのが自然なことと考えて放送した」と語っている。

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しかし、『ネタドリ!』での鈴木おさむ氏の証言を見れば、そして、検証で明らかになっている同局と事務所の関係性を鑑みれば、それを「状況を考えて自然」だとは到底言えないことは明らかだ。

それにしても、2016年の出来事がなぜ今取り上げられるのか。
その理由の一つは、現在公正取引委員会が芸能事務所全般に対して実施している実態調査と関連している。
同番組にも出演した公取委取引調査室の片岡克俊室長は、番組内で「仮に、独禁法上、問題な恐れのある行為があるというのであれば、それは報告書や指針の中で指摘をして、実演家(芸能人)の方により一層活躍いただけるような環境の整備に貢献していきたい」と語り、年内をめどに報告書を出し、今後ガイドラインを作成するとしている。

また、2024年6月21日に政府が閣議決定した『新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2024年改訂版』では、「クリエイターが安心して持続的に働ける環境の整備」という項目で「優越的地位の濫用防止等と取引適正化」を謳い、公正取引委員会の協力の下で「実演家・クリエイターの事務所移籍に際して、移籍前の事務所が在籍当時の過去素材の権利を所有し続ける場合、その許諾を拒否することで、その利用を妨げ、事実上、移籍後の仕事をできなくするといった慣行が見受けられないか、調査を行う」との文言もある。

このような行政の動きと照らし合わせると、2016年には芸能分野でのこうした取り組みが未着手だったために見逃された「公開謝罪」が、今だからこそ俎上に乗ることになった理由が理解できるだろう。
2019年に「注意」が出されるような構造があり、それがそれ以降も続いていたことを考えると、まずはそれが2016年と地続きかどうか、そして果たして現在はきちんと是正されているのかを検証することは重要である。
実のところ、SMAPを巡っては現在に至るまで、その過去素材を巡るテレビ局の不可思議な対応が継続しており、仮に「20160118」に関わったテレビ局関係者や事務所関係者が現在もなお、これらの動きに関わっているとすれば、その構造は全く是正されていないことになる。
だからこそ、「20160118」は今改めて検証される必要があるのである。

ただし、理由はそれだけではない。
「20160118」を2024年の「今」、改めて検証しなければならない大きな理由が実はもう一つある。
それはこれを検証し、あの「公開謝罪」を成り立たせた事務所とテレビ局の構造を浮き彫りにすることが、芸能事務所トップによる性虐待という許されざる加害の再発防止に欠かせないことだからである。

2023年8月。
旧ジャニーズ事務所が立てた「再発防止特別チーム」はその調査報告内で、かつて事務所から独立した森且行氏のSMAPとしての実績が、同事務所経営者の意向によってテレビ局をはじめとする各メディアから削除された事例を挙げ、「(仮に性虐待の)被害者がそれを拒んで退所すればテレビ局を中心とする関係各所から干されるなどして芸能人生命を絶たれるリスクとなる状況に置かれていた」ことが、この長年にわたる性虐待を可能とする構造構築と不可分であることを指摘している。
つまり森氏の例は、事務所の経営者の意に沿わないタレントがどう扱われるか、それにメディアがどう加担するかの具体例であった。その構造が社内の人間に対する脅しとして働き、内部から声を上げづらい状況が強化されたことが、性虐待が長期間看過された遠因だということである。
もしも「20160118」の背景に『ネタドリ!』が指摘したような「事務所の意向をメディアが過剰に受け止める構造」が存在したとするならば、そして少なくとも2019年以降も、テレビ局が旧ジャニーズ事務所の意向に沿って辞めたタレントに対する不利益に加担していたことを考えると、その関係性は近年まで確実に継続してきたと言わざるを得ない。

これらの事実は、たとえ創業者は物故していたとしても社内に別の加害者がいたこと、かつての事務所関係者が新しく立ち上げた新会社にも多数移籍していると見られる現状を鑑みれば、このようにメディアと結託して、辞めたタレントの肖像権を濫用するなどの方法で干し上げるやり方が今は完全に解消されていると証明できない限り、たとえ旧ジャニーズ事務所という組織自体はなくなろうとも、再発防止の徹底は謳えないということを意味している。

その意味でも、「20160118」は今こそ改めて検証されなければならない。
いや、今だからこそ、決して風化させてはならない問題なのである。





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