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【小説】2人の少女はなぜ憎み合う?有名作家8人による合作プロジェクトの1作

2,022年10月より開催されている「螺旋プロジェクト
これは人気作家8名が共通のルールに則り、時代や設定は違えども、世界観を共有した作品を創り上げるというイベントです。

螺旋プロジェクトの作品に共通するルールは以下の3つです・
①海族VS山族の対立を描く
②共通のキャラクターを登場させる
③共通シーンや象徴モチーフを出す


中公文庫が主催するこのプロジェクトの1作である
乾ルカさんの「コイコワレ」は、まだ日本がアメリカと戦争している真っただ中の、昭和初期を舞台にしています。
アメリカの爆撃から逃れるために東京から集団疎開してきた子ども達と、疎開先の田舎町に住む人々の絶妙な距離感での交わりがとてもリアルで、
小さいころに祖母から聞いた実体験を思い出すような作品でした。

コイコワレ

「作品みどころ」

戦時中は集団疎開といって、まだ小さい子どもたちが親元を離れて
爆撃の危険性が少ない田舎へと避難していました。
親に甘えたい年頃の子たちは寂しさを堪えながら汽車に乗りますが、やはり家が恋しくなって泣きだしてしまう。中には疎開先から脱走を試みる男子も。
そういった描写が、当時実際に疎開していた祖母から聞いた思い出話とすごく似ていて、リアルに感じました。
また、東京の母親に定期的に手紙を出すシーンがあるのですが、投函前には必ず教師の検閲が入り、少しでも戦争に対するマイナスな文章を書こうものならやり直しさせられる。「日本は神の国なのだから、鬼畜の米国に負けるはずは無い」のだと、国民全体が洗脳状態にあった当時の様子が克明に描かれています。
実際に経験者から聞いた話ですが、原爆を落とされるその日までは
「日本が負ける」という可能性を示唆する発言はご法度だったらしいです。


冒頭でも述べた通り、本作が参加する螺旋プロジェクトにはルールが定められています。
そのうちの一つが「海族VS山族の対立を描く」というもの。
言葉だけ聞くとアバターの新作みたいなイメージが浮かぶかもしれませんが、そうではありません。
「コイコワレ」にて描かれる対立は、東京から疎開してきた清子という子と、リツという田舎に住む野性的な女の子の2人によるものです。
清子とリツは一目出会った瞬間から、絶対的な嫌悪感をもって互いを意識し始めます。
別に何をされたわけでもないのですが、本能的に受け入れられない相手だと認識した2人は、狭い田舎のコミュニティの中でも決して関わらないようにして過ごします。しかしとある事件をきっかけに両者の間には修復不能な亀裂が入り、物語は大きく動き出すのです。
2人を切り裂いた原因となる、清子の母親が作ったお守りは本作のキーアイテムとなっており、螺旋プロジェクトの他7作品にも同様のアイテムが登場します。


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