エンターテイメント

こんなとき、エンターテイメントは無力だろうか。

本来はEXCITING!の感想とか、10周年イヤーらしい宮野真守と私というベターな内容を書こうと思っていたのですが、千秋楽翌日に地震に遭った今感じていることを書こうと思います。

宮野さんは東日本大震災の時、エンターテイメントの無力さを感じたと何度も話してこられました。
これは宮野さんだけに限らず、当時多くのエンターテイメントに携わる人たちが口にしたことですが、私は真っ先に宮野さんの言葉を思い出しました。

私は幸いにも、駅で一夜を過ごしたり、命の危機を感じるような目に遭ったり、自宅が倒壊したり、電気水道ガスが停止することもなく、今は日常生活を送れていますが、通勤中に地震が起き、交通手段が壊滅状態になり線路沿いや本来歩く道ではない車道を延々と2時間歩き続けました。

暑い、しんどい、楽になりたい、汗が気持ち悪い、上がりっぱなしの遮断機、鳴り止まない警報機、途切れない救急車のサイレンの音、ヘリコプターのプロペラ音…異常事態なんだとぼんやり頭の片隅で思いながら、とにかく今は安全な場所に身を寄せないと。自分が健康体でよかった。もしこれから余震が起きたら。本震が起きたら…。様々な想像や今必要なもの、これからどうすべきかを考えて行動しましたが、一方で私はどうしようもなくおたくなので、宮野さんの「エンターテイメントは無力」という発言を思い出していました。

私は地震後、日焼けも無視して見知らぬ駅からスマホの地図を頼りにひたすら歩き続けるなか、ずっと片耳では宮野さんの歌を聴いていました。
家族、友人、上司、同僚、後輩…。安否確認の連絡が来て連絡を取り合うものの、とにかく今は自分で自分の身を安全な場所に移動させないといけなくて、私はひとりだった。
しんどさと不安な気持ちが何度も頭をよぎって、耳に流れてくる宮野さんの歌声は右から左へ通過していくだけでとてもじゃないけれど聴いている状態ではなかったけれど、時折歌が頭に入ってくるとライブのことを思い出して、楽しかったなあって思い出して、くじけそうな気持ちを持ち直して、がんばろうと思った。
そのとき感じた。
エンターテイメントは人を救えるって。

衣食住を満たすことはもちろん最優先事項だし大事なことに変わりはないし、体温調整できる服を着て、栄養になる物を食べて、雨風を防げる安全な場所に身を置いてさえいれば最低限生命は維持できる。
けど、生命維持+aの何かを始めよう、次に進もうと希望に向かおうとするためには前向きな気持ちが必要で、その気持ちになるためには楽しむ気持ち、気持ちを軽くすることが必要なんだと今回身を持って感じた。
エンターテイメントで直接的な人命救助はできないし、空腹は満たされないし、寒さも暑さも凌げない。
けれど気持ちは救われる。
楽しかった記憶、楽しい気持ちになることは、険しくなる表情と硬くなる心を和らげてくれる。

だから、エンターテイメントは、笑うことは、楽しいことは、誰かにとっての希望だったり、明るい方向への道しるべになる、かけがえのない救いになっているのだと思いました。

EXCITING!のMCで宮野さんは「みんながライブに来てくれることは救いだった」と話していましたが、私にとって宮野真守さんのファンだったことは救いだった。
…こんな言い方大げさだって自分でも思うけど、今回ばかりは他の言葉で言い表すことができなかった。
歌い続けて、ステージに立ち続けていた宮野真守さんだからこそ、宮野さんの歌は私にとって楽しい思い出として記憶されている。
悲劇なんて見せなくて、前を見つめて力強くステージに立っていたからこそ、私を元気づけてくれる歌として意味付けされている。
弱音を吐いたときもあったけど、それ以上に強く美しい人であろうとし、これからも先へ進んでいく人。

いろんな考えがあると思うけれど、私は不安で押しつぶされそうになったら好きな歌を聴いて、好きな声を聞いて、好きな姿を見て、楽しい記憶を思い出して、笑って、元気を出していきたい。
不安なときほど不安を笑い飛ばして、頭も体も心もすっきりさせて恐怖に負けないで知恵を絞って進んでいきたい。
恐怖と闘えるのは知識と笑いだと私は思いました。

だから私にとって、エンターテイメントは不安なときほど必要なもので、こんなときだからこそ心を緩ましてくれるエンターテイメントは絶対に無力なんかじゃなくて、むしろ偉大で、何物にも代えがたい力があると今回身を持って感じたのでした。


最後になりますが、まだまだ不安の拭えない日々が続いて落ち着きませんが、笑える人は笑って肩の力を抜いて、そして1日も早く、被災された方々が当たり前に屈託なく笑い、不安のない日常に戻れることを心より願っています。


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