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経理の秩序経営を守る:税理士として考える「簿記の力」

ルカ・パチョーリという名前はご存知でしょうか。 彼は、簿記の基礎を築いた人物として知られ、1494年に世界初の複式簿記解説書『スムマ』を出版しました。簿記の真髄は、「秩序正しく適切に処理する」ということです。この一見すると当然のように聞こえる言葉ですが、その奥には、経営にとって非常に重要なメッセージが込められています。

パチョーリは『スムマ』の中で、商業上重要な三つの要素を挙げています。

第一に、金銭という具体的な資力。
第二に、正確な簿記を行う能力。
この三つの中でも、特に「秩序」が欠如してしまうと、どれだけ資金や計算能力があっても、すべてが不安に陥り、事業が失敗してしまう可能性が高いと警告しています。

私は税理士として、日々多くの経営者や個人事業主の方々と接する中で、この「秩序」の重要性を痛感しています。
数字があるこそ、経営者は現状を把握し、現状を正しく認識し、適切な意思決定ができ​​るようになります。しかし、この秩序が崩れることで、経営判断を誤ってしまう大きなリスクが生まれます。

その中でも、財務を操作して利益を「見せかける」行為は、経営の本来の状態を隠すことにつながります。
その結果、経営者が業績が良いと自ら思い込み、不必要な投資や過剰な拡大路線にそして最終的には資金繰りが破綻し、最悪の場合には事業の継続が危険になることもあります。
また、会計操作が発覚すると、取引先や金融機関からの信用を理解すると、大きなリスクを抱えた取引先だと認定されますが、それは企業にとって重大なダメージとなります。

さらに、経費の記録がなくなることも、秩序の欠如を意味します。このような混乱を防ぐためには、日々の経理業務をきちんと行うことが非常に重要です。

現代の事務業務では、クラウド会計やデジタルツールの導入によって効率化が進んでいます。これらのツールを活用することで、透明性を慎重に保ちながら維持することが可能になりますが、結局のところ、経営者や会計担当者自身の意識や習慣が鍵を握るのです。いくら良いシステムを導入しようとしても、経営者や幹部の意識が秩序と透明性を軽視するものでは、なんら役立つことはありません。
これは、パチョーリが500年以上前に説かれている広く普及している教えであり、現代でも簿記の本質なのです。

税理士として、私はクライアントの皆さんに、会計を正しく行うことの意義を伝え続けていきたいと思います。

帳簿の正確さ、処理の透明性、そしてそれを維持する習慣を身につけることで、健全な経営を一つ一つの取引を丁寧に記録し、秩序を守る努力こそが、経営の安心と成功への道を切り開く鍵だと信じています。

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