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チョコレートマティーニーの誘惑

ある晩、都会の喧騒から逃れるように、私はいつものホテルのバーに向かっていた。冷えたドライなマティーニーを求めて、そのバーへ足を運ぶのが、私の日常の一部だった。
バーテンダーの手際よくシェイカーを振る姿、グラスに注がれる液体、その一連の儀式が、私にとっての癒しの時間だった。

その夜も、いつものカウンターに腰掛け、キリッと冷えたマティーニーを楽しんでいた。ふと隣を見ると、一人の若い米国人女性が座っていた。旅行者らしい彼女は、日本の景色や文化について興味津々で話していた。その明るい笑顔と好奇心に満ちた瞳に、私は自然と声をかけていた。

「こんばんは。ご旅行ですか?」

彼女は笑顔で応え、会話が始まった。旅の話、文化の違い、そしてお気に入りのカクテルについて話すうちに、私たちはすっかり打ち解けていた。


会話が進む中、彼女が突然こう言った。

「アメリカでは今、チョコレートマティーニーが流行っているんです。知ってますか?」

私は驚いた表情を隠せなかった。マティーニーとチョコレートの組み合わせなんて、想像もしていなかったからだ。

「それは初めて聞いたよ。試してみたいな。」

彼女の勧めに従い、バーテンダーにチョコレートマティーニーをオーダーした。しばらくして運ばれてきたのは、チョコレートを溶かしたような色のカクテルだった。その見た目に一瞬戸惑ったが、一口飲むとその味わいに驚かされた。チョコレートの甘さとマティーニーのアルコールの強さが絶妙にマッチしていて、何とも言えない美味しさだった。

そんな特別な夜が続く一方で、私は次第に健康や生活習慣に対する考えを改めるようになった。飲み過ぎはやはり体に良くないと感じることが多くなり、ついに断酒を決意する日がやってきた。
最初は苦労したが、今では2年以上が経ち、お酒のない生活にもすっかり慣れた。

あの夜のことを思い出すたびに、心が温かくなる。ホテルバーでの異国の女性との出会い、チョコレートマティーニーの驚きと感動。
今ではもうお酒を飲むことはないが、その時の特別な瞬間は、私の中で今も鮮やかに輝いている。

皆さんも、もしホテルのバーでお酒を楽しむ機会があれば、新しいカクテルに挑戦してみてください。

もしかしたら、私のように特別な思い出が生まれるかもしれません。それでは、また次回の物語でお会いしましょう。

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