取引先別売掛金管理の重要性:監査で気づいた企業の課題と改善策
私は、税理士として 様々な中小企業の月次巡回監査を実施していますが、監査業務において、取引先ごとの売掛金管理の重要性の認識が薄い会社が多いことに気がつきました。
売上や利益に関しては敏感な会社が多いのですが、売掛金の管理については単なる後処理的な考え方の会社がほとんどです。
売掛金は企業にとって重要な資産であり、適切な管理が求められます。しかし、多くの企業では、売掛金管理が軽視され、資金繰りを悪化させたり、最悪の場合、黒字倒産に陥ったりするケースがあります。
売掛金管理は企業経営において極めて重要な要素です。
企業は売掛金の管理について責任を持ち、積極的かつ効果的な対応をすることが求められます。
1. 取引先別売掛金管理が軽視される理由
売掛金の回収は「後回し」になりやすい
売上計上はすぐに完了しますが、売掛金の回収はその後に行われるため、「後回し」になりやすいという側面があります。
売掛金の管理は「面倒」というイメージがある
取引先ごとに売掛金を管理するのは、手作業で行うと煩雑な作業になります。そのため、「面倒」というイメージがあり、担当者が積極的に取り組まないケースがあります。
経営層の認識不足
経営層が売掛金管理の重要性を認識していない場合、担当者も積極的に取り組むことができません。
営業部門の認識不足
得意先との関係構築に注力する営業部門は、売掛金回収の重要性を認識していないケースがあります。
2. 取引先別売掛金管理が軽視されることによるリスク
貸倒損失の発生
売掛金の回収ができず、貸倒損失が発生する可能性があります。貸倒損失は企業の利益を減少させ、経営を圧迫します。
資金繰りの悪化
売掛金の回収が遅れると、資金繰りが悪化します。資金繰りが悪化すると、必要な支払いができなくなり、事業継続が危ぶまれる可能性があります。
黒字倒産
売掛金の回収ができず、資金不足に陥り、黒字倒産する可能性があります。黒字倒産は、企業にとって大きな損失となります。
3. 取引先別売掛金管理の重要性
取引先別売掛金管理は、以下の理由から重要です。
貸倒損失リスクの低減
取引先ごとに売掛金の状況を把握することで、貸倒損失リスクの高い取引先を特定することができます。貸倒損失リスクの高い取引先への与信枠を制限したり、前払いでの取引を依頼したりすることで、貸倒損失を回避することができます。
資金繰りの改善
取引先ごとに回収期日を把握することで、資金繰りをより効率的に管理することができます。回収期日が近い取引先から優先的に回収を行うことで、手元資金を増やすことができます。
顧客との関係強化
取引先ごとに売掛金の状況を把握することで、顧客との関係強化に役立てることができます。例えば、支払期日を厳守している取引先に対しては、割引を適用したり、新たな取引を提案したりすることで、顧客満足度を高めることができます。
販売戦略の策定
取引先ごとの売掛金の推移を分析することで、販売戦略の策定に役立てることができます。売上が伸びている取引先に対しては、販促活動を強化したり、新たな商品を提案したりすることで、さらなる売上拡大を目指すことができます。
経営状況の分析
取引先ごとの売掛金の状況を分析することで、経営状況をより詳細に把握することができます。例えば、売掛金の回収率が低下している取引先は、経営が悪化している可能性があります。そのような取引先に対しては、早めに対処することで、リスクを回避することができます。
4. 取引先別売掛金管理の改善策
取引先別の売掛金管理の責任部署は、その取引先を熟知している営業部門にあります。ところが、営業部門が営業成績だけを追いかけて、売掛金や取引条件についての理解が不足している企業が多いです。
そこで、改善するためには次の項目があると思います。
売掛金管理ツールの導入
売掛金管理ツールを導入することで、取引先別売掛金の状況を簡単に把握することができます。売掛金管理ツールには、以下のような機能があります。
ただし、いくら良いツールを準備しても、そのツールを使わないと無意味になりますが。
取引先ごとの売掛金残高の管理
支払期日の管理
回収状況の分析
督促書の発行
担当者への教育
担当者に対して、売掛金管理の重要性を理解してもらうための教育が必要です。教育内容としては、以下のような内容が考えられます。
売掛金管理の重要性
売掛金管理の手順
貸倒損失リスクの低減方法
資金繰りの改善方法
経営層のコミットメント
経営層が売掛金管理の重要性を認識し、積極的に取り組むことが重要です。経営層がコミットメントすることで、担当者も積極的に取り組むようになります。
まとめ
売掛金の取引先別の管理については、次の項目が重要
・営業部が取引先別残高を毎月正しく把握すること。
・そのためには、常時、取引先の残高や取引条件について管理表等で照合すること。
・経営層が売掛金の取引先管理の重要性を宣言し、積極的に取り組むこと。