【受継ぎの家】 工事日記 -1
昨年から横浜に自邸を設計していたのですが、先週、ようやく基礎工事が着工(施工:志馬建設株式会社)したので、進捗などをここで発信していこうと思います。
タイトルにした「受継ぎ」というのが今回のテーマ。とは言っても、このお家は親や親族から譲り受けたものではありません。たまたま見つけた土地に夫婦で一目惚れして、購入したその土地に残されていた古家(築50年)でした。これを完全には壊さずに、以前の持ち主から受け継ぐ形でこのお家を更新できないかと考えたのが「受継ぎの家」です。つまり、他人からの受継ぎ。日本の住宅建築の平均寿命が30年を切っている状況において、普通の木造住宅を使いつづけられるようにすることは、一建築家としての使命でもあると思っています。
ただ、この建物は他人から受け継いだものなので、特段ここに自分の想い出があるわけでもありません。一方で、50年もここに存在していたという実存としての風格などが少なからずあるわけです。50年という年月は、私が建築コンバージョンの研究者でもあるので諸外国の例を見ると、ちょうど"歴史的建造物"として認められるくらいの長さ(例えばデンマークでは、築50年以上の建物は全て歴史的建造物として行政に台帳登録される。国によっては30年以上など短い場合もある)で、それらの建物は都市の文化を形成してきた要素として大事に扱われるようになります。この建物も同様にそのような時間の堆積が刻まれており、都市文化だけでなく以前のご家族の記憶などもそこにはあるはずで、やはりそういったものを大事にしたいなと思いました。
この建物は文化財として見た時に価値の高い建物でもなければ、稀有な特徴を有するような建物でもない。むしろ一般的な作られ方をした、1960年代後半という時代の空気を纏った、素朴で素直な建物と言えます(この既存建築はどのような建物だったか、ということは別の記事にて)。清貧の時代から高度成長期を迎えて先進国へと駆け上っていく、社会の疾走感と心地よい楽天主義のようなものが、しっかり組まれた檜の軸組や質の落ちる違法増築部、少々凝りのあるディテールなどから滲み出ているように感じました。
そんなある意味で普通な建物をどのように取り扱うべきか、あれこれ考えたけれど結局もっとも意識したことは「既存建築を特別扱いしない」ということでした。既存建築の魅力を引き出すことがリノベーションの設計では重要ですが、古い建物だから、リノベだからとこの建物に遠慮した計画とはならないように、新築のようにまっさらな状態から考えて計画し、たまたま同じ場所に古い建物があるので活かすべきものは活用する、というスタンスで設計。結論としては、大幅な増築を伴うリノベーションということで全体を計画することにしました。
細かい内容は追い追い書いていくとして、ようやく着工!これから少しずつアップしていきます。