ダブルダイヤモンドによる死―いかにしてサービスを守るか by Kate Ivey-William
幸運にも私は、過去にコンサルタント会社において、そして現在は英国の政府デジタルサービス(Government Digital Service)において、サービスデザイナーとして働くことができました。2つの異なる環境で働いたことにより、サービスデザインが直面する課題と、適切にデザインしたサービスを提供するために必要なことについて、多くのことを学びました。
そうした課題はサービスの導入部分にあります。サービスデザインの業界は方法論を身につけています。我たちは適切にデザインされたサービスがどのようなものかを理解しています。そのために何が必要なのかもわかっています。ユーザーエクスペリエンスのシミュレーションやテストに役立つプロトタイプを作成することもできます。それなのに、サービスの導入の前に何かが起きているようなのです。サービスデザイナーがサービスの導入に関わることはほとんどありません。つまり、机上で慎重に作り上げてクライアントに手渡したものが、サービスの導入後に変化しているのです。
その原因の多くは、一般的に使用される「ダブルダイヤモンド」のプロセスが、ウォーターフォールの特性を持っているためです。ダブルダイヤモンドの最後の「提供」ステージのあとに起こるのは、サービスデザイナーが指示書をクライアントに手渡し、クライアント自身にサービスの導入を任せるというものです。これには数年かかることもあります。その結果、ステークホルダーのエンゲージメントがどれだけ高くても、導入後のサービスは当初のデザインとはまったく違ったものになります。
このようなやり方をしていると、サービスデザイナーの意欲は大きく損なわれます。オリジナルのビジョンを踏襲した形で導入されるという確信もなく、デザイナーが壁越しに成果物を放り投げているというような状況です。これはサービスデザインの業界にとっても大きな問題です。現実世界で「我々があれをデザインした」と言えなくなるため、デザインの品質をベースにして自分たちの仕事の価値を売り込むことが難しくなるのです。その結果、現実世界の事例ではなく、方法論を売り込むことになります。こうした方法論には導入部分は含まれていません。サービスを導入するときの課題はそれぞれ異なるため、テンプレートを作るのが難しいからです。
ですが、サービスデザインは方法論ではありません。サービスデザインはサービスのデザインです。グラフィックデザインがグラフィックのデザインであり、プロダクトデザインがプロダクトのデザインであるのと同じです。
サービスデザインの組織のなかには、トレーニングを販売してサービスの導入に影響を与えようとしているところもあります。トレーニングを実施しておけば、クライアントにデザインを手渡して離れたあとでも、サービスデザインを維持できると考えているのです。これには不幸な副作用があります。サービスデザインのコンサルタント会社が冗長で不要だと思われる可能性があるのです。多くの人たちがサービスデザインを理解するのは素晴らしいことです。ですが、1週間のトレーニングは、長年培った調査や業界の経験と等価ではありません。
ダブルダイヤモンドのプロセスに従い、サービスデザインの手法を使用するように教えるのではなく、組織がサービスを提供できるように、みなさんがサービスデザイナーとしての能力を高める必要があります。そして、それを実現するには、サービスの導入部分に関与する必要があります。
ウォーターフォールではうまくいきません。事業会社でもコンサルティング会社でも、サービスデザインの組織はますますアジャイルに移行しています。
アジャイルのおかげで、サービスデザイナーはサービスの導入部分に近づくことができます。そのための方法はいくつかあります。まずは、サービスデザイナーが現実世界に向けてデザインできるようになります。なぜなら、最初から現実世界で仕事ができるからです。サービスデザイナーは提案書を作成して、最後にそれを手渡すだけの存在ではありません。
アジャイルは反復的なプロセスです。つまり、プロセスの途中で(サービスが導入されるまで)サービスデザインを曲げたり変えたりできるということです。実際に動かして反応を見ながら、最高にデザインされたサービスを生み出すことができるのです。
アジャイルでは、特定の手法や「成果物」との結びつきが少なくなります。プロジェクトのステージごとに課題と対策を踏まえながら、アプローチを選択・変更していくことができます。
アジャイルを使うのはインハウスデザイナーのほうが簡単です。事実上、デザイナーであり、クライアントでもあるからです。ですが、コンサルティング会社もこの方向に進み始めています。私が以前勤務していたコンサルティング会社では、業務委託のような形でクライアントとの関係を構築し始めていました。つまり、ダブルダイヤモンドの「発見・定義・開発・提供」を売り込むのではなく、柔軟な契約と予算に移行していたのです。アジャイルにプロジェクトの計画を立案することで、戦略からサービスの試験運用に至るまで、組織に合ったペースでクライアントと協力しながら仕事ができるようになりました。また、サービスデザイナーはほぼフルタイムでクライアントと同席していました。そして、上層部のステークホルダーと協力しながら、デザインしたサービスの準備や提供ができているかどうかを確認していました。
サービスデザインは「提供」で終わりではありません。「導入」で終わりでもありません。サービスは進化を続ける反復的なものです。サービスデザイナーが影響を与えるには、すべてのステージに関与する必要があります。
Kate Ivey-Williamsは、英国のGovernment Digital Serviceのサービスデザイナーです。以前は、ロンドンでEngine Service Designのサービスデザイナーとして働いていました。
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