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顧客フォースキャンバスによる解決に値する課題の見つけ方 by Ash Maurya

以下は、Ash Mauryaによる「Find Better Problems Worth Solving with the Customer Forces Canvas」の翻訳です。本人の許可を得て掲載します。

顧客にとって「正しい」ソリューションを構築する前に「正しい」課題を理解する必要があります。私の最初の著書『Running Lean』では、解決に値する課題を明らかにする「課題インタビュー」の台本を紹介しました。本記事では、改良した課題インタビューの台本を紹介したいと思います。

課題/解決フィットの探索は、モデル(なかでもリーンキャンバスを使ったビジネスモデル)を構築するところから始まります。これは「科学的手法」の影響によるものです。リーンキャンバスでは、顧客と課題の仮説が明確になるように推測します。それから建物の外に出て、以下の台本のテンプレートを使いながら、仮説が有効または無効であるかを検証します。

課題インタビューの台本 1.0[出典『Running Lean』(オライリー・ジャパン)]

この台本は「場の設定」や「課題の文脈の設定」から始まっていますが、インタビューで最も重要なのは「顧客の世界観の探求」です。あなたの主張が支持されるか拒否されるかについて、実証的な証拠を集めるところだからです。

こうした証拠を集めるためには、顧客が過去に何をしたのか、そして現在は何をするのかを調べることが唯一の信頼できる方法です。「これからあなたは……を使うでしょうか?」といった将来のことを聞く質問は、バイアスがかかってしまうので避けるべきです。

課題の仮説を裏付ける証拠が集まった場合(有効だった場合)は、自分を褒め称えてから、ソリューションインタビューを使ってソリューションの定義やテストをする次のステップに進みます。

ソリューションインタビューの台本[出典『Running Lean』(オライリー・ジャパン)]

課題の仮説を裏付ける証拠が見つからなかった場合(無効だった場合)は、解決すべき課題を見つけるために深く掘り下げなければいけません。しかし、ここで多くの人たちが行き詰まります。

それにはいくつかの理由があります:

  • まずは、私たちにはソリューションに対するバイアス(イノベーターのバイアス)が組み込まれているため、最初から「本当の」課題を推測することが非常に困難だからです。私たちは無意識のうちに、構築したいと思っているソリューションの周辺に課題を組み立て(あるいは偽装して)、自分たちが正しい方向に進んでいることを確信できるような証拠を集めようとします。

  • 次に、インタビューを開始してすぐに仮説が無効だったと判明しても、そこから復帰することは簡単なことではないからです。事前に課題の文脈を制限したことで機動性が損なわれ、行動につながる課題が見つからないまま、インタビューが終了する可能性が高いのです。

今回、課題インタビューの台本を改良したのは、以上のような理由からです。

改良した課題インタビューの台本

以下が改良した台本です:

改良した課題インタビューの台本

まずは、削除した部分を見ていきましょう。

課題の優先順位はあくまでも主観的

「課題の優先順位」のステップから有益なインサイトが出てくることはありません。なぜなら優先順位は主観的だからです。それよりも重要なのは、顧客が自分で優先順位をつけられるほど課題のことを理解していないからです。

次に、アーリーアダプターと課題に関する部分を改良しました。

属性よりもトリガーでアーリーアダプターを定義する

アーリーアダプターを探すときに重要な質問は、それが「誰」なのかではなく、「いつ」なのかです。言い換えるなら、相手の属性よりも振る舞いのトリガーや心理的特性のほうが、行動につながりやすいのです。

『Running Lean』で紹介した両親のための写真共有サービスの例では、父親よりも母親のほうが写真を共有してくれたものの(属性)、はじめて母親になる人のほうが写真を共有したい願望が高いことがわかりました(心理的特性)。

課題よりも成果のほうが発見しやすい

事前に「課題の文脈」を設定しておくと会話に集中できるようになりますが、仮説が無効だったことが判明すると大敗を喫します。課題の文脈を設定するのは、すでに証拠や自信を持っていて、学習よりもピッチが目的となる「ソリューションインタビュー」のほうが適しています。

課題インタビューのゴールは発見です。文脈を設定するのは課題よりも望まれる成果にしたほうがいいでしょう。

トリガーによって願望が生まれます。

以上をまとめると、トリガーと望まれる成果によって、カスタマージャーニーの物語にアンカーポイントが作られます。そこが、あなたの学ぶべきところです。

トリガーと望まれる成果がカスタマージャーニーを作る

ここで注意しておきたいのは、顧客には願望があるものの、その計測方法や達成方法については知らないことが多いということです。それでも願望の定義を明らかにすることが、独自の価値提案を作るための鍵になるでしょう。

例:起業家がアイデアを思いつくと、資金調達やプロダクトの構築/ローンチを望まれる成果として定義するでしょう。

長年の読者であれば、私が「投資家ファースト」や「構築ファースト」の戦略を後ろ向きに考えていることをご存知かもしれません。課題インタビューの目的は(まだ)相手を説得することではなく、相手の世界観を手に入れることなのです。

既存の代替品と現在のソリューション

トリガーと望まれる成果によって、顧客が代替品を探してソリューションを選択するための考慮集合が生まれます。ここが、次に探索するところです。

ソリューションよりも成果や片付けるジョブ(JTBD)の文脈を設定すると、必ず既存の代替品を見つけることができます。

ソリューションの考慮集合

慣性、摩擦、次の頂上

各ソリューションについて(最新のものから順番に)顧客がどのように発見し、選択し、使用したのか、次のゴールは何かを知りたいと思うでしょう。

課題があるところ

「慣性」とは、新しいソリューションを選択する際に、顧客を後退させる障害や妨害を表しています。これらは、新しい方向性を考えるときに登場する、既存の習慣や不安によって引き起こされます。

「摩擦」とは、あとから発生するものです。ソリューションを使っているときの障害や妨害を表しています。これらは、新しいソリューションを効果的に使用するためには破棄すべき古い習慣や、新しいソリューションに適用するときの不安やフラストレーションによって引き起こされます。

最後のステップは、選ばれた代替品でどれだけジョブがうまくいったかを評価することです。最初の頃に比べてうまくいっていますか?次は何をするべきですか?顧客のためにより大きな文脈を描いたり、進捗ロードマップを顧客がどのように認識しているかを可視化したりするのに役立ちます。

以上の質問に対する答えは、解決に値する課題をこれから見つけるところにあります。私はこれを「課題発見のバックドアアプローチ」と呼んでいます。なぜなら、課題で話を導くというよりも、顧客の話から課題を抽出するからです。

改良した課題インタビューの台本:

課題インタビューの台本 2.0

台本の残りの部分は変わっていません。今後の協力とインタビュー相手の紹介をお願いして、インタビューを終了します。そして、最後に結果を文書化します。

すでに気づいているかもしれませんが、顧客フォースの図は(以前にも書いたことがありますが)インタビューの台本を可視化するだけでなく、インタビューの結果を文書化するためにも役立ちます。これは、インタビューのあとに作成する「実体のある成果物」となるものです。

したがって、これを「顧客フォースキャンバス」にまとめました。ダウンロード可能なので、あなたのインタビューの結果の文書化に使ってください。

顧客フォースキャンバスを記入するのはインタビューが終わってからが最適です。ただし、いくつかの用語については、まだ聞きなれないかもしれません。たとえば、慣性と摩擦、習慣と不安の違いなどです。

ですから、まずは典型的なアーリーアダプターを想定して、これらを自分で記入してみることをオススメします。

以下は、アーリーステージの起業家について記入した例です:

フィードバックはありますか?

ここで紹介した新しい課題インタビューの台本と顧客フォースキャンバスは役に立ちそうでしょうか?

私たちは、すでにこのやり方に全面的に移行しています。アイデアの発想段階で課題を発見するときだけでなく、プロダクト開発全体で使っています。アイデアの発送段階では顧客を既存の代替品に向かわせるフォースを探索し、その後は自分のソリューションに向かわせる(あるいは離す)フォースを探索するのです。

あなたの使い道や使い方をぜひ聞かせてください。

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