ロボットを使った生物学を一緒にやりませんか?というお誘い
こんにちは。
この公募文を書いたひとりです。理化学研究所の@Kd_Gnです。
(公開当時は2018年でした。今はリンク切れてます)
この公募、いわゆる普通の研究員・テクニカルスタッフの募集とは毛色が異なる部分があるのですが、フォーマットの決まった公募要領ではどうしてもお伝えできることが限られてしまうため、そのココロをここでお伝えできればと思います。
まとめ
・ロボット生物学を進めるために
・研究/企画/運営の3つの職務のうち
・どれかをできる人/やりたい人を求めている
ロボット生物学のいま
産総研をはじめとした多くの研究機関が参画する「ロボティックバイオロジーコンソーシアム」から、数百台から数千台の実験用ロボットを一ヶ所に集めたロボット実験センターという新しい研究の形が提案され、2017年にNature Biotechnology誌に掲載されました。
▲こんな感じでロボットがわいわい実験をします。その間、人は考えることに専念する。次世代型役割分担。
研究者は手元のPCでやりたい実験のプロトコルを作って、センターに送ります。送られたプロトコルは最も効率よく実験が遂行されるよう整理された上でロボットで実行されます。実験結果はインターネット経由で研究者の手元へ戻ります。いわゆる生命科学実験のクラウド化です。伝わる人には、生命科学実験版のAWS、と言うと話が早いかも。
実現すれば、そもそもラボに行かなくて良くなるので、子育てや介護などのライフイベントと研究の両立も今よりはカンタンになるのではないかと。さらに、再現性や研究不正といった悩みから解放される可能性もあります。論文投稿の際にはセンターに送ったプロトコル実物を添付することで、論文をダウンロードした読者も全く同じプロトコルによる実験ができ、これまで有効な防止策のなかった研究上のインチキを一掃できるかもしれません。
...という輝かしい未来は順調にいっても十数年は先になるのではないかと思われます。
その前段階として、まずはこの先のおよそ5年で、10台程度のロボット・分注機・解析機やそれらをつなぐ搬送用ロボットをひとつの部屋にまとめた、ミニチュア版のロボット実験センター、プロトタイピングラボを整備することになりました。
当研究室では、この開発の一部を担当しています。
▲ざっくりとした分担はこんな感じ
この分担で主にやっていることは、「細胞培養の匠の手と目と頭をロボットに覚えさせて誰でも使えるようにしよう」プロジェクトです。
▲全てを数値化してロボットに移すと誰でも匠のワザを使える
今回、これをさらに加速させるために一緒に進めてくれる仲間を募集することになりました。
募集する職務をちょっと詳しく
今回募集したい人は以下の職務A-Cのどれかに携われる人です。全部ではないです。
ご希望があれば、AとCを50%ずつやりたい、などは歓迎です。ちなみに業務A-Cの優先順位に差はありません。
職務A. ロボット実験の実施
まほろを実際に触りながら「細胞培養の匠の手と目と頭をロボットに覚えさせて誰でも使えるようにしようプロジェクト」に関する研究を遂行します。
過去のロボット経験は全く必要ないです。そういう人が使うことを目的に作られたロボットですので無理なく触れると思います。
細胞培養の経験は欲しいです。実際の実験はまほろがやりますので、細胞培養の超絶なテクニックを持っている必要はないですが、培地の準備やトラブルシュートは人がする部分がありますので、そのときのために、細胞培養時に何をやってはいけないかを知っている程度の知識と経験がある人を求めています。
その他、ロボット周りの関連業務(手順書作ったり記録を残したり消耗品を整理したり)がありますのでMicrosoft OfficeまたはGoogleドキュメント関連の使用経験や知らない操作をググる習慣がある人が適していると思います。
▲これをそのまま体感できるやつです
職務B. ロボット生物学の企画ディレクション
本題の前に少し広めのお話をします。ロボット生物学の議論をすると、ロボットにこれやってほしい、こういうソフトがほしい、などの要望がさまざまな分野の方から五月雨式に出てきます。色々な方々に興味を持っていただけたり、要望が届くことは本当に嬉しいです。一方で、ロボット生物学はまだまだ小さいコミュニティのため、全てを一気に開発することは物理的に不可能です。
開発力を上げるために、プロトタイピングラボの整備やロボット生物学のさらなる展開のために、ロボット技術・情報技術・生物学を総覧しながら、この先開発しないといけないものは何か、どのタイミングで何をどのように開発にするのか、を考えて実際に企画し、開発・制作の指揮をとる人を募集したいと思います。これが職務Bです。
分野によって呼び方が異なりますが、多くの場合には、ディレクターやプランナー、アーキテクトと呼ばれる役割です。自分の頭の中に浮かんだ脳内企画を企画書などで外の人に見える形にし、やるとなった場合には、担当スタッフと協力して仕事をすすめてもらいます。ふわっとしたタスクを明確な仕様の形で他の人に提示し、その遂行をお願いする役割と言えます。
例えば、新規実験の立ち上げであれば、実際の実験に関わる部分はもちろんのこと、実施に倫理申請が必要であればその調整をしますし、共同研究先との知財取り扱いの交渉の方針決めも仕事の範囲内です。他にも開発メンバーのイメージ共有のためになんらかのイラストやビジュアルが必要であればその制作もします。自分たちだけでできないのであれば、制作会社の調査・発注などもやります。そうそう、今読んでいただいているこういう文章も必要があれば書きます。
経験者だと大歓迎ではありますが、特にアカデミア研究界隈ではこんな経験がバリバリあります!という人は少ないと思いますので、やってみたい人の良い挑戦の場になればと思っています。
職務C. ロボット生物学のプロジェクトマネジメント
ロボット生物学分野は限られたリソースではありますが、いくつものプロジェクトが並列して研究・開発・制作されています。職務Cでは、そのプロジェクトの管理をする役割を募集します。
いわゆるプロジェクトマネージャーと呼ばれることが多い仕事です。職務Bに似ていますが、こちらは明確に切られたタスクを割り振ったり・進捗管理したり・場合によっては自分でこなす役割です。自分で企画することはそこまで求められていません。
開発スケジュールやコストの管理、各種共同研究先との調整、企画書・仕様書の管理・改修・とりまとめ、開発環境の整備、細かいところでは、会議の議事録やホワイトボードの整理、ミーティングの調整、チーム内Webサイトや業務ツールなどの管理、などなどが想定されます。時には、既存素材を組み合わせて発表用ポスターやスライドを作ることもあります。
Microsoft OfficeまたはGoogleドキュメント関連の使用経験や知らない操作をググる習慣がある人だと嬉しいです。
職種について 【重要】
理研の制度上、研究員とテクニカルスタッフの2つの職種があります。研究員は自分の裁量で仕事をすすめ、テクニカルスタッフは仕様の範囲内で仕事を進めます。上下がある訳ではありません。役割が違うだけです。自分に合う方で希望を出していただければと思います。
!!! 研究員で応募される方には、事前にお伝えしたい注意点があります !!!
今回の公募にある仕事はたくさんの人が関わっている大きなプロジェクトとして動いているため、ファーストオーサーとしてバリバリ論文を書くことは現実的ではありません。そのため、将来のキャリアプランとして研究室主宰者(PI)を目指すようなバリバリ研究職志望の人にはオススメしません。
一方で、ラボマネージャーやディレクター、プロジェクトマネージャーのような仕事を希望する人には適していると思います。特に業務B/C。みんながみんなPIを目指している訳ではないですしね。いろいろやりたい人にはいろいろやれるポジションじゃないかなと思います。
チーム構成について
当研究室でロボットのプロジェクトチームに入っているのは僕を含めて6人くらい。職務A-Cを問わずこのチームに入ります。また、職務A-C全てにおいて上司はPIの高橋政代です。が、最初のうちは僕と一緒に進めることになると思います。今のところは僕が、全体をちょっと細かいところまで把握する役割、をしているからです。
ロボットの実験は当研究室だけでは実現できないのでいくつかの共同研究先と一緒に開発に取り組んでいます。例えば、職務Aの「細胞培養の匠の手と目と頭をロボットに覚えさせて誰でも使えるようにしようプロジェクト」だとロボット系・情報系・生物学系の知識と技術が必要ですので、当研究室のメンバー含めておよそ20人のチームが構成されています。このうち生物学系の手と頭の担当を当研究室がしている、という役割分担です。
いろいろなバックグラウンドの人たちと雑談できるの、楽しいですよ。
契約・待遇について
細かい項目が多いので箇条書きで書きます。
●フルタイムでの雇用契約ができる方を優先します。
●着任時期は理研内部での事務手続きの関係上最速で5月1日の見込みです。時期について強い希望があればその旨お知らせください。早めることも...やりようによってはできなくもない...ような。
●任期制の1年更新です。理研で無期雇用はあんまりないですよねぇ...
●給与はテクニカルスタッフ、研究員ともに各種手当込で税込 400-600万円/年 程度の人を採用することを想定しています。超できる人を安く買い叩こうとかではなく、相応の人を相応の待遇でお迎えしたい、という姿勢です。もちろん色々は相談の上で決めます。手当などのくわしい情報はこちら → 任期制職員等給与規程[PDF]
●完全週休2日制ですが、実験のスケジュールによっては休日が土日に取れないことがあります。振替休日を取っていただく or 休日出勤手当支給になります。
●理研内のルールの範囲内で兼業が可能です。
●面接時の交通費はお支払いします。常識的な範囲で。
提出書類について
履歴書例がネ申エクセルで申し訳ないです。同等の内容が書かれていれば形式は任意ですのでそのへんでなんとか。手書きとかいらないです。
ということで、普通の理研の公募とはなんか違うような違わないような、というポジションを募集することになりました。なかなかにおもしろいと思うんですけどね。職務B/Cが特殊に見えますが、職務Aだって充分特殊な感じがします。
ご興味のある方はいきなり送りつけていただいても構いませんし、とりあえず僕やPIの高橋にコンタクトをいただくのも歓迎です。
良いご縁に恵まれますように!
▲ロボット生物学で今できていることや将来的にしたいことの多くはこの本に書いてあります。ご興味があればぜひに。