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インタビューを書く前に、唐津旅でのできごとを。

先日、3泊4日で佐賀県の唐津市へ行ってきた。
ひとりでこんなに長く旅をすることはほんとうに久しぶりで。
目的は、ある陶芸家さんへのインタビューだったのだけれど、せっかくだから「ゆっくりしてこよう」をテーマに、思う存分ゆっくりしてきた。

そもそも唐津は、7年ほど前に行ったことがあるまちだった。
うつわが好きになりはじめたころ、私はとあるギャラリーで「唐津焼」に出会って心奪われた。さりげなく描かれた草花や、砂や石が入り混じった土味たっぷりの素朴な雰囲気。その自然な佇まいに、とてもとても憧れた。そして、陶芸家の『吉野敬子』さんの唐津焼を手に入れて、使ううちにさらに虜になっていった。

どんな人が、どんな場所でつくっているんだろう。
そんなことを知りたくて、訪れてみたのが6年前だった。

***

博多から唐津へ向かう道中、電車からずっと見える海の景色が壮観だった。
奈良は海がない県だから、見えるだけではしゃいでしまう。窓にはりつくように眺めて、写真を撮った。

初日はレンタカーを借りて、市内をまわった。
どんより雲の天気だったけど、レンタカー会社のお姉さんがものすごく良い方でラッキーだった。忙しいのに途中手を止めながら、ずっとおすすめスポットを教えてくれた。とにかくお腹が減っていたので、ホテルでチェックインをすませてお姉さんおすすめの海鮮丼を食べに行った。

まさに、宝石箱だった。食べても食べても魚。新鮮すぎて泣けてくる。すでに唐津へ来てよかったなぁと心からのため息が漏れた。ありがとう、亀山。

それから、7年前に訪れた『帆柱窯 ほばしらがま』へ行ってみた。
帆柱窯のことは昔noteにちらっと書いたことがあるのだけれど、私にとっては思い出深い場所。当時は飛び込みで行ったのに窯元の陶芸家さんが丁寧に案内してくれた。あのとき買った唐津焼のそばちょこや、いただいた花器は今でも大切に使っているし、思い出の包装紙も取ってある。

あれからどうなったかなぁ…とずっと気になっていて、おそるおそる訪れてみた。

「やった、変わらずにある!」と一瞬思ったのだけれど、あれれ。中を覗くと誰もいない。うろうろと工房周りを歩いてみても、誰もいない。裏の民家にも人は住んでいないようだった。ギャラリー内の作品もすっきりと整理されていたし、ああ、やめちゃったのかなぁという気持ちが過ってさみしくなってきた。

後で市内の窯元状況に詳しいギャラリーの店主に聞いたのだけど、帆柱窯は1年前に「廃業した」そうだ。高齢で後継がいなかったのだそう。1年前ってつい最近じゃないか…悔しい。来るのがすこし、遅かった。

うなだれながら、日が暮れそうだったから焦ってそのまま次の目的地へ。

ここは、『櫨ノ谷窯』といって、お隣の伊万里市にある。
陶芸家の吉野魁 よしのかいさんから窯を受け継ぎ、娘の吉野敬子 よしのけいこさんが作陶していた窯元。私が唐津焼に興味を持つきっかけとなった場所だ。

ギャラリーと喫茶、お茶室がひとつの空間に共存していて、奥には大きな登り窯がある。名前の通り、ちょうど谷間にあって、ときおり、風や光が通り抜ける。自然と陶芸と暮らしが一緒になった、心地いい場所だ。

7年前、私が櫨ノ谷窯へ行ったときは吉野敬子さんはちょうど不在で、会えなかった。それから私は草々をオープンし、いつか吉野敬子さんに会いたい、インタビューをしたいとずっと思っていた。そうして連絡しようと思っていた矢先に、病気で亡くなったことを知った。51歳。まだお若くて、びっくりした。いやぁ…そんなことってあるのか、と呆然とした。作陶のことや唐津焼のこと、農業や暮らしのこと…ほんとうはもっと色々お話を聞きたかった。7年前のあのとき、すこしでも会えたら…。

そんなことをぐるぐると考えながら、敷地内の喫茶へ行ってみた。変わらずに営業していて、地元の食材を使ったケーキやお茶をいただきながら、だんだんと気持ちがほぐれてきた。まだ登り窯もギャラリーもお茶室も残っている。作陶をしている気配はなさそうだけれど、「暮らし」は続いているようだった。

しばらくしたら店主さんが来て、ポツリポツリと色々お話をしてくれた。

話を聞いているとどうやら、店主さんは吉野敬子さんのご主人で、会話の流れで途中気づいてびっくりした。私は、吉野敬子さんのうつわをずっと愛用していること、7年前に来たこと、会ってインタビューをしたかったことを少しずつ伝えた。そうしたらご主人はそれに答えるように色々と話してくれた。当時のことも、それからどんな思いで過ごしているかということも、唐津焼への想いも、話してくれた。一つひとつのことばを丁寧に選んで話している様子が印象的で、まるで吉野敬子さんご本人と話しているかのような不思議な時間だった。

それから、喫茶に隣接しているギャラリーも見せてもらった。

吉野魁さんと吉野敬子さんの作品が並べてあって、まさかもう一度出会えるとは思っていなかったので、私は感激しながら一つひとつをじっくりと眺めた。

静かで、時間の重みを感じるような空間だった。
ときおり、なにか語りかけてくるような気配のものもあって、それはまるで対話しているかのようで。夢か現か、色々な境界が曖昧になるような体験だった。

それから私はこの場所で、魁さんの絵唐津の鉢と、敬子さんの片口を選ばせてもらった。一生大切にしようと心に誓った。

ホテルへの帰りみち、私はふわふわとした気持ちをまといながら考えた。

これまで、ほんのすこしのことからすれ違ったり後悔するような場面ってたくさんあった。もっとこうしておけばよかったなぁ、なんて思ったときにはもう遅くて、それでも時間はどんどん流れていくし、日々を淡々と過ごしていかなければいけない。しかしその中でも、生身の身体を使って、受け止め、考える。その過程をもっと大切にしていきたいなぁと思った。なんのために?以前に、人として、もっとできることが私にはあるのかもしれない。

なんだか今回の唐津旅はそんなことを考えさせられたなぁと、あらためて思ったのです。

そうして奈良に帰ってきていま、唐津のある陶芸家さんのインタビュー記事を書いています。ずっと会いたくて、このできごとがあった翌日に、1日たっぷり取材させてもらいました。

しかしそのまえに、ちゃんとこの日のことを振り返っておきたくて。
このnoteを書きました。

私にとって、まだまだ唐津の旅は続きそうです。

***
暮らしとうつわのお店「草々」

住所:〒630-0101 奈良県生駒市高山町7782-3
営業日:木・金・土 11:00-16:00(たまに不定休あり)

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