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世界の文様❷ 「寅(虎)文様」(神人竜虎画像鏡)

今年は寅年。十干十二支でいうと「壬寅」。
「陽気を孕み、春の胎動を助く」という意味がある。
壬は陰陽五行説では水の陽を意味し、厳冬や静寂を表す。文字と読みは妊と同音であるから、孕みの意味も持つ。寅は「螾(みみず)」に通じており、春の発芽の状態を想像させ、春の胎動の意味を持たせている。

古代中国では、寅は「百獣の王」とされ、強さや権威を示す文様として使用した。また中華思想を表す象徴の一つである「龍」との組み合わせも多く見られる。

寅は古代オリエントでも地上の王を象徴する文様として、メソポタミアのシュメール期にも多く見られる。ちなみにメソポタミア文明を開花させたティグリス川はラテン語で「tigeris」書き、ティグリス川の速い流れを意味しているが、俊敏な動きや水の流れの力強さから、後に虎を「tiger」と名づけたのではないかとも言われている。

さて冒頭の写真は、岡山県瀬戸内市の築山古墳から出土した銅鏡である。
神人竜虎画像鏡と名づけられているとおり、シャーマンまたは仙人を表す「神人」と竜と寅が描かれている。これは仙人や神人に永遠の命を願い託すという中国の「神仙思想」からきていると推測され、竜と虎が描かれているのは、仙人や神人が暮らすとされている異形の理想郷を示すとされている。

この鏡は同様のものが日本各地の古墳から出土しており、後漢時代に元となった鏡を真似たものか、その鋳型によって数多く製作されたのではないかと考えられる。いずれにしても渡来品ではなく、国産である。

その後、虎は日本でも数多くの芸術や工芸に使われ、権威や力の象徴となったり、吉祥文様の1つにもなり、日本独自の虎文様としての意味が確立されてきている。

やはり文様は旅によってさらに新しい価値や意味を増していくのである。

壬寅年。長く続いたコロナ騒動に終止符を打ち、新たな時代の胎動が動き出す年となって欲しいと切に願う。

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