ごめんなさいと、桜とあなた。-短編-
本当に嫌な時の高人さんは、怒るとこわい。
「高人さん、ごめんなさい。」
しょぼんと、背中を丸めて縮こまる。
「何がごめんなさいなんだ?」
俺の部屋のリビングで台本を読みながら、目線は台本のままで聞いてくる高人さん。本気で怒ってる。
「その、高人さん嫌だって言ってたのに…お医者さんプレイ強要しちゃいました…」
「台本入れてる時に何で手が出るんだよお前は。仕事する気あんのか大根が!やらねぇなら邪魔すんな!」
声を荒げる高人さん。ちくちくする。
うー。どうにかしてごめんなさいを受け入れてほしい。
「…うぅ、ちょっと頭冷やしてきます。」
「……。」
高人さんは無言だ。すくっと立ち上がりマンションを出た。
「深夜だし、コンビニ行っても大丈夫かな。」
とぼとぼと近くの公園を歩く。ここを抜ければすぐに目的地だ。
「…」
ザァっと春の風が吹き抜ける。
空を見上げても、ビルの灯りがあたりを照らしているせいで、星なんて一つも見えない。なんだかもう、これ以上歩くのも億劫で、近くのベンチに座った。
ふと真上を見ると、桜が咲いてる。
さわさわと揺れる枝。昼間と違う夜を纏う桜も、今は色褪せて見えた。
はぁ。はしゃぎすぎてしまった。
もう少し自重しないと高人さんの仕事を邪魔してしまう。共演するなら尚更。
出会った時の嫌われていた自分を思い出してしまう。
「おい、こんな所にいたのか。電話出ろよ。」
コツコツと、歩いてくるのは高人さんだ。
「あ…高人さん…」
ちょっと気まずくなって項垂れる。
「お前帰ってこないから探したじゃねーか。車のキーは玄関にあるし、歩きならここかと思ったらアタリだったな。」
高人さんは俺の横にどかっと座り、足を組んで空を見上げる。
「高人さん、ほんとごめんなさい。」
「ん、いや、俺も、ごめん。」
高人さんも、なんだか言いにくそうに謝ってくる。
「え?」
俺はきょとんとしてしまった。だって高人さんが謝る事なんて何も無いのに。
「…言い過ぎた。」
ぽりぽりと頬を掻きながら目を逸らした。
「そんな、俺が悪いんです。」
困ったように高人さんが俺を見ている。
「お前、いつもはどんだけ俺が嫌だって言っても懲りもせず襲いかかってくるくせに。」
「今日は仕事の邪魔しちゃいましたから…。」
怒られても仕方ない。と思うとまた、へしょっと萎れてしまう。
「ほら、ここ!頭置け!こんな夜中じゃ誰も見てねーだろ。」
高人さんが、膝をポンポンと叩いている。
膝枕してくれるんですか?嬉しくなって、ぱぁっと笑顔になる。
「おじゃまします」
ぽすん。と高人さんの膝に頭を置く。仰向けで寝ると、上から覗き込む高人さんがよく見えた。
「どうだー?少しは気分晴れたか?」
「はい♡」
なんだか、高人さんも幸せそうだ。それを見ている俺も心がぽかぽかする。
髪を梳くように頭を撫でてくれるのが気持ちいい。もやもやした気持ちは春風が攫っていく。
「高人さん、桜、綺麗ですね」
言うと、高人さんも頭上の桜を見上げる。
「そうだな。夜桜、綺麗だな。」
あなたが居てこその景色だ。
高人さんの後ろで揺れる桜は本当に綺麗だった。
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