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ラスボスが高人さんで困ってます!3

昼間、高人さんの匂いを嗅いでから身体がおかしい。昂りが収まらない。

夕食を食べて、後片付けや風呂も済ませて、いつも通りにそれぞれの部屋に入ったとこまではまだ良かった。高人さんの前では平気な顔をしていれたのだけど…。
暗い部屋に入り布団にうずくまる。
「なんだ…これ…っ」

身体の真ん中にぽっかり穴が空いたような喪失感と、それを補いたい焦燥感。欲情して乱れた呼吸は、意識して正常に戻す。

「…っ…はぁ…ふ」

性欲だけなら、まだ抑えられるのに、この喪失感に涙が止まらなくなる。異常なほど喉が渇く。

何を失ったのだろう。喪失感を補うように自分自身を慰める。慰めずにはいられなかった。
「は…はぁ…っ」
溢れる先走りでぬるぬると自身を追い立ていくと程なくして欲望を吐き出す。けれど収まらない。
あの香りを嗅げば落ち着く…と、本能が語りかけてくる。

「…だめだ…今は…」
こんな状態で行ったらきっと彼を襲ってしまう。
「はぁ…は…高人さん…高人さん…」

あの人の白い肌に触れて着物を乱して、首筋から…キスをして…擽ったそうにしてる彼の唇を奪って…。蕩けた彼の胸もたくさん弄って…、彼のモノも弄ってあげよう。
―もう、だめ…ぁっじゅんたぁっ―
かわいい。もっと乱れたとこ見せて…

「はっ…っ…ぅっくっ」
口の端から涎が伝うのもお構いなしに、自身をぐちゅぐちゅと刺激する。ただ埋まらない何かを満たすために慰め続ける。

襖を開ける音がする。だれかが近寄ってくる。

「わんこ?なんか苦しそうな声が…」

俺の顔を覗き込む、待ち侘びた香り。竜族の雄を呼び寄せる…

どろりとした白濁で濡れた手で、彼の頬を撫でる。
「高人さん…夢…?」
高人さんが驚いたように俺を見る。
「わんこ…お前…」
腕を掴みぐいっと布団に引っ張り込み高人さんを組み敷く。
「うわぁ!?」
「おねがい、名前がいいです…わんこは嫌だ。」
顔を赤らめ切なく悲しい顔で高人さんを見つめ、彼の首筋に顔を埋める。
ああ、いい香りだ…。ミルクのようにまろやかで…花のように甘い香り。夢でもいい。鼻を擦り付け匂いを嗅ぎ、ベロリと首筋を舐める。
「ちょ!おい、目を覚ませっ…あっ」
高人さんは抱きしめる俺の胸を片手で押し返そうとするが、力が入ってない。掴んだ右手は布団に縫い付けてスルスルと指先を絡める。抵抗は無い。都合の良い夢だ。
いいにおい…。頭がふわふわする。高人さんの着物の襟を引っ張り肌を露出させ露わになった鎖骨にキスをした。これ以上は高人さんの手が邪魔してして舐められない。ちゅっちゅっと鎖骨を吸い、また首筋に顔を埋める。
「名前…高人さん…よんでほしい…。」
「んっぁっまて…まって…っ」
首筋を舐めると、身体がビクリと反応する。
俺は無意識に口元が笑ていた。
香りを堪能しながら貪るように舐めつづける。
すき。すき。すき。もっと欲しい。もっと…もっと。
「おねがい高人さん。わんこだと寂しいんです…」
「ぁっ…んっわ、わかったから、舐めるなっ」
耳を舐めて耳たぶを喰むみ、耳元で低く囁く。
「"准太って呼んで…"」
高人さんがビクリとする。
「ぁっ…っお前…やっぱり……っチュン太!ちゅんた!言ったぞ!もう舐めるなぁ!」
高人さんが一瞬黙ると、すぅっと空気を吸う。

「―"目を覚ませ!"」

高人さんの大きな声が急にリアルに耳に届いた。

ハタっと止まる。…夢…?じゃ…ない。
ムクリと身体を起こして高人さんを見つめる。首筋を抑えて涙目で顔を赤らめ、さらにこちらを睨んでいる高人さんがいる。
可愛い…。いやいや…そんな場合じゃない。
あの喪失感が嘘のように満たされていた。
「え…っと…ごめんなさい。」
高人さんは着物の襟を正すと起き上がった。
「チュン太、そこに座れ。」
「……ハイ。」
正座して、犬耳をへしょりと垂らす。

「お前、竜族の血縁者が居るんじゃないか?」
怒られると思っていたらそうではなくて、きょとんとする。
「…竜族ですか?」
「お前の先祖に、瑞穂の…ヘルガルド出身者が居るとか…」
言われて気付いた。祖母の名前だ。
「…祖母の名前が、ヤチヨといいます。この名前って…」
「東の名前だな。お祖母様のご実家の姓は分かるか?」
そう言えば、祖母は天涯孤独なのだと聞いたことがあった。里を飛び出して祖父の元にやって来たのだと。
「いえ、祖母は天涯孤独だと…ずいぶん昔に里を出たと祖父から聞いた事があります。」
高人さんが考え込む。
「お前は多分、竜族のクウォーターだ。無意識だろうがさっきお前言霊を使ったんだ。」
「ことだま…てなんですか?」
「あー、そうだよな…お前は魔力とか霊力とか分からないよな。まぁ、簡単に言うと他人を従わせる言葉だ。お前は俺に、"准太と呼べ"って言葉で俺を従わせようとしたんだ。一言に魔力を乗せて他人を従わせる力は竜族にしかない。」
俺は驚いて目を見開く。俺はそんな事をしていたのか。
「その言葉で高人さんに害はないんですか?!」
心配で高人さんの肩を掴んで慌てて聞いた。もし俺が高人さんを傷付けるような真似をしていたのだとしたら…そう思うと胸が張り裂けそうになる。そんな慌てた俺の額を、高人さんは軽く小突いた。
「ぁ、あるわけねーだろ。跳ね返してやったわ!純血と半端もんを一緒にすんじゃねーよ!」

その余裕そうな表情にホッとするが、なんか視線を逸らして悔しそうにしている。
「あの、ほんとに大丈夫ですか?」
「問題ねーよ!」
言葉に力を乗せるってこんな感じだろうか…。
軽く、ほんの少し言葉に意識を集中してみる。
「"俺の名前を言ってみて?"」
高人さんがまたビクリとする。
「……チュン太。」
「え、准太ですよ?」
「うるせえ!チュン太で十分だ!ヒヨッコ竜のチュン太だ!!」
悔しそうに顔を背ける。言霊はあまり使わない方がいいかな。どんな表情も高人さんは可愛いけれど、多様していいものでは無い事は何となく分かった。
「あはは。確かに何も知らないチュン太ですね。」
「…ったく…なんでお前の言霊こんな強えんだよ。発音くらいしか抵抗できなかった。分かってるだろうが、他人に向けて使うのは緊急事態の時だけだ。わかったか?」
「多様しない、悪用しない、なるべく使わない。ですね。」
「そうだな。コントロールも覚えろよ…?あと、そのうちに、お前のお祖母様に会ってみたい。」
そうか…祖母が竜族かもしれないから…。
「いいですが…海の反対側ですよ?」
ヘルクラウンの真反対にあるのだ、船で迂回して西大陸に着くまで船で一ヶ月といったところだ。あまりに遠い。
「飛べばいいだろう?」
さも当たり前というように言う。
「飛べるんですか?魔法ですか?」
「魔法もあるが、それじゃ魔力消費が激しいから長距離移動には向かないな。」
じゃぁ…どうやって…と考える。
「もしかして、龍になれる…とか。」
「当たり前だろ。竜族だぞ?」
いったいどんな姿なんだろう。とても気になる。

「ああでもその前に、チュン太はこの土地の事とか自分にどんな血が混じってるとか、魔力の使い方とか勉強しないとな。俺と一緒にいるから竜族の血が活性化してるんだろう。」
「俺でも魔法は使えますか?」
「使えたじゃないか、言霊が魔法の基礎だ。その言霊を精霊に向ければ精霊が力を貸してくれる。加減しないと災害が起こるから、お前は使うの禁止だからな。」
「はい。わかりました!」
高人さんは、なんだか楽しそうに俺に教えてくれていて、その姿を見ると幸せな気持ちになってくる。

「あ、明日から子供達の授業にお前も加われ」
「へ?」
「その方が手っ取り早い。子供の相手も頼むな。これで俺は教材作ったり採点する時間が取れるし、お前はこの里に馴染めるし必要な知識も手に入る。いい事尽くしだな!決まりだ!」
高人さんはふふふと笑って立ち上がった。
「高人さん、帰っちゃうんですか?」
立ち上がる高人さんを見ると、また身体がソワリとする。また"ああ"なりそうで、少し怖い。
「ああ…お前の布団ぐちゃぐちゃだな。俺の部屋で一緒に寝るか?」
高人さんが呆れたように布団を眺める。俺は嬉しくて高人さんを抱きしめた。
「1人で寝れそうもなくて…嬉しいです。」
「その辺の説明も今度してやる。とりあえず今日は寝るだけだぞ?」
「はい。高人さんの嫌がる事はしません!」
ぱっと手を上に上げて誓いを立てる。
一緒にいれたらいい。嬉しくて仕方がない。
俺は高人さんと一緒に高人さんの香りのする部屋に入り、一緒の布団に入る。
いい匂い。大好き。とても満たされる。
背を向けてしまった高人さんを後ろから包むように抱きしめる。
「おやすみなさい。」
「ん、おやすみ。」
高人さんから返事をもらって、俺はそのまま深い眠りについたのだった。

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