ラスボスが高人さんで困ってます!19
ガヤガヤと、村人や、外から来る者が行き交う広場。
朝市では、新鮮な魚や野菜、山菜や、魔物の肉なんかも売っている。柳の木が立ち並ぶ広めの広場は、亜人達がたくさん集まる場所だ。この広場を抜けた先は港なので潮風が風に乗って薫ってくる。
「夜、何食べたいですか?」
チュン太が食材を見つめて、俺に聞いてくる。
「魚がいい。」
俺は簡単にそう言うと、俺は屋台を見にふらりと回る。魚や野菜、肉を串焼きにして売っている。
俺は各種2本ずつ色々な種類の串焼きを買った。
その中の、きのこを丸ごと串焼きにしたものを袋から引き抜いてハフハフと口に運ぶ。
焼きたてで熱くって中々噛めないが、香りが強く、噛んだ時に、じゅぅっと汁が溢れて手に垂れた。
その汁をペロリと舐める。何やらジロジロ見られてる気がするが、まぁいつもの事だし気にしない。
溢れた汁がまた出汁の味がしてとても美味しい。
「うま。」
ちまちまときのこを齧りながらチュン太の買い物を見にいく。
「チュン太、どうだ終わったか?」
「はい、今夜は煮魚に…」
こっちを向いたチュン太がピタリと止まる。
「?」
俺はきょとんとして首を傾げた。
「チュン太?心配しなくてもお前のぶんもあるぞ?」
「高人さん、ちょっと来てください。」
俺はチュン太に手を引かれて路地裏に入る。
「な、なんだよ。お前の買い物はおわったのか?」
「はぁ――。もう、なんてもの外で食べてるんですか?」
チュン太は盛大なため息を漏らす。
「いや、キノコの串焼きだけど。美味いぞ?」
はむはむと食べていると、チュン太がまた言葉を詰まらせる。
「そういうのは家で食べて下さい。」
「なんでだよ、こいつは焼き立てが美味いのに。」
不服そうにしている俺にチュン太は困ったように俺を見る。
なにをそんなに嫌がるのか分からないでいると、チュン太は焼きキノコを持ってる俺の手を掴む。
「俺も食べていいですか?」
「……い、いけど……おまえのもあるぞ?」
「貴方のを食べますから、高人さんにあげますよ」
チュン太はそう言うと隣の木箱に座り、俺の手を引き寄せて口を開ける。きのこのイシヅキから茎、かさの部分に舌を這わせて先端にキスをしている……。これじゃあまるで…。
そして俺を上目遣いに見上げてふっと笑う。
「……どう見えますか?」
俺は顔を真っ赤にしてチュン太を見下ろす。
「飯くらい…何も考えずに食えねえのかよ。」
「こんなの誰だってそう見ちゃいますよ。」
チュン太はぐいっと俺の手を引き寄せると、バグっときのこに噛みつき半分以上食べてしまった。
「あ――。美味いとこ全部食いやがった。」
茎の部分だけ残って寂しくなったきのこを見つめて俺はムッとする。
「もう一本あるんでしょ?帰って斬り分けてあげますよ。」
チュン太はニッコリ笑って歩き出したので、俺は後ろを付いていった。
――――――
あー、お腹いっぱいだ。この調子だとお昼ご飯も要らない。
俺は、食卓の畳に寝転がる。
「はぁ――幸せだな。やっぱ家がいいな。」
ゆったり過ごしていると、いつの間にかチュン太が、炊事場から上がって来ている。
「高人さん、お茶どうぞ。」
「ありがと。もう家事はもういいのか?」
「夜の仕込みも終わったし、お風呂の水も入れ替えましたし。あ、早めに入りたいなら沸かしちゃいますけど、どうしますか?」
暇なら、昨日の続きがしたいのだが……、俺はがっ付きすぎなんだろうか。
「なぁ、チュン太、昼間っからこんな事言うの……どうかと思うんだけど……」
もじもじとしている俺を、チュン太はふふっと笑いながら俺を見る。
「な、なんだよ。」
「いえ?高人さんからのお誘い、嬉しいなぁと思って。あ、気にせず続きをお願いします。」
チュン太は上機嫌にニコニコと笑って俺の言葉を待っている。
というか、こいつは俺が何を言いたいのか気付いているのだ。それでいて、言葉に出させようとしている。
気付いているなら、言う前にそっちから誘ってくれればいいのにっ。俺は顔を赤らめてふいっとそっぽを向く。
「…………やっぱいい。」
よくない!ぜんぜんよくない!!続きしたい!!
発情期とは本当に困ったもので、意地を張りたい気持ちと、甘えたい、触れたい気持ちが対立する。
「え――、本当に?いいの??」
チュン太は食卓に肘をつき、じっと俺を見て楽しそうに首を傾げる。
「い……っ……よくない……。」
やっぱり本能には勝てない。視線を外してボソリと言う。
「それじゃあ、おねだりしてみて?高人さんの欲しいものあげます。」
…………欲しいもの……。
本能が期待する。ゾクリと身体が震えた。
俺の変化に、一瞬驚き、そして優しく微笑むチュン太。
「ほら、言ってみて?」
パチンッと何かが切り替わる。ゾワリと身体が沸き立ち、身体が熱くなる。いつもなら、不安でいっぱいになるこの感覚も、チュン太が居るからか安定している。
「ちゅんたに、ぎゅうってしてもらいたい。」
「抱きしめて欲しいの?じゃあ、ほら、こっち来て?」
チュン太は、俺の言葉にふっと笑って、両手を広げて待っている。
こいつ、俺が逆らえないと思って調子に乗っている。
でも、そんな指示すら気持ちよくなってしまうのは、きっと発情期の昂りのせいだ。
四つ這いでヨタヨタとチュン太の元に行くと、膝の上にちょこんと座る。せめてもの抵抗で、向かい合わせではなく、胸に背中をくっつけて椅子のように座ってやった。
どう反応するだろう。ソワソワしてしまう。
チュン太はキョトンと俺を見ていたが、すぐにクスリと笑い、後ろから抱きしめてくれた。
「……ん……っ」
ああ、気持ちいい。背中にじわりと温かさが広がる。
「高人さん、気持ちいいの?良い香りがしますよ。」
抱きしめたまま、首筋に顔を寄せてくる。
「お前も興奮してるだろ……?」
チュン太からは、重くて甘い香りがする。いい香り。
腰のとこに、硬いモノが当たりドキリとする。
「あはは。バレちゃいました?もう、高人さんの全部を俺の物にしたくて、我慢するの大変。」
ふぅと戯けて言っているが、吐く息は熱く震えていた。
俺はなんで、意地を張って背中をむけてしまったのだろう。今、チュン太がどんな顔をしているのかも見えない。
「チュン太……」
顔が見たくて、振り向くと、チュン太も顔を上げて俺を見つめる。
「ん?次はどうしたい?」
低い声が、熱い吐息と共に問う。苦しげに切なげに俺を見つめて答えを待つ姿に、ゾクリとする。
「っ……キスしたい……っぬるぬるする甘いキスが……――っ」
言い終わる前に俺の頬に手を寄せて、噛み付くように舌を絡めてくる。
「んっふっはふ」
呼吸する暇がなくて、キスの合間に熱い吐息を吐く。
舌を吸われ、口の中を蹂躙するように舐めまわされる。そうかと思えば唇を優しく啄まれてその包まれるような優しいキスに身体が蕩けていった。
「高人さん……お布団いきましょうか。」
唇を離してトロリとした俺に、チュン太が話しかけてくる。俺は俯き加減で頷いた。
チュン太は俺を横抱きに抱えると、スクッと立ち上がり、俺の部屋へと向かった。