忘れられない患者さん
これまで沢山の患者さんに出会ってきた。
いろんな患者さんがいて、
まさに十人十色。
病気の捉え方
治療に向かう姿勢
医療者に対する接し方も違う。
そして何より、
患者さんによって生活背景が全然違う。
なかでも、
〝私には看護師が向いてないのかも。
看護師を辞めたい〟
と思った患者さんとの出会いがある。
こんな感情になったのは、
この時が最初で最後。
ただその辞めたい感情はたった数日のこと。
周りのスタッフからの言葉で、
辞めたい感情は一瞬にして
〝こうゆう患者さんのためにも
私は看護師を続けていきたい〟
に変わった。
患者さんに順位はつけたくはないが、
その患者さんの存在は間違いなく
私の看護師人生の中で
1番自分に影響を与えてくれた患者さんだった。
私が看護師という仕事がこんなにも好きになったのもこの患者さんに出会ったからこそだと思ってる。
私が受け持ちをさせてもらったのは
Aさん 60代男性
一人暮らし
身近な家族はお姉さん
だが、お姉さんとの関係もあまりよくない。
人付き合いも苦手で親しい人もいない。
入院してきた時にはすでに癌の末期。
緩和目的で手術を受けた。
術後も熱が続いたりと、
スムーズな経過ではなかった。
私が仕事に出ると必ず担当になる。
いつ声をかけてもほとんど笑顔はない。
悪い表現かもしれないが、
とっつきにくい性格だった。
ある日、日勤に行くとAさんは高熱を出した。
もちろん体も辛いはず。
そんなAさんは私に
「あなたは僕にとって厄病神だね。
あなたがきたから熱が出たでしょ。」
と、真顔でそう言い放った。
私はショックのあまり返す言葉も出てこなかった。なんて言葉をかけたのかも覚えてない。
これが初めて
〝看護師を辞めたい〟と思った瞬間。
Aさんに対して何か嫌なことをした心当たりもない。
ショックのあまり詰所に戻り涙を流し、
チームのメンバーにAさんに言われた言葉を話した。
すると先輩から、
考えてもいなかった言葉が返ってきた。
「Aさんは私に対してはそんなに冷たいことは言わないよ。Aさんには身近に自分のネガティブな感情をぶつける人がいないから、あなたにぶつけてきたんだね。それは、あなたに心を開いてるってことだと思うよ?」と。
Aさんが本当はどんな気持ちで放った言葉かはわからない。
だけど、先輩が言ってくれたことが本当ならば嬉しいこと。
気持ちを切り替えて、その後も何事もなかったようにAさんと関わった。
長い入院生活で少しずつプライベートの話をするようになったところでAさんは退院した。
しばらくしてまたAさんは入院してきた。
Aさんの顔を見に行くと、
「○○さん、これ見てほしい。」
そう言い、一冊のアルバムを見せてくれた。
「もぉ先も長くないし、財産を残していてもあげる人もいないから。自分が生活しやすいように自分のために家をリフォームをしたの。」
そのアルバムには、自宅のリフォームした箇所を写した写真が入っていた。
自分に残された僅かな時間で、
残された財産を使って、
自分の好きなように過ごしやすい家に。
それがAさんの自分への最後の投資だった。
アルバムを見ながら説明してくれるAさんは、
笑顔で、生き生きしていた。
Aさんは2回目の退院後しばらくして、
自宅で1人で亡くなられた。
どんな気持ちで1人で息を引き取ったのかはわからない。
だけど私は、
Aさんが自分で好きなようにリフォームをした自宅で、
誰にも気を遣うことなく最期を過ごせた事は幸せだったんじゃないかな?と思っている。
そうであってほしいなーと思ってる。
Aさんと築いてきた関係性。
もちろん最初は辛かった。
だけど、私は
〝Aさんのような患者さんのためにも
これからも看護師を続けていきたい〟
そう思った。
Aさんに出会えて本当によかった。