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初心者が宝石研磨に挑戦してみた
きれいな宝石がほしい。高いから買えない。それでもほしい。そんな葛藤を繰り返しては、宝石へのあこがれを募らせている。百貨店にある宝飾店は横目でみることしかできないが、イオンにあるストーンマーケットには気軽に入れる。私は大人になっていた。学校の帰り道に落ちていたBB弾を拾いむじゃきに喜んでいた自分にはもう戻れないのだ。
そこで、お金をかけずに宝石を手に入れる方法を考えてみた。宝石になる前の原石を磨けば、求めていた宝石に近づけるかもしれない。
原石を探しに海や川へ訪れたが、そう簡単には見つからなかった。長い年月をかけて創られた結晶が「ポン」と人目につく場所に転がっていたとしたら、すでに私以外の誰かに採取されているだろう。このままでは夢が途絶える。そういえば昔、博石館という博物館で天然石をしこたま掘り起こしたのを思い出した。
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正直このままでもきれいだ。しかし自分好みの形に変えて磨けば、もっと価値のある石へと生まれ変わるはず。今回はこの天然石を使って、私が求めている宝石がつくれないかを2つの方法で検証してみよう。
石を磨く練習
と言ったものの、石を磨いた経験はない。来たる本番に向けて、夫と一緒に蛇紋石(じゃもんせき)磨きの体験に行ってきた。
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石の表面が蛇の皮膚に似ていることから蛇紋石とよばれているそうだが、今のところ模様は見当たらなかった。磁石にくっつく石を選ぶといいらしい。
体験をする人は私たち以外おらず、他の来場者の視線をひしひしと感じる。受付の人に「頑張ってくださいね!」と激励され、さらに目立った。余談だが、この数日後に結婚指輪をなくした。(再購入した)
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形がきれいな石を見つけたため、写真に載っていない石を選んでしまった。これは後から聞いた話だが、平らな石はどうやら磨きにくいらしい。目先の欲にとらわれてしまった。石磨きの体験は1時間。耐水ペーパーとよばれる紙ヤスリに水をつけて磨いていこう。
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1時間磨き終わった。石が濡れているため比較が難しいが、わりときれいになった。均一に磨けなかったためか、色ムラが目立つ。思ったよりもかなり難しい。
しばらく休憩していると、受付の人が「そういえば館長が磨いた石があるんです」と嬉しそうに持ってきてくれた。
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予想をはるかに上回るピカピカ具合で笑ってしまった。これだけ磨けば唯一無二の宝物になるだろう。思い出づくりにぴったりだ。
実は原石が見つからず散歩がてらに寄った施設なのだが、まさか石磨きを体験できるとは思わなかった。偶然の産物とはいえ運命を感じずにはいられない。受付の人と不在の館長に深くお礼をいい、施設を出た。
手で磨く
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必要な道具などは宝石メディアの記事やYouTubeの動画を参考に揃えた。磨くのは「モスアゲート」という天然石で硬度は7。森林浴に似た効果があるといわれている。その名前に倣い、音楽でも聴きながらリラックスして磨いていこう。まずは整形からスタート。
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4時間かかった。しんどすぎる。ヒーリングには不向きな作業だ。元々ツヤがあるため、長時間磨いたわりには変わり映えしない。本当はひし形にするつもりだったが、思い通りに削れなかった。残りは荒い目のペーパーで調整することにした。
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傷が消えない。ペーパーの番手が高い可能性がありそうだ。番手が高いほどヤスリは細かくなり、きれいな仕上がりになる。この段階で800番を使うのは完全なるミスだ。
また石によって硬度や成分量が異なるため、どの番手が最適かを見定めるのは骨が折れる。ここは堅実に番手を下げていこう。400番で磨いていく。
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さすがに飽きてきた。石が研磨されるたびに持ち手の範囲が減り、何度か掴み損ねて不機嫌になる。構わず無心で磨き続けた。
磨いているうちに傷が減ったため、800番に戻った。石が滑らかになったら1000番に移るとしよう。
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滑らかさが出てよかった。反省点をひとつ挙げるとすれば、表面の磨きをおろそかにしたことだ。
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傷を消すには番手を戻すのが手っ取り早いが、どの番手の傷かわからなくなっていたため、潔くやめた。手は限界に近いが、磨き続けよう。次は1500番だ。
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次第に光沢が強くなり、iPhoneが石に映るようになった。力を込めて磨いたせいか、傷が増えたように感じる。石磨きは力加減ひとつで傷がついたり変形したりする恐れがあるため、仕上げの工程はかなり重要になってくる。2000番に入ろう。
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すでにピカピカなので傷がつかないよう慎重に磨いていく。載せてはいないが、石に顔が写るようになった。最後の仕上げだ。
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問題発生
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5分磨いた時点で傷がついた。まもなく精神が崩壊しそうになった。傷も疑問も残ったままだが、ひとまず2000番に戻るとしよう。
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ある程度の傷は修復でき、かがやきを取り戻した。腱鞘炎の足音が聞こえてきたため、今度こそ確実に仕上げたい。
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完成
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ひかりはじめた。レシートで磨くときれいになるとの噂だが、また傷がつくと心が壊れるためここで終了。整形から仕上げまで9.5時間かかった。
とにかく手で磨くのはしんどい。が、達成感もあった。単純作業のため音楽を流しながら磨いてみたが、これが功を奏した。応援歌をひたすら流すことで自我を保てる。しかし力加減を誤ると一瞬で石が傷つくため、作業中のよそ見は厳禁だ。
傷がついたまま高い番手で磨き続けても、傷は取れない。ここをサボると宝石のような美しさには遠く及ばなくなる。どれだけ心が折れそうになっても、後悔のないように磨くことを心がけておきたい。今回はピカールの投入タイミングが掴めなかったため、次回こそはリベンジする。
機械で磨く
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リューターの音があまりにうるさかったため、夫の実家で作業させてもらうことになった。こちらも必要な道具はWebで調べて揃えた。写真には載せ忘れたが、粉じんを吸わないためにも防塵マスクの着用は必須だ。
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磨くのは「アベンチュリン」という天然石で硬度は7。イライラや不安を抑える効果があるといわれている。その名前に倣い、冷静さを失わず、落ち着いて磨きたいと思う。まずは形を整えよう。
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なんとか切れたが、傷がすごい。気づけば水に一切つけることなく終わってしまった。切断時にも水をつけておけば、摩擦熱や石くずの飛散を抑えられる。切断面も滑らかに削れたかもしれない。
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軍手を着用しているが、手袋の繊維が工具に絡まり指が巻き込まれる可能性があるため、本当はやめておいたほうがいい。
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研磨中はリューター音だけを聞き、ただ石と向き合う時間を味わっていた。やがて石の声が聞こえたり、会話したりする日が来るかもしれない。
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どんな宝石にしたいかをイメージしよう。目指すのは「バゲットカット」という形だ。
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写真では分かりづらいが、様になってきた。急にテンションが上がる。毎回思うが、元からきれいな石を削るのは写真映えしない。
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整形が終わった。磨いたら本当に宝石になるのか、それともセボンスターになるのか。どちらにしろ初心者が磨いたものに価値の優劣はないのかもしれない。ちなみに、ここまで3時間かかった。手動より1時間早い。
余談だが、夫の実家に行くといつも魚料理を振舞ってくれる。この日は鰹のタタキをご馳走になった。その日は幸せの余韻に浸りながら自宅に戻った。
リューターを使う
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夫からプラモデル用のリューターを借りた。工具用のリューターはアパートで許される騒音レベルを超えていたため、引き出しの奥にしまっておいた。アタッチメントにヤスリを両面テープで固定し、磨いていく。
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かなり高速で磨けるが、音はそこまでうるさくない。そして早い。
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手で磨くよりはきれいになるが、もちろん傷はつく。自動で磨けるぶん、力加減が試されるのだろう。ともあれ宝石っぽくなってきた。番手を変えて磨いていこう。完成はすぐそこだ。
問題発生 part2
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ピカールを使ったらめちゃくちゃ白んだ。調べてみたらピカールなどの研磨剤には番手の種類があるらしく、これ一本あれば済む話ではなさそうだ。図らずも前回の二の舞になってしまった。時は戻らないが、やり直そう。
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完成
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研磨から仕上げまで7時間かかった。前回と比べると2時間弱早い。削りすぎて形が歪になってしまったが、これも個性としよう。
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ピカールは使えなかったが、とてもうつくしい。
磨いてわかったこと
最初から最後までしんどかった。トラブルの連続で途中で何度もめげそうになったが、振り返るとすでに次の石を磨きたいと思う自分に驚いている。宝石研磨は楽しい。
これは仕事にもいえることだが、下調べを怠ると後にとんでもなく大変なことになる。限られた時間の中で失敗や練習を重ね、成功する喜びを知っていこう。
宝石は希少性があるため価値がある。しかし、見た目のうつくしさや値段で宝石の価値がすべて決まるわけではないのかもしれない。
鉱石採掘、宝石職人、鑑定士、バイヤー、宝飾店、そして私たち。宝石にかかわるすべての人たちに価値がある。そう言えるのではないだろうか。
私はこの検証を通じて宝石のことがますます好きになった。いつか迎え入れる宝石たちに出会えるのが、今から楽しみだ。
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