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拡大する組織の中でパーパスに対する揺らぎと向き合う:サイボウズの事例にみるSensemakingの本質
別の記事で「サイボウズさんが管理職復活させたのは意外」ということを書きました。100人100通りの働き方を標榜しているし、自律分散的なチームを目指しているのだろうと思っているからです。
こちらの記事は、日経新聞からたどってきました。なんと、「100人100通りの働き方をやめます」と宣言していたのですね。
でも、よく読むと「100人100通りのマッチングに変えた」ということで、やっていることの本質は変わらないし、目指すところは変わらないということでした。「社員数1000人を超えても、成長と幸福を両立させるための挑戦」…こちらが本意であるようです。やはりサイボウズさんらしいなと妙に安心(?)しました。
人数が増えることで損なわれるパーパス
記事の中で青野社長は、"1000人超えたあたりから組織としては、「よろしくない面」も出てきた”とおっしゃっています。わたしなりに解釈すると自由だけが強調されて、チームを成り立たせようとする規律が損なわれてしまったということのように思います。
ここでいう「規律」はルールのことではなく、チームのためになるかどうかというマインドのことです。青野社長は ”会社の理想を実現するため、チームの生産性に貢献するためのワガママなら通る” と表現しています。
問題は、人数が増える中、解釈の違いが生まれているということです。「100人100通り」は、試行錯誤を経て作られてきたものです。その過程を過ごした人は、体感的に分かっている一方、新しく入ってきたメンバーはそうではない。結果として “「100人100通り」が「額縁」に飾られたもの” のようになってはいないだろうかと危惧しています。
「企業は文化なのである」
ここで思い出したのは、組織理論家のカール・ワイクの言葉です。
企業が文化を持つのではない。企業は文化なのである。
文化とは、複数の人々が共有しあっている価値体系です。人が集まって活動することで文化が生まれます。とりもなおさず、それが企業であるということです。
わたしも「サイボウズさんらしい」という表現を使っていますが、2次的な情報からそのように解釈しています。体感しているわけではありません。外から見ていると、文化があるように見えるわけですが、実際のところは、「よろしくない面」という事象を通じて「ウチも大企業的になってきた」と青野社長自身が「ウチが大切にすべき文化」に対する違和感を体感し、発信しているということでしょう。
サイボウズ青野社長の理想と試行錯誤
結局のところ、人数が増え続ける中での試行錯誤が続いているということなのでしょうね。その時に大切なのは、「ウチはこうであるべき」と頭ごなしに従わせようとしてもうまく行かないということです。
青野社長も、”「チームワークあふれる社会を創る」というパーパスに近づけるなら、僕も画一的なマネジメントを選びますよ。だけど、それでは一人ひとりが意思決定できるようになる気がしないんです。” とおっしゃっています。つまり、”一人ひとりが意思決定できるようになること” それが、企業の成長と社員の幸福の両立を目指す上での根幹だということです。
さらに、”過去には、ある大企業トップから「サイボウズのカルチャーや働き方は数百人規模だから成り立つのでは?」と言われ、カチンときたこともあるんです(笑)。” とおっしゃっています。この 「カチン」を勝手に代弁すると、「めっちゃ苦労して、みんなで作り上げてんだ、バカにするな!」ということのように思います。
Sensemakingによる組織形成
前述のカール・ワイクは、Sensmakingという考え方を研究論文の中で提唱しています。彼が発信しはじめてから、組織論のなかではさまざまに研究がなされています。組織内外で変化が起こる中で、「ウチのあり方」みたいなもの、たとえばパーパスや理念への解釈が曖昧になります。それを個人が再確認する、あるいは、組織として対話することでSensemaking、つまり、意味合いを再形成するということが起こります。
そのようなコミュニケーションがあることで、組織が出来上がっていくわけです。組織というのは、どこまでいってもバーチャルなものです。組織成員が「これがウチら」と定めることで生まれます。そのことをワイクは「企業が文化を持つのではない。企業は文化なのである。」と喝破しているのです。
揺らぎと向き合うことで経営の軸が定まる
記事の中で青野社長は、「これからサイボウズをどんな会社にしたいか」と問われてこう答えています。
聖域のない変化を求める上ではどこかのタイミングで見直すかもしれませんが、チームワークあふれる社会を創るという根本的なパーパスは、やっぱり大切にしたいですね。
チームでオープンに情報共有され、活発に議論して物事を決める。そこに貢献するツールを僕たちは提供する。世界中に普及させ、みんながチームワークを高められれば、世界そのものがよくなる。
僕自身は、この理想をこれからも追いかけたいです。
矛盾して聞こえるかもしれませんが、トップのリーダーがこうした理想を発信するからこそ、単に従うだけでなく、是々非々の議論が起こるのだと思います。そうでなければただのカオス、あるいは、逆に思考停止になっているはずです。
企業の理念や文化を研究していると、そうしたパラドキシカルな側面に気づきます。トップが発信するからこそ、揺れ動き、軸が再形成され、動的な安定状態になる。そのような試行錯誤を歓迎し、揺らぎと向き合いつづけられるリーダーシップや組織能力が、企業の永続的な進化には不可欠なのだ思います。