ハーバートを継ぐ者。#8
「ガレンジー刑事。各州境に覆面を何台か配置していますが今の所怪しいのはいません。」
ガレンジーは北の州境の側の歩道橋から北風に襟足を靡かせてら遠くを見るような目をした。
今はまだ何も起きなくて良い。しかし近い内に奴は必ず姿を表すはずだ。全ての準備は整っているから後は網にかかるのを待つだけだ。
「そう、まぁもうちょっと様子見てみてぇ…何かあったらもっかい報告して」
「分かりました。」
片手でトランシーバーの電源を切って一度手の上に舞わせてからポケットに押し込んだ。
歩道橋の下では配達用のトラックが何台も走っていた。そのトラック達が向かう先には州境の大きなトンネルがある。ドライバー達は嚥脂色の書類を係員に見せてそのトンネルへ入っていった。
北風の寒さに頬が震えるのを堪えられなかった。スーツの上に着るコートを持って来れば良かった。潜入をすると分かっていたなら尚更だ。
いつまでもこうしているわけにはいかない。そろそろ現れてもらわないと困る。
その時、ポケットから雑音がした。
ガレンジーは慌ててポケットからトランシーバーを取り出して電源を入れた。
「ガレンジー。スコフィールドだ。応答してくれ。」連絡してきたのはスコフィールドのようだ。向こうからかけてくることは珍しい。きっと何かあったのだろう。
「こちらガレンジー。状況は?」
「南の州境の事務所でちょっと揉めててね。何でも証明書を持ってるとか持ってないとか、通達したとか通達してないとかで。しかも食ってかかってる業者が怪しいんだ。」
ガレンジーはそこまで聞くと頷いた。
「おっけい。じゃあその業者を取り押さえておいて。」満足気にそういうとトランシーバーの電源を切ろうとした。しかしそれをスコフィールドが静止した。
「ちょっと待ってくれ。事務員の話も妙なんだ。何でも昨日から配達した時の伝票を係員に見せてから州をまたぐ決まりになったんだと。そんなの全然知らないよ」
「とりあえず配達業者を抑えておいてくれ。すぐに……」ガレンジーは言葉を詰まらせた。少し違和感を覚えたからだ。
事務所の方を見ながらスコフィールドと話していたから否が応でも係員と業者のやり取りが目に入る。業者達は皆、嚥脂色の伝票を係員に見せていた。しかし今眼前にいる男は伝票を出していない。
それで係員と少し言い争っているように見える。
「どうした?」スコフィールドが間の長さに異変を覚えた。
「悪いね。ちょっと切らずに待ってて……」