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ハーバートを継ぐ者。#10

 事務所の駐車場には既に覆面のパトカーが二台ほど停まっていた。がレンジーからの指示でいつでも犯人を逮捕できるようにとのことだ。

アスファルトの舗装が行き届いていない土のままの駐車場は大体十台ほどが停められるが今は覆面を合わせても四台しか停まっていない。

覆面の一台の中で待機している警官は腕組みをしながら次の指示を待っていた。ダッシュボードに寝かしているトランシーバーからはがレンジーと事務員と時々トラックの運転手の声が聞こえる。

ガレンジー腕前には本当に脱帽する。スコフィールド刑事と覆面部隊の自分達にだけ教えていた秘密作戦を見事に成功させた。それも今回だけではない。犯人逮捕のためならば組む人間も選ばない。しかしそれなりのポリシーは持っている。

同じ志を持つものとしか組まない。皆から尊敬されても尊大にならず上層部にも同期にも部下にも同じように接する。

そして何よりはその作戦の緻密さだ。

まずダンテ・サーチェンスの皮を被った何者かが逃亡に使ったトラックは荷物配達用のものだが通達に使われるファックスがついていなかった

配達員が外に出るときは必ず荷物の中に入れて持ち運ぶことになっていた。これは悪用を防ぐためだ。つまりは無人のトラックには通達が行かないということ。それに犯人が乗った。ガレンジーはそれを利用した。

 日本では室町時代、勘合貿易という貿易が行われていた。倭寇という日本の海賊が外国の船を荒らす事件が多発していたことから幕府は勘合なるものを発行した。

その勘合とは半分にされた札のようなものだ。二つを繋げると文字が出来上がる。正式な勘合でないと文字が出来ないようにもなっていた。

ガレンジーはそこから着想を得た。運送会社に問い合わせて次のような文書を全トラックのファックスへ転送した。

——通達——

オハイオ州を超えての配達を行う職員は設置されている事務所の事務員に以下の紙を提出してから州を越えること。

 
 その文章の下には半分になった”祈り”という文字があった。切り取り線があり、それを切り取って事務員に見せれば勘合貿易のように正式なトラックとそうでないトラックを見分けることができる。

つまり犯人を洗うことが可能だ。

勘合を持っていない配達員、つまりは車内にファックスがないトラックの運転手が犯人である。

完璧な作戦。ぬかりない人員の配置。独創的なアイデア。それがガレンジーの敏腕と言わしめる所以だ。

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