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ジャックは私です。#10
男性が自殺したのは新宿のとあるアパートの一室。側には遺書と酒の瓶が置いておいた。輪っかの形にしたロープを天井のフックに吊るしてそれに首をかけた。
男にはどうしてもしたいことがあった。それは男の中では義務のようなものだった。真っ暗な部屋の中に閉じ込められているその記憶に一筋の光を与えたかった。
その為にはこうするしかなかったのだ。
見つかったらどうなるのだろう。関係ない人間を巻き込んでしまうことになるかもしれない。
だがそれでも良い、と男は思った。
男性は頬を赤らめながら笑顔で首を吊った。
「刑事さん。今度は何なんですか・・・?」ぐったりとした様子で雨宮院長が問う。
そんな院長に、間部は容赦なく質問を浴びせる。「このカミソリはご存じですね?」犯行に使われた刃がついているカミソリを見せた。
「・・・えぇ・・・それはうちへの支給品ですから・・・」
尾身と間部は顔を見合わせた。「この病院にあるカミソリを全てここに持ってきてください。」
「何故そんなことをしなければならないのですか?」
「二人の人間がこのカミソリの刃とメスで命を奪われているんです。あなた方を疑ってかかるのは極自然なことです。」
「あなた方は無実の息子を無理矢理犯人に仕立て上げた!あれほどアリバイを証明しても信じなかった・・・もうこの病院には何もありません!これ以上犯人がいるとでも?私だってニュースぐらい見てますよ。似たような事件が起こったんでしょう!?」
「その全ての現場であなた方の所有している道具が見つかっているんですよ?」
「だからといって・・・うちを疑うのは違うのでは?そんなもの推理でも事件解決でも何でもないのではないですか!?」
「確かに推理でも何でもないです。ですが目の前にある事実を並べることも事件を解決することなのです。」
「・・・・そうですか・・・・もう好きにしてください・・・」院長は項垂れた。
二十人の警官は手分けして全てのカミソリを探し出した。それまでに一時間半を要した。
全てを合計すると三十個あった。
その中で刃が欠けているカミソリを探し出そうとした。だが幾ら目を凝らしても刃がかけたようなカミソリは発見できなかった。
院長は鬼の首をとったように「うちにあるカミソリはこれだけですよ・・・・」と皮肉を効かせていった。
間部は院長を睨んだ。尾身は間部に耳打ちした。「本当にこれだけか?発注書か何かの書類を調べてくる。」
尾身は事務室に向かって歩いていった。間部は尚もカミソリの列を凝視する。
「もう帰っていただけますか?他の患者さんにも迷惑なので」院長は低くいった。
「・・・・・・・」間部が返事をすることはなかった。一つ一つ手にとって注意深く見ているだけだった。
警官の一人が慌てた様子で院長室の扉を開ける。
「間部刑事!受付にこんなものが・・・・・」白手袋の上には刃の一部がかけたカミソリがあった。
間部は大きく目を見開いて院長の方を見た。
「おい、受付のどの辺りにあったんだ。」
「引き出しの奥深くにありました。」
「見せてみろ。」
間部と院長と警官と一緒に受付の中へ入った。電源が切れているパソコンのモニターやキーボード、マウス、書類、ペンタてなどの事務用品が散乱していた。
「ここです。最初は引き出しなんて分からなかったんですが、そこのフォルダーをどかしたら現れたんです。」
「なるほど・・・・受付の名前は?」
「亀岡です。」
「院長、すぐに亀岡に出勤命令を出してください。」
「・・・なんで・・・・あの亀岡君が・・・・ちょっと待ってくれ・・・・は?」本当に混乱しているようだった。
「芽幅警官。院長の代わりに亀岡に電話してくれ。」
「分かりました!!」