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議員の「お金と特権」実態を知っていますか

皆さま、おはようございます!
コラムニストの尾藤克之です。

『ちょっとしたことで差がつく 最後まで読みたくなる最強の文章術』出版。レビューやブログでご紹介いただけたら小躍りして喜びます٩(ˊᗜˋ*)و

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ゴールデンウィーク最終日の5月8日、現職の国会議員になりすまして新幹線特急券とグリーン券の料金を支払わずにだまし取った事件が発覚しました。詐欺などの疑いで逮捕されたのは岐阜県選出の元国会議員・山下八洲夫容疑者(79)です。各社の報道によると期限切れのJR無料パスを提示し、申込書には別の議員の名前を記入したことが明らかにされています。

■JRパスはチェック体制に問題あり
山下容疑者は、衆参6回の当選実績があり、2010年に落選して以降も立憲民主党の岐阜県連常任顧問職にありました。また、旭日重光章を受章するなどその功績は高く評価されていました。複数の報道機関が、捜査関係者などへの取材によって山下容疑者が「議員時代のことが忘れられなかった」と話し、不正乗車を繰り返していたとみられていることを報じています。

JR無料パスは歳費法(国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律)に基づいて国会議員に発行されます。使用は公務であることが原則で新幹線や在来線でも使用できます。駅係員に提示することでグリーン車に乗ることもできます。有効期限は1年で、衆参両院は予算で年間5億円を計上しています。

このパスには議員の氏名や有効期限が記入されていますが顔写真はありません。落選後の回収義務もありません。自動改札を通るためのチップが埋め込まれているわけでもありませんので、議員の個別利用記録も残りません。

過去にもパスの不正利用が問題視されたことがあります。公務以外の私的な旅行に利用したり、パスの不適切使用が報じられたことがありました。それでも、政治活動に関係すると抗弁すればあいまいになってしまいます。再発防止にはパスのIC化やパスの廃止が必要でしょう。現状は不透明極まりない代物なのです。

今回の詐欺疑惑には政治家からも批判の声が上がっています。元大阪府知事の橋下徹氏は9日のフジテレビの情報番組「めざまし8」のなかで次のように言及しました。

「全部デジタル化すればいいんですよ」「デジタル化してどこからどこまでいつ乗ったか記録化すればチェックもできる」

議員特権を巡っては、これまでも国会議員の「第2の給与」とも呼ばれる、月額100万円の「文書通信交通滞在費(文通費)」が問題視されてきました。2021年10月の衆院選後、日本維新の会の新人議員が「1日だけの議員在籍で100万円支給はありえない」とネット上に投稿したことで一気に政治問題化したのは記憶に新しいところです。

今国会で改正案が可決し、名称も「調査研究広報滞在費」に変更され使途の範囲も拡大されることになりました。「使途の明確化や情報公開」など重要な論点は先送りされています。

血税が活動の原資となっている国会議員は、自分たちの襟を正すことを考えなくてはならないはずです。今回逮捕された、山下容疑者は勲章を受けるなど活動は高く評価されていました。その功労者が「議員時代のことが忘れられなかった」とまで述べる国会議員の特権とはどのようなものでしょうか。

■日本は世界第何位なのか
日本の国会議員は世界最高水準の歳費を受け取っていると言われています。世界的にどの程度のランクにあるのか調べてみます。

<議員報酬額上位10位>
1位 シンガポール 88万8428ドル(約9772万円)
2位 ナイジェリア 48万0000ドル(約5280万円)
3位 日本 27万4000ドル(約3014万円)
4位 ニュージーランド 19万6300ドル(2159万円)
5位 アメリカ 17万4000ドル(1914万円)
6位 オーストラリア 14万1300ドル(1554万円)
7位 イタリア 14万3352ドル(1576万円)
8位 ドイツ 13万3279ドル(1466万円)
9位 カナダ 13万0710ドル(1437万円)
10位 オーストリア 11万7903ドル(1296万円)

議員報酬ランキング上位10位を紹介します。調査時期(2019年)は1ドル=110円であることから同水準で算出しました。
出典:「This is what politicians get paid around the world」(LOVEMONEY.COM)

<国会議員数>
1位 中国 2975人
2位 イギリス 1425人
3位 イタリア 949人
4位 フランス 925人
5位 エジプト 892人
6位 ドイツ 807人
7位 インド 779人
8位 タイ 737人
9位 日本 707人
10位 北朝鮮 687人

次に各国の国会議員数を調べてみました。上位10位は上記のとおりです。
出典:IPU(Inter-Parliamentary Union)https://www.ipu.org/

<議員報酬総額及び国民1人当たりの負担額>
(単位:総議員報酬/国民1人当たり負担額)
1位 イタリア(149億5624円/247円)
2位 シンガポール(100億6516万円/173円)
3位 日本(213億898万円/167円)
4位 カナダ(61億7910万円/165円)
5位 ドイツ(118億3062万円/141円)
6位 オーストラリア(35億1204万円/139円)
7位 ナイジェリア(272億9580万円/135円)
8位 オーストリア(31億6224万円/125円) 
9位 ニュージーランド(25億9080万円/54円)
10位 アメリカ(102億162万円/31円)

議員報酬額に国会議員数を掛け合わせると、国の議員報酬総額を算出することができます。総議員報酬を人口で割ると、国民1人当たりの負担額を算出することができます。上位10位は上記のとおりです。

<議員報酬と国民平均年収比較>
(単位:国民平均年収/議員報酬÷国民平均年収)
1位 シンガポール(370万円/26倍)
2位 ナイジェリア(240万円/22倍)
3位 日本(418万円/7.2倍)
4位 ニュージーランド(425万円/5.0倍)
5位 イタリア(348万円/4.5倍)
6位 アメリカ(625万円/3.0倍)
6位 ドイツ(483万円/3.0倍)
8位 カナダ(82万円/2.9倍)
9位 オーストラリア(596万円/2.6倍)
10位 オーストリア(504万円/2.5倍)

次に、国会議員は国民平均年収の何倍の報酬を得ているか算出しました。各国の数字はOECDのデータを元にしています。シンガポール、ナイジェリアの比率が突出しています。しかし、OECD加盟国(38カ国)を対象にすると日本が1位になります。出典:https://www.oecd.org/ 

■さらに精緻に分析すると・・・
日本の国会議員には多くの手当があります。文書通信費が毎月100万円、期末手当(賞与)が年額635万円、立法事務費などの必要経費が月額65万円、JR特殊乗車券・国内定期航空券の交付や、3人分の公設秘書給与や委員会で必要な旅費、経費、手当て、弔慰金などが支払われます。また、政党交付金の一部が、各議員に支給されます。1人あたりいくらかかるのか計算してみましょう。

○基本給1552万8000円(月額129万4000円)
○期末手当635万円
○文書通信費1200万円(月額100万円)
○立法事務費780万円(月額65万円)
○JR特殊乗車券、国内定期航空券。北海道選出の議員であれば羽田⇔新千歳(ファーストクラスなら往復10万円×月4回×12カ月=480万円)となる
○秘書給与2100万円(政策秘書900万円、第一秘書700万円、第二秘書500万円と仮定)
○政党からの支給 0~1000万円程度。
合計:6000万~7000万円程度と推測

ちなみに、国内定期航空券があれば、ファーストクラスを利用することができます。国民の税金でファーストクラスは乗れないという議員はエコノミーを利用するかもしれませんが、かなりの少数派になるでしょう。

政党からは役職に応じて黒塗りのVIP車もあてがわれます。秘書3人を雇用し、かかる費用も国から支給されます。秘書給与に関する費用は年間2000万~3000万円ともいわれています。

議員会館の賃料は無料、議員宿舎には格安で居住することができます。2014年に賃料引き上げを行いましたが、周辺相場の2割程度で借りることができます。24時間体制の警備がほどこされセキュリティは万全です。部屋から緊急通報のボタンを押せば秒速でスタッフが駆けつけます。

■毎回先延ばしになる議員特権議論
2021年10月31日の衆議院選挙後に「満額」が振り込まれたことにより「文書通信交通滞在費」を巡る問題は、連日メディアで報道されました。今国会で、日割り支給の改正案が可決されていますが、「文書通信交通滞在費」をめぐる問題の本質は日割りや名称を変更することではありません。「報告・領収書提出義務」がないことです。

今回も「使途の明確化や情報公開」など重要な要点はどうやらあまり触れられずに先送りされているように見えます。与野党ともに「日割り」にするだけで決着をつけようとする姿勢が強く見受けられます。これは、非常に残念なことです。

今回の事件によって「議員特権を廃止すべき」という声すら上がっています。国民の血税で活動している以上、国会議員にかかる諸費については透明性を持たせる必要があります。

議員は国の代表ですから、相応の報酬があることはもちろん理解できます。しかし、税金によって支払われる以上、議員の仕事に見合うかどうかを国民1人ひとりが注視しなければなりません。やはり、旨味がありすぎてやめられない味なのでしょうか。

本記事は、5月11日に東洋経済オンラインに掲載した国会議員の「お金と特権」実態を知っていますか」をブログ用にリライトしたものです。


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