何もない人生
生きてくる過程で
私は多くの物を捨ててきた。
もう手元には何も残っていない。
それを後悔している訳ではない。
テレビのギョーカイにいた頃に
自分の関わった番組や作品は
ビデオに収録して残してきた。
ある種の習性だった。
時は過ぎ
VHSの時代が終わり
デジタル化して再保存する時間もなく
それらは場所をとる無用なものになった。
思い切って廃棄することにした。
引越しをする度に
残していた記録は減っていった。
私は恵まれていた部分もあった。
目指したミキサーになれて
四半世紀も第一線で働くことは出来た。
しかし、
最終的には捨てられた。
贅沢かも知れないが、
欲しかった物を
あまり手に入れることは出来なかった。
実績に見合った地位にもつけなかった。
家を買うことも
実家を建て直すことさえ出来なかった。
不妊治療までしたのに
結果論的には子宝にも恵まれなかった。
こんな状況は完全に想定外である。
でも
俺にはカミサンがいてくれる。
これだけで幸せだ。