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オフコースのオリジナルアルバムを勝手にレビューするシリーズVolume3:「秋ゆく街で/オフ・コース・ライヴ・イン・コンサート」

例によって敬称略、そしてグループ名表記に中黒はつけない。

序説

アルバム自体は1974年のクリスマス直前に出ている。タイトルからもわかるように、スタジオアルバムでは当然ない。初のライヴ盤だ。

後にオフコースの解散騒動にも一枚かんでくるマネージャーの某氏が持ちかけた企画が端緒になっている。
そこで「中野サンプラザでコンサートをしたら」という話が出た。そのキャパほどに人が来ないと渋る小田と鈴木を、その某氏はどうにか挙行の方向でまとめることができた。
しかし、それには「この道をゆけば」に起用したセッションミュージシャンを全て起用することに加えてストリングスセクションも入れる、というとんでもなくムチャクチャな(当時の彼らからすれば)条件がついた。

困った某氏は東芝EMIにライヴレコーディングをしてもらうという条件で費用を肩代わりしてもらうことに成功した。

こうして動き出したプロジェクトは、多くの人々の助力を得て、招待状を送った多くの音楽関係者や1000人以上の観客(チケット自体は1542枚売れたという)の前で、単独ライブコンサートとして挙行された。
助演したのは以下の17名のミュージシャンたち。

大村憲司:エレキギター
森理:ベース
村上秀一:ドラムス
羽田健太郎:キーボード(コンサートマスター)
川原直美:パーカッション
新室内楽協会:ストリングスセクション(12名)

このうち、羽田と森と川原は「この道をゆけば」には不参加で、実際の参加メンバーは大村と村上のみ。
森は高水健司ら「この道をゆけば」に参加したベーシストが参加できなかったことを受けての参加と思われ、川原の参加理由は不明。
羽田は「僕の贈りもの」には参加経験があるが、「この道をゆけば」には不参加であった。ただ、経験も豊富だったのでコンサートマスター役を頼まれていたようで、引き受けている。
また、新室内楽協会の陣容も不明のため、実際にどの程度の参加メンバーがいたのかはわからない。

このように約束が全部は果たされなかったものの、オフコースの二人もこれだけのメンツを揃えられては、やらないわけにはいかなかった。
多くのディスカッションが行われ、また演出にも力が入れられたという。

こうして、1974年10月26日に、「秋ゆく街で」のコンサートが挙行されるに至っている。

セットリストは以下の通り(Wikipediaに詳述あり。太字がアルバム収録曲)

What's Goin' On
メドレー:僕の歌は君の歌→恋人は何処に→You make me feel brand new→ユー・アー・エヴリシング→愛は夢の中に→愛の休日→アローン・アゲイン→涙の乗車券→サムシング→愛こそはすべて→世界は愛を求めてる
竹田の子守唄
春夏秋冬
今日までそして明日から
白い一日
悲しくてやりきれない
メドレー:悩み多き者よ→傘がない
青春
秋ゆく街で

里の秋
水曜日の午後
僕の贈りもの

新しい門出
よみがえるひととき
すきま風
はたちの頃
さわやかな朝をむかえるために
のがすなチャンスを
白い帽子
別れの情景・Ⅰ

もう歌は作れない(別れの情景・Ⅱ)
ほんの少しの間だけ
地球は狭くなりました
キリストは来ないだろう
でももう花はいらない
What's Goin' On(Reprise)
僕の贈りもの(アンコール)

という、当時のオフコースとしては破格のボリュームのセットリストで行われているのである。
ただ、このコンサートのおよそ一週間ほど前にリリースされたシングル「忘れ雪/水いらずの午後」は一切演奏されていない。特に後者はここに参加しているメンバーも何人か参加したにもかかわらず、だ。
その理由は「自分たちの作品ではない」からで、もっと言えば「自分たちの意向で出した曲ではない」からだった。

このアルバムまでプロデューサーとして名を連ねていた橋場正敏とは、そのような経緯もあり、ここで袂を分かつことになった。仕方のない別れだったのかもしれない。

1:What's Goin' On

1971年にリリースされたマーヴィン・ゲイによる反戦歌であり、ゲイの他に、アル・クリーヴランド、レナルド・ベンソンが共同で曲を作った。
当時、ソウルミュージックを愛好していた鈴木が選曲したものと思われる。この曲はこのように冒頭にも登場する他、アンコール前にメンバー紹介パートでも演奏されている。
(作詞・作曲:M.Gaye,R.Cleveland,R.Benson)

2:メドレー:僕の歌は君の歌→恋人は何処に→You make me feel brand new→ユー・アー・エヴリシング→愛は夢の中に→愛の休日→アローン・アゲイン→涙の乗車券→サムシング→愛こそはすべて→世界は愛を求めてる

当時ヒットしていた洋楽のメドレー。「僕の歌は君の歌」はエルトン・ジョンの初期の大ヒット曲。(Elton John,Bernie Taupin)
「恋人は何処に」からの三曲は、ソウルミュージックフリークだった鈴木が選曲に関与していると思われる。「恋人は何処に」はロバータ・フラックとダニー・ハサウェイの楽曲で、ラルフ・マクドナルドとウィリアム・ソルターの共作。(R.MacDonald,W.Salter)
「You make me feel brand new」と「ユー・アー・エヴリシング」は共にスタイリスティックスの曲で、トム・ベルとリンダ・クリードが作った。(T.Bell,L.Cleed)
「愛は夢の中に」はカーペンターズのレパートリーとして知られ、ポール・ウィリアムズ作詞、ロジャー・ニコルズ作曲。(P.Williams,R.Nichols)
「愛の休日」はフランスのミッシェル・ポルナレフの曲で、彼自身が1972年にシングル化している。ポルナレフ自身が作曲し、ジャン・ルー・ダバディが作詞している。この人物の子息には、あのフローラン・ダバディがいるらしい。(M.Polnareff,J.L.Dabadie)
「アローン・アゲイン」は、ギルバート・オサリバンの有名なヒット曲である。(G.O'sullivan)
続く「涙の乗車券」「サムシング」「愛こそはすべて」はいずれもビートルズの曲で、「涙の乗車券」と「愛こそはすべて」はジョン・レノンの作品として知られ、「サムシング」はジョージ・ハリスンの楽曲として知られている。ポール・マッカートニーの楽曲がないのは偶然の一致だろうか。(John Lennon/Paul McCartney,except「Something」by George Harrison)
最後に控えるのはジャッキー・デシャノンが歌う、バート・バカラック&ハル・デヴィッドのコンビによる「世界は愛を求めてる」だ。(B.Bachrach,H.David)

3:竹田の子守唄

赤い鳥で知られる京都地方の民謡。曰わくなどに関しては、Wikipediaの当該項目を参照していただきたい。ここでは一口に説明しがたい。
ただ、ここでのオフコース以降にも、多数のカヴァー例が存在する。
(民謡、アレンジ:オフコース)

4:白い一日

小椋佳が作詞し、井上陽水が作曲しており、井上はあのヒットアルバム「氷の世界」に収録しているが、小椋もその後、シングル化している。ただ、小椋のものは少々異なるらしい。
(作詞:小椋佳、作曲:井上陽水)

5:メドレー:悩み多き者よ→傘がない

「悩み多き者よ」は斉藤哲夫の作品で、1970年に彼の最初のシングルとしてリリースされている。(作詞・作曲:斉藤哲夫)
「傘がない」は井上陽水の再デビューアルバム「断絶」に入っており、シングル化もされた。(作詞・作曲:井上陽水)

6:青春

オフコースのオリジナルで、鈴木の作品。この頃から実は作られていた曲であり、後に歌詞を若干手直しして、アレンジを16ビート風に作り直してアルバム「SONG IS LOVE」に収録された。
ここでは、このコンサートにちなんで「秋ゆく街で」という言葉が歌詞に織り込まれている。
(作詞・作曲:鈴木康博)

7:秋ゆく街で

小田の作品。コンサートのMCでは「できたて」と言っており、事実はどうかは不明だが、「風呂で歌詞を書いた」と口にするほど、できて間がなかったらしい。
本作にしか収録されておらず、これ以降のどのアルバムにも収録されなかった。ここまでがアナログレコードで言うA面。
(作詞・作曲:小田和正)

8:水曜日の午後

小田の作品で「僕の贈りもの」に収録。ここからがアナログレコードで言うところのB面。ここからはオリジナル中心のラインアップになる。
なお、ここでは本来の形がそうであるように、鈴木がリードヴォーカルを務めており、小田はコーラス。
(作詞・作曲:小田和正)

9:僕の贈りもの

小田の作品。ピアノのイントロで始まり、スタジオ盤冒頭のコーラスは当然の如く入れられていない。ギターも含まれたアコースティックなアレンジで演奏されている。また、ストリングスが加わっている。
歌は小田と鈴木がデュエットしている。また終盤に鈴木のMCが聞かれる。
(作詞・作曲:小田和正)

10:のがすなチャンスを

1983年に鈴木が脱退するまでのオフコースのコンサートでは、必ずと言って良いほど演奏されてきた鈴木の作品。
まだこの頃のアレンジはスタジオ盤にきわめて近く、後年聴かれるドラムソロなどはない。村上のドラムスもまだ大人しい。
最終盤にハイハットでカウントを入れている様子が聴かれるが、これは次の「白い帽子」のカウントを村上が間違えてハイハットで取っているため。
(作詞・作曲:鈴木康博)

11:白い帽子

鈴木の作品だが、これはそれまでアルバムに収録されていない。この1週間前にリリースされたシングルのためのコンペティションに持ち寄られた作品の一つでもある。
前述のように村上が誤ってハイハットでカウントを取ろうとした、というハプニング以外は真っ当に演奏された。
本作以外には収録されなかった。
(作詞・作曲:鈴木康博)

12:別れの情景・Ⅰ

小田の作品。基本的にここに収録されたオリジナル作は、既発のものと概ねアレンジは同様だが、若干異なる面も見られる。
ここでは羽田健太郎のキーボードが大活躍している。レコードで聴かれるような大村憲司のギターは後奏にむしろ出てくる。また、レコードのようにフェイドアウトするような仕掛けになっている。
(作詞・作曲:小田和正)

13:キリストは来ないだろう

小田の作品。「白い帽子」同様の経緯で作られた作品でもある。これもやはり「白い帽子」同様にこれ以降のアルバムに収録されなかった。
ただ、「忘れ雪」や「水いらずの午後」でなく、本作や「白い帽子」を収録した、ということが、橋場らに対するオフコースの返答、ということは言えるのかもしれない。
但し、そのようなことはMCなどでも明らかにされていない。

14:でももう花はいらない

鈴木の作品。この曲そのものよりも、その前の「オフコース、万歳!」事件で知られる。
小田がMCで喋っていた時、ある男性ファンが花束を持ってステージに近づいたかと思うと「オフコース、万歳!」とやってしまった。このハプニングを目にした小田は挨拶が続かず、鈴木が跡を継いでいる。
演奏のアレンジはアルバムのそれにほぼ準じている。但し、間奏のアレンジは多少簡素化されている。また、大村のエレキギターが加わったアレンジになってもいる。
(作詞・作曲:鈴木康博)
また、この曲のあと、「What's Goin' On」がリプライズされる形で、メンバーが紹介される。
紹介の順番は、羽田健太郎→森理→川原直美→大村憲司→村上秀一であって、それぞれのソロプレイが挟まれる。このあと、新室内楽教会が紹介される。
(作詞・作曲:M.Gaye,R.Cleveland,R.Benson)

15:アンコール・僕の贈りもの

この前に終演・客出しのアナウンスにかぶってアンコールを促す拍手があり、遅れて小田と鈴木が登場する。
小田はたくさんの拍手に迎えられたことを指して「長嶋選手のような心境」と言い、その後に、ファンから「頑張れよ!」と声をかけられる一幕があった。鈴木はこの曲を「余興」と表現。
小田が音頭を取って(CDではこの辺りまでのやりとりは、前曲に含まれている)この曲を演奏し始める。
ここでは他のメンバーが既に退場しているため、アコースティックギターのみのアレンジになっている。
順調に進んでいたが、小田が歌詞を間違え一番のところで二番を歌うというハプニングがあり、観客から笑いが起きている。
しかし、ともかく最後までやりきっている。
(作詞・作曲:小田和正)

アルバム全体の短評

最初期のライヴ盤であるが、同時にオフコースの橋場正敏期の総決算的なアルバム、という言い方が可能だろう。

確かにオフコースと橋場との関係は、小田が著書で軽く触れたように、あまり良いものとは言えなかったのかもしれない。
ただ、橋場も橋場で東芝EMIの人間として、会社の、そしてオフコースの利益を考えればこそ、双方にとってのベストウェイを目指そうとして、例えば「忘れ雪」のレコーディングを推した。

確かに橋場の採った方法は良くなかったかもしれない。ただ、だからと言って橋場のみを責めてはアンフェアでもある。オフコースも譲れない部分はあっただろうけれど、折り合いがあっても良かった。
1974年は、オフコースのシングルが価格改定で再発された時期に於いて、シングルが二枚(「もう歌は作れない」と「忘れ雪」)ともその選から漏れている、というある種、不幸な時期でもあった。

そしてこのアルバムも、直前に発売されたシングルのA面である「忘れ雪」を取り上げなかったことで、妙なポジショニングになってしまった。
橋場がライナーノーツを書いているのだが、言葉の端々にギクシャクしたものを感じざるを得ない印象があった。

しかしながら、このアルバムは当時のオフコースがこういうコンサートをしていた、ということを知る貴重な手がかりとなる。

オフコースはこの頃、杉田二郎のサブミュージックパブリッシャーズに籍を置いていた。杉田は実家の都合で音楽活動がままならなくなり、オフコースにかかる比重が大きくなったため、何とかしなければならなかった。
前述のマネージャー某氏も、その策としてこのコンサートを企画し、ライヴ盤を出すことでレコード会社の協力を取り付け、その結果がこのアルバムとなった。

例えば、前半のハイライトとも言える洋楽メドレーは、それぞれ独立して聴いてみたいものが多い。
また、コンサートでは演奏されたものの、惜しくも選から漏れた曲では、最も気になっているのが泉谷しげるの「春夏秋冬」で、これをオフコースがどんなアレンジでやっているのか気になる。
同じような立場の曲では吉田拓郎の「今日までそして明日から」にも注目してみたい。
フォーク的な部分を敢えて忌避してきた感のあるオフコースが、こうした辺りの作品をどんな感じで料理しているか、とても興味がある。

さすがに完全版を出せるような録音はしていないだろうけれど、セットリストを見ていると、完全版を想像したくなる作品とは言える。とりあえず、ここに収録されている部分だけでも、とても良い作品と言える。

初期のオフコースは、真面目に音楽していた。それだけは確実だろうと思っている。
そして、次作「ワインの匂い」から、オフコース中興の祖である、新プロデューサーの武藤敏史が登場することになる。武藤はオフコースをどのように変えていったのだろう?
次回辺りからじっくりと探ってみたいと思う。

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KAZZと名乗る適当なおっさん
基本的に他人様にどうこう、と偉そうに提示するような文章ではなく、「こいつ、馬鹿でぇ」と軽くお読みいただけるような文章を書き発表することを目指しております。それでもよろしければお願い致します。