引退を決めた試合でも、川口能活は川口能活であった、という話~2018.9.2ガイナーレ鳥取vsSC相模原@チュウブYAJINスタジアム
プロローグ~きっかけはHarakoさんの文章
この前、OWL magazineのオムニバス記事「私のNo.1ゴールキーパー」というのに寄稿した。
最後に載ってるへんてこりんなおっさん(つまり私)の分はともかく。
最初を飾るHarakoさんが取り上げたのが、川口能活さんだ。言うまでもなく日本の歴史を飾る選手の一人である。
で、このツイートにこういうリプライをつけた。
取っ掛かりは那須大亮さんの動画
さて、そんなリプライをしておいてあれだが、「川口能活さんは、そもそも何処でそういうこと言ったんだっけ?」と思い始めた。確かに見てるけどちょっと怪しい。
記事化を期待するようなことを言われて、何かよくわからないけど、Harakoさんはワクワクしてる風だし、困ったな、と。
まあしかし、杉井颯選手(現AC長野パルセイロ)で8失点のあれや、ガイナタイガー選手(鳥取だらずプロレス)の話で4失点のテゲバジャーロ宮崎戦についても書いてるぐらいだ。
じゃあ甘美な思い出の7得点の方も書こうと思い直したので、とりあえず動画での川口さんの発言から取っ掛かりとして探してみた。
気合い入れて探したらあったよ。さすがYouTube。
川口能活さんが、およそ二年前に那須大亮さんのコンテンツに出た時の話だった。
その中で「悔しかった試合を三つ選出してほしい」というお題があり、その中の一つに、2018年9月2日のガイナーレ鳥取vsSC相模原@チュウブYAJINスタジアムがあった。
この試合、自分でも観ているのだが、三年半程度前なので、少し定かでないところもある。とは言え、こんな試合だった。
以下、スタッツ等とハイライト動画を紹介する。
川口能活選手が殊更に不調だったとは思わなかった。プレーそのものも、御本人が振り返るように問題があるとは思わなかった。
だが、この試合のガイナーレ鳥取は、そんな川口選手を弄ぶように、まるでハイオクのガソリンをぶち込んだエンジン性能の高いGTみたいに快調に飛ばしまくり、7得点挙げるに至った。
その7点を見ていく。
7点を振り返ってみる
1:フェルナンジーニョ選手1点目(22')
フェルナンジーニョ選手だけ、この試合で2得点決めているのだが、その最初の方。
八時方向からゴールの隅に鋭角的に切れ込んでくる直接フリーキック。これは、ゴールキーパーが云々ではないと思った。
蹴ったフェルナンジーニョ選手が偉い。川口能活選手も横っ飛びで食らいついたものの、伸ばした手に当てたのが精一杯で、残念ながらディフレクトなどには至らず、及ばなかった。
でも、このフリーキックの時は、この後更に6点も取れるなどとは思っていなかった。
2:加藤潤也選手(26')
その4分後に次の得点がやってくる。決めたのは、現在ザスパクサツ群馬にいる加藤潤也選手。
右サイド中程でボールを奪い、すかさず前の方にフィード。レオナルドは受けられなかったが、相手選手が対応したこぼれ球を拾った加藤選手がダイレクトに突き刺した。
これも、川口選手がどうのこうの、ではないように思った。鳥取の右サイドからのフィードに、相模原のゴール前にいた守備の選手が対応したまでは良かった。
対応し損ねればレオナルドに渡っていただろう。レオナルドはこのシーズン得点王を決めるほどには好調だったのだから。
……が、もっと大きく蹴り出したかった。しかし、クリアが小さい。そこに加藤選手が飛び込んできた。加藤選手はしっかりと決めれば良かった。
繰り返すが、川口選手がどうこうではなかったと考えている。右中盤でボールロストしてからのフィードへの対応に瑕疵があった、ということだろうと思う。
3:小林智光選手(38')
髪があるので一瞬誰かと思ったら小林智光さんだった。後々、髪をバッサリやるんだよね、この人。
閑話休題。
左ペナルティエリア付近のタッチライン際の攻防を制して、可児壮隆選手→加藤潤也選手→ヴィートルガブリエル選手とつないで、フェルナンジーニョ選手が捌いて、レオナルド選手は触れなかった。
しかし、そのこぼれ球を拾って怠りなく準備を整えてから左脚一閃。まさに「一閃」だった。
前述の通り、後々にした坊主頭の印象が強いので、ハイライトに出てくる髪のある彼がどうも不思議に思えるのだが、この頃は髪があったのだ。
これも川口選手がどうのこうのではないと思う。この試合通じて言えるのだが、この頃の相模原の選手たちは、どこかに遠慮があったのではないか。
プレーが小さく思えてしまう。川口選手や、後に加入する稲本潤一選手らの影響などもあるだろうが、プレーのスケールが大きくなっていったのではなかろうか。
そんな感じがした。
4:レオナルド選手(57')
鳥取にこういう選手がいたこと自体、奇跡だろう。ブラジルのサントスからヴィートルガブリエル選手と一緒に加入。このあと、アルビレックス新潟でも大活躍し、鳥取と新潟で得点王になった。
その後、浦和レッズに移籍し、更に彼は中国(山東泰山など)や韓国(蔚山現代)のチームに加入している。
得点の経緯はごく簡単で、相模原が鳥取陣内で攻撃をし損ねたボールをかっさらったのが、レオナルド選手。
彼は加速をつけたドリブルに転じていく。相模原の選手が誰も追いかけてこない。フェルンジーニョ選手がこれに鋭く反応し、同調して動いた。
切りの良いところでパスを出し、これを受けたフェルナンジーニョ選手は守備対応に来た相模原の選手をかわしてパスを出すと、その先にはレオナルド選手がいて、彼はそのままゴールを決めれば良かった。
これにしても、レオナルド選手とフェルナンジーニョ選手のスピードとコンビネーションが素晴らしいのであって、川口選手の問題ではない。
レオナルドのスピード感溢れるドリブルと、それに食らいつくフェルナンジーニョ選手の、年齢を忘れさせるフリーランニングに圧倒された。
こんなの喰らったらゴールキーパーはひとたまりもない。そんな得点だったのだ。これでは川口選手云々どころではない。
5:可児壮隆選手(72')
現在は奈良クラブにいる可児壮隆選手。物静かな読書家でもある。だが、明朗なノリが嫌いなわけでもなく、動画でかぶり物をしたりもする。
それはともかく、こちらの得点もフェルナンジーニョ選手から始まっているのだ。
ハーフウェイラインを過ぎた辺りで味方からのパスを受けたフェルナンジーニョ選手が、ダッシュを効かせてドリブルで切り込みつつ、レオナルド選手にパス。
レオナルド選手は相手の守備をかわして中央にグラウンダーのクロスを入れると、そこに可児壮隆選手がいて、彼が軽く押し込む形で決まった。
フェルナンジーニョ選手とレオナルド選手との絶妙のコンビネーションが、このゴールや一つ前のレオナルド選手自身のゴールを生んだと言って良い。
彼ら自身もやっていて楽しかったに違いない。何より見ているこちらが更に楽しめた。
こういう崩しをされてしまうと、川口選手がいくら対処をしても防御のしようがない。これもまた、彼にとってはノーチャンスだった。そうとしか言い様がないのだ。
この段階でいわゆる「夢スコア」なのだが、この試合には未だ更なる続きがある。
6:フェルナンジーニョ選手2点目(74')
先程得点に絡んだ三選手がまた登場する。
発端はレオナルド選手。彼の易しい(ように見える)パスが可児壮隆選手に出され、これを可児選手がドリブルで運び、再びレオナルド選手に、いわゆるワンツーリターンのような形で出す。
これを受けたレオナルド選手は、軽くはたいたパスを供給。その先にいたのがフェルナンジーニョ選手だった。
この時点で相手選手はフェルナンジーニョ選手の周囲をがら空き同然にしてしまい、もはや最後の砦は川口選手ぐらいしかいない。
こうなってしまっては、川口選手も為す術がない。いくら彼が優れたゴールキーパーでも、できること・できないことは当然ある。
ということで、俗に言う「無慈悲なスコア」となるものの、これもまた、川口選手を責めるにはあまりにも酷な点だったと言えるだろう。
7:ヴィートルガブリエル選手(87')
遂に「炭鉱スコア」までやってきた。
こちらの発端は星野有亮選手。この試合でもフル出場していたが、タフネスを誇る彼が持ち上がり、機を見てヴィートルガブリエル選手にパスを供給する。
ヴィートルガブリエル選手は、レオナルド選手と同時期にサントスから移籍してきたMFで、有用な選手と思われたが、翌年はあまり活躍できなかったのが惜しい。
ともあれ、このヴィートルガブリエル選手が落ち着いて川口選手をかわしてシュートを放つ。そして7点目は実にあっさり決まった。
この7点目も川口選手云々ではなく、当時のSC相模原というチームが抱えていた問題と解釈するべきかもしれない。
このケースで言えば、星野選手に注意が傾くあまり、ヴィートルガブリエル選手を見る選手が誰なのか?という辺りが曖昧になってしまったのではないだろうか。
これでは川口選手もたまらない。
こうして試合は7-0で鳥取が勝利した。
私個人の印象と清水裕之さん
上記を受けて、私個人の川口能活さんへの印象を少し綴ってみたい。
実は現役選手としての川口能活さんを見るのは初めてではない。
この時に、彼は出場していたはずで、その後、横浜F・マリノスになってからも天皇杯で見ているような記憶がある。
どっちにしろ、あまり拝むことのない選手だった。
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