ヤードバーズがやろうとしていた音楽の正体がわからない
ヤードバーズ。
あなたは、この1960年代のイギリスに於いて登場したよくわからないグループについて、どんな知識をお持ちだろうか?
チャーリー・パーカーの二つ名から取った名前、というのが知られているかもしれない。
有名どころとしてはビートルズやローリング・ストーンズは知っている、という人もいるだろうし、場合によってはザ・フーやキンクス辺りも知っている、という人も多かろう。
これらと比較すると、ヤードバーズは少々分が悪い。
そんな中で最もよく言われるのが、エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジの、いわゆる三大ギタリストを輩出した、というあれかもしれない。
しかし、途中加入のベックやペイジはともかく、クラプトンですらグループのオリジナルメンバーではない。
元々は、こういうメンバーだった。
キース・レルフ(Vo., Harp)
アンソニー・トーパム(Gtr)
クリス・ドレヤ(Gtr.)
ポール・サミュエル=スミス(Bs.)
ジム・マッカーティー(Dr.)
しかし、トーパムが抜けて代わりに入ったのがクラプトン。この頃の彼はあの「スローハンド」の二つ名で売り出していた。
クラプトンがグループの推進力になるかと思いきや、彼らの最初のヒット曲として名高い「for your love」が原因で、クラプトンはヤードバーズから去りたくなってしまう。
本作でハープシコードを弾いているのが、ブライアン・オーガーという、当時の英ジャズロックの大物だったらしい。
それが寄与したのかどうかは知らないが、曲は大ヒットして売れたらしい。
だが、クラプトンはこの曲への印象がよくなく、その後、ジョン・メイオール&ブルースブレイカーズを経てクリームに行き着き、ソロに転じていくこととなる。
確かに、クラプトンの活躍の場は皆無に等しい。中間部分でヘヴィなカッティングを聴かせるところもあるが、その程度。
クラプトンはむしろ、こういった曲をもっとやりたかったらしい。
「I ain't got you」の間奏なんかは初めて聴いた時、衝撃的だったし、「Good morning little school girl」も改めて聴くと驚く。
自分などは、この「Too Much Monkey Business」を聴いた時、本当に驚いたものだ。
いや、あのキース・レルフの歌はともかく、クラプトンのギターだけ聴いてたら、それだけでおカネ出す価値があるというものだ。
この頃の、決して上質とは言えないライヴ録音に於いても、クラプトンのギターはとんでもない切れ味を聴かせる。
自分は昔からキース・レルフの歌だけは我慢がならないと思っているクチであり、上手い下手をどうこう言える雰囲気ではないと言える。
例えば、アニマルズのエリック・バードンも上手いとは思わないけど、その分、あの人の歌は聴かせる歌だと思う。個人的には好きなミック・ジャガーもこの部類だと思う。
これに引き換え、キース・レルフの歌は自分には響かない。
ともかく、クラプトン退場後に登場したのがジェフ・ベック。最初はジミー・ペイジが誘われていたが、ペイジもスタジオミュージシャンとして多忙だったため、ベックを推薦したそうだ。
ベック時代で有名なのはこの辺か。
後にレインボーだったかがやって有名になった「Still I'm sad」とか。
「The train kept a-rollin'」なんて最強じゃないか。レルフの歌さえなければ。
で、結局、後述の「Roger The Engineer」の後に、このバンドからポール・サミュエル=スミスが抜けてしまう。曲作りもできた上に、いいベーシストだったのだが。
そんな彼が抜ける前の時期にはこういうのをやっていた。アクの強い、なかなかの快作ではある。
この曲も含む「Roger the Engineer」はもっと評価されて良いはずだ。メンバー全員が頑張って制作したアルバムだったが。
で、ポール・サミュエル=スミスの代わりに満を持して入ってきたのがジミー・ペイジ。
最初ベーシストとして入ってきたはずが、ドレヤがベースに交替し、ツインリードギターをやることになった。
聴いてればわかるように「The train kept a-rollin'」の改作なのだけど、ジェフ・ベックとジミー・ペイジがリードギターで共演とか、凄いのか何なのかわからないものを拵えた。
でも、結局、ベックもバンドの状況に嫌気が差してトンズラしたので、ペイジがそのままバンドに残った。
末期のヤードバーズは、何がやりたいのかよくわからない。長続きはしたのだが、ペイジの実験的精神に他のメンバーがついていけなかったのかもしれない。
挙げ句、レッド・ツェッペリンで有名になるこの曲までこの頃にレパートリーにしている。レルフは必死に食らいついているが、後のロバート・プラント辺りと比較しては可哀想になる。
結局、バンドは敢えなく潰れた。
ペイジは新しいメンバーを集めて「ニュー・ヤードバーズ」の名前を借りつつ、その後に立ち上げたのがご存知「レッド・ツェッペリン」である。
その1stアルバムのメンバーフォトは、写真家に転向したクリス・ドレヤが撮影していたりする。
バンドが解散した後、新たなデュオを組んで再出発したはずのキース・レルフが事故死するなどしたが、解散から長いこと経ってからグループは再結成し、現時点に於いてもメンバーを入れ替えながらも地道に活動中らしい。
結局、ヤードバーズがやろうとしていた音楽の正体は何なのか未だによくわからない。
R&Bなのか、ポップなのか、ロックなのか、ハードロックなのか、はたまたプログレなのか。誰にも探り当てられない。
メンバーの入れ替わりと同様に、マネージメントの入れ替わりも相当程度に激しかったという。だから、音楽的な、というよりバンド運営上の安定性には決定的に乏しかったのかもしれない。
それがこのバンドの致命傷になったとは思える。もう少しマネージメントが安定的に長続きしていれば、とは思うのだ。そこが実に惜しい。
ただ、一つだけ言えるのは、この三大ギタリストが所属していたのに、最終的には瓦解するしかなかったバンドのもたらした音楽的な混沌は、もっと幅広く知られて良いもののはずだ、ということだ。
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