代替医療に関する私的意見
先日、寝る前になんとなく暇でやりたいこともなかったのでツイッターのスペースで面白そうなものがないかと久しぶりに探してみた。
そのなかで「自然医療」という題名のものがあったので特に考えることもなく参加したところなかなか衝撃的な体験だったので医療者として少し考えを投稿することとした。
私は医師であり、かつ疫学研究の専門家なので現代の医学の王道的な考えを持っているし、一部の代替医療を勧める人たちにとってはそれ自体が聞く価値のない間違いだと考えられるだろう。
私自身は成人なるもの何事も自己決定権の元に自分が望むことを選べばいいと思うので、その結果を自分が全て負う条件の元で自由にやればいいと考えている。
ただ、現代医学も代替医療も特に興味も知識もないが突然治療を必要とする病気が判明して途方に暮れている人が確信ないままに代替医療を選んで後で後悔しているケースも時々見てきたので、少しコメントすることにした。
途中から参加したので流れはわからないが、ウイルスも癌も本当は存在しないのにあたかも治療しないと命に関わるかのように洗脳している世界がある
、そういう並行世界にいる医療者たちはいつになったら気がつくのか、などその人が急性虫垂炎とかになったらどうしているのだろうかと疑問を抱きながらもこんな人本当にいるんだろうな、と思いながら聞いていた。
興味深かったのは、その道の権威とされる人が皆の意見に応えると言う構成のスペースであったのだが、非医師の生物系研究者だというその人がこれらにコメントしていることで、医者でも自分の専門外のことは多少知っていても正確性を欠くと重大事につながると考えるため不用意に回答しないようなことを普通に答えていたことだった。
たくみに免責になる文言を枕詞においているために実際に責任を負うことはないのだろうが無責任な人がいるものだなと聞いていたところ、個別相談の人が質問を始めた。
曰く、最近ある悪性疾患が発見され医師からかくかくしかじかのの治療を勧められているが、かなり進行しており通常の手術だけでは成績が芳しくないと考えられ術前に抗がん剤などを勧められているがどうしたらいいだろうか、と言うものであった。
それに対してその権威は、いま元気なら治療は必要ないのではないかと言うびっくりするようなことを勧めていた。
私は外科医で癌の手術もかなり手がけていたのでこのような場合の患者の心境はわからないことはない。
毎日普通に過ごしていた時に突然命に関わる病気があり放っておくと手遅れになると言われると誰でもショックを受け様々な反応が起こるが、そのうちの一つのパターンとして、現状と同じく何もしないでも大丈夫と言って欲しい、という場合がある。
例えば私が専門であった肺がんの中でも悪性度が高いタイプのものは早期であれば手術で摘出してしまうのが一番完治する可能性が高い。その前後に抗がん剤などを行う場合もあるが、薬剤が進歩した昨今であっても手術治療を抜きにして薬だけで完治を目指すのは難しいとされている。
ただ、いきなり全身麻酔をして手術を受けて肺の一部を取られて、、、となると治る可能性が高いと言われてもショックなのは当然で、できれば薬で治りませんか、など聞かれることが多い。
このような場合、過去の同等の治療を比較してどの程度の生存率があるかという情報を提示して手術が根治の可能性が高いとなればそれを勧めるという手順をとる。
もちろん年齢的にリスクが高いとか、本人が治らなくても治療は受けないと決意した場合は無理には勧めないが、誰も自分でその経験がないためそこまで覚悟が決まっている人もほとんどいない。
ここで問題となるのが自己決定の際の判断の根拠である。近年はセカンドオピニオンという制度もあり、他の医師の意見をとりあえず聞くことを勧められたり希望したりするケースは普及していてそれを選択する場合もあるが、一定以上の規模の病院であればそれほど意見は変わらない。
特に近年は昔からの権威の信頼度(政府、病院、警察、学校などなど)が落ちており、それらの見解を否定することによって支持者を集めると言うことがますます増えており、それが大統領や知事と言った政治家や、医療の場合は治療法の選択に影響を及ぼすようになっている。
そのような場合に幸か不幸か代替医療を勧める知り合いに信頼できる人がいると言われて話を聞きに行くというケースは結構あり、私も過去に体調不良になった時には結構高率にこう言う話をされ、熱心に勧められた経験がある。
私としては、明らかに現代医療と異なる選択をしようとしている人に一通り説明しても信じない人には通常治療を勧めることはない。
しかし確信を持てない人が、代替医療を熱心に勧める人の言うことを聞いて通常医療を放棄する場合は流石に気の毒に考えている。
先ほども書いたように、私は基本的には結末を自分で100%引き受ける覚悟があるなら納得いく治療を受ければいいと思っているため、ここでどうしろとはわざわざ書かない。
ただ経験上の話だけを書いておくと、こちらが勧めた治療を行わずに自分が選択した治療を続けた結果結局癌が進行して手遅れとなりもう一度戻ってくる時が何度かあり、その時に話をすると覚悟が決まっていると言って去っていったほとんど全員があの時治療を受けていればよかったと半ばパニックになって言っている姿である。
そのスペースをそれ以上聞いているのが辛くなり退出したがそんなことを考えたりした。