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多様化する起業の成功像ー起業の価値観と類型の再考ー

日本におけるスタートアップの興隆

近年、日本ではスタートアップの興隆が急速に進んでいます。
背景にはGDPの低下、生産性の伸び悩みといったいわゆる国力の低下が背景にあります。

岸田政権では「新しい資本主義」を掲げ、スタートアップへの投資額を2027年度に10倍を超える規模にするという目標に対して①スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築、②スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化、➂オープンイノベーションの推進の3本柱で取組を進められているのは記憶に新しいと思います。

国全体でこのビッグイシューに対処するため、全国の自治体でも企業と協力したスタートアップ・エコシステムの構築に力を入れられています。

教育現場でもアントレプレナーシップ教育が導入されており、若者たちに起業の意義や方法を教えるプログラムも増えているようです。

これらの取り組みは始まったばかりなため、十分な検証がなされておらず賛否もありますが、日本の未来を支える新たな起業家育成のためにも重要な一歩といえるでしょう。

※アントレプレナーシップ=起業家精神であるため、全員に起業することを推奨しているわけではないのでお間違いなく

こうした取り組みも功を奏してか、起業という選択に対する認識も随分変わってきました。
かつては起業する人=酔狂な人、安定や立場を捨てた人といった冷ややかな評価がありましたが、大分変ってきたのではないでしょうか。
学校卒業後の進路というと就職が主要な選択とされていた中で、起業という選択肢自体が市民権を得られてきたことは歓迎すべきことです。

しかしながら、日本独特のビジネス文化とスタートアップが直面する課題の存在も表面化してきました。

先日話題になったスタートアップ・コミュニティ内のハラスメント問題などはその最たる例ではないでしょうか。

被害を受けた方の証言を見るに、近代化の過程で我々が忌避してきた村社会的な排他的文化と構造は変わっていません。

D&Iが求められる昨今、随分と浮世離れしている印象で、日本のスタートアップ界隈に内在化された価値観は悪しき日本を引きずっているようにも見えます。

目的としての起業とリスク

私が所属している訳ではないので若干偏見も入っているかもしませんが、スタートアップ界隈ではIPOやバイアウトなど、急成長から一攫千金を目指す夢追い的な起業が盛り上がっている印象を受けます。
世は圧倒的な売り手市場…もしも駄目だったら就職すれば良い、という考え方もあるかもしれません。

一発逆転をねらう起業は、うまく行けば経済的成功を得られる可能性もありますが、そこにたどり着ける人は一握り。当然リスクを伴うものであり、心身をすり減らし、大事な人との時間や私生活を犠牲にし、成功を追求するあまり本来の起業の目的を見失ってしまうかもしれません。特に厳しい時は事業や顧客と向き合うよりも資金繰りが目的化してしまいます。

当然コミュニティは善人ばかりではなく、夢を追うスタートアップの若者を食い物にする詐欺紛いの集団もいるという話も聞いたことがあります。

先のアントレプレナーシップ教育からの流れと重なり、起業=スタートアップという認識になってしまうのも危うく感じます。

自分はそこまで身を粉にして頑張れないと起業を諦めるのは勿体ないですし、成長拡大を追求しない形での起業もあってもよいのではないでしょうか。

ここで考えたいのは、自分にとっての起業の目的と成功の定義です。

起業の多様化

起業には多様なタイプが存在し、それに応じて所属すべきコミュニティも異なります。

起業の経緯一つとっても、目の前の社会課題に対する使命感や痛みを抱える誰かのために起業する人たちもいれば、経済的成功を目指す人も少なくないでしょう。

急激な成長と市場へのインパクトを求めるユニコーン企業に加え、サステナビリティの観点から近年では経済的成長と社会課題解決を両立するゼブラ企業という概念も注目されています。

個人的には中小企業庁とzebra and companyが出したローカル・ゼブラという概念に注目しています。当社の経営方針としても合致する部分が大きく、この方向性で展開していこうと検討しています。

引用:中小企業庁 地域課題解決事業推進に向けた基本指針(本文)
引用:中小企業庁 地域課題解決事業推進に向けた基本指針(本文)

中小企業庁HP 地域課題解決事業推進に向けた基本指針についてhttps://www.chusho.meti.go.jp/keiei/chiiki_kigyou_kyousei/2024/20240301.html

ここまでの話で感じ取っていただけるかもしれませんが、自分に合わないコミュニティに属することは、起業そのものの考え方も歪めかねません。

価値観のズレに対しフラストレーションを感じる可能性もありますし、不本意な評価を下されたりわコミュニティで除け者にされてしまうかもしれない。

私も過去に正反対のタイプの起業家と話をした際には、まったく話が合わずにびっくりした経験があります。

表に出すかどうかは別として、自分と相反する価値観を持った存在に嫌悪感を抱き、批判したくなる気持ちは誰しも少ならからずあるものです。

自分にあった適切なコミュニティを選ぶことが精神衛生上必要ですし、それが自身の成長や起業の成功にも大きく影響するのではないでしょうか。

起業タイプ分類(案)

仕事柄、独立起業した様々なタイプの方とこれまで出会ってきた経験から、起業のタイプを考える際の4つの観点をまとめてみました。

※議論の余地は大いにありますが、大きくずれていないのではないかと思います

1.動機
内的動機(自己実現、使命感、衝動、ビジョン)⇔ 外的動機(報酬、脅威、巻き込まれ的)
2.起業の目標
質的成果(社会変化、幸福、不の解消) ⇔ 量的成果(売上、会社規模、上場)
3.お金に対する価値観
富の増大(経済的自由の追求) ⇔ 継続の糧(経営継続の手段)
4.時間軸
短期的な成功(例X年までに○○を達成する) ⇔ 長期的な意義(次世代への投資)

以下、順番に見ていきます。これは0か100かではなく、グラデーションのようなイメージで、自分はどちら寄りかで判断してみてください。

1.動機

内的動機タイプはいわゆる内なる思いに駆動して始めることです。
自分が思い描く世界を実現したいといったビジョンや志などに突き動かされたり、うまく言葉にはできないけどとにかく好き・やりたい!という衝動的なもの。あるいは社会に対する怒りや理不尽のような感情が動機になっている方もいます。

外的動機タイプは、インセンティブや外的な脅威に駆動されて始めることです。インセンティブは金銭だけでなく地位や名誉なども含まれます。脅威とはたとば仕事をクビになってしまって致し方なく起業した、あるいは経済的に困窮して現状打破のためにというケースもあるでしょう。自分から始めたのではなく誰かに誘われて、巻き込まれて成り行きでという方もいます。

自己決定理論を提唱した心理学者のエドワード・デシによれば、長期的効果としては内的な動機の方が有効とは言われていますが、どちらがよいかはということはなく、誰しも二つの動機を持ち合わせていると言われています。

2.起業の目標

質的成果タイプは、起業における成果や目標を定性的に捉えていることです。
思い描いた社会の実現、対象者の幸福や不の解消など、自らの掲げる理想の実現に向けて行動しステークホルダーからの評価等で自らの価値を測っています。一見すると甘いようにも思えますが、抽象的なイメージを追い求め続けることは誰にでもできることではありません。

量的成果タイプは、起業における成果や目標を定量的に捉えていることです。
分かりやすい売上利益や社員数、上場をめざすなど。数値的達成によって自らの価値を測っています。競争心があり、競合との争い市場で一番を狙うというのもあるでしょう。上昇志向が強く野心的なタイプの方に多く見受けられます。

3.お金に対する価値観

富の増大タイプは、節税や資産運用に余念がなく、増やすことに関心があります。また、稼いで消費していくこともステータスと考え不動産、高級車や時計などを集めることも自らの欲求としてあるでしょう。お金を稼ぐということをゲーム感覚に捉え、稼ぐ力=仕事ができるという風に考えている方も。稼いで使うことが企業の社会貢献であるという認識を持った方も見受けられます。

継続の糧タイプは、お金に関する個人的な欲求が少なく、まさに法人が生きていくための酸素として合理的に理解できています。稼ぐことは起業において重要なことで、決してそこから逃げているのではなく、第一目的には据えていないということです。役員報酬は減らし次なる事業の予算に回したり、新たな挑戦のための投資に使う場合も。余剰利益や余裕がある場合は寄付や他者に投資をするという選択もあると思います。

4.時間軸

ここでいう時間軸の長短は、自分の人生の範囲で捉えるか、あるいは人類や世代など自らの生を超え100年単位で捉えているかの違いです。

短期的な成功タイプは、自分の人生のなかで達成可能な目標及び状態で起業を考えています。たとばXX年までに○○を達成するといった具体的なものです。何をすべきかという具体的な行動ベースで考えることができるため、短期的に目標を立てて達成するといったPDCAで捉えることが得意といえるでしょう。

 長期的な意義タイプは、次世代や未来への投資など抽象的な意味意義で自らの起業を捉えています。人から見たら利他的に見えますが、当人の価値観と行動が一体化したものであり、自己中心的な選択の結果利他的になっているに過ぎません。ニーズではなく意味があるからやっているのです。欲求階層説で有名なマズローが晩年に提唱した自己超越欲求の段階に近いかもしれません。

自分のタイプと属するコミュニティの価値観、成功の定義にズレが大きい場合、違和感を感じるのは自然なことだと思います。

むしろ異なるタイプとの邂逅が自分のタイプに対する気付きになるので、そうした体験自体は貴重な機会かもしれません。

これから起業をしたい方、起業に興味がある方にお伝えしたいのは、自分にとっての起業の成功は何かを考えておくとよいということです。

他者や社会から承認されることなのか、あるいは自己実現を果たすことなのか、成功は人によって異なります。自分と異なるタイプとはいえ傍目に成功している人を見ると、隣の芝生が青く見え自信を失うこともあるかもしれません。

自分のタイプに合った戦略を取ること、タイプに合ったコミュニティに属することで起業の成功率は格段に高まると思います。

自分にとっての成功の道を見つける

ここまで述べてきたように、起業のタイプには正解というものはなく、様々な志向性を持つ起業家が世に存在しています。

資本主義という仕組み上は経済性を無視することはできませんし、一方それだけを求めていては私たちの社会を持続することも難しくなってきています。

それぞれのタイプが持つよさや強みを生かしながら、自分が選んだ領域や分野で活躍をめざしましょう。どんな起業家でもそこに顧客がいる限り存在意義があると思います。

身近にいる起業した先輩の道が、あなたにとって歩むべき最適の道とは限りません。

これから起業する方も、起業したけどこれでいいのだろうかと迷っている方も、自分に合った道を見つけて歩んでいきましょう。

数多あるnoteのなか、お読みいただきありがとうございました。いただいたご支援を糧に、皆さんの生き方や働き方を見直すヒントになるような記事を書いていきたいと思います。