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【編集後記】感情に寄り添うホスピタルアート

研究発表スライド動画『診察室の美術品サイズが患者の感じ方にどのように影響するか』について、私なりの考察も踏まえて記録していきたいと思います。

編集後記では、「診療室の美術品」≒「ホスピタルアート」としてまとめていきたいと思います。

インターネットで「ホスピタルアート」と検索すると、国内外問わず、複数の医療施設の取り組みや活動をされている団体、アーティストの情報が出てきます。

そもそもホスピタルアートの定義は、いくつか解釈があるようですが、個人的には患者、患者ご家族、院内スタッフの感情に配慮するため、絵画や写真、動画、バイオフィリックデザイン、演出照明・音響など、様々な手法を用いる表現活動と捉えています。あくまで個人的な考えで、今後勉強していく中で解釈が変わるかもしれません。

今回の研究発表スライド動画は、『大きい美術品ほど、すなわち壁面の視覚空間の60%を超える美術品などが、プラスの評価を得ることが確認された』とあります。つまり、サイズが大きい美術品がある方が、待ち時間が短く感じるということのようです。オンライン写真調査ではありますが、非常に興味深い結果でした。
このようなホスピタルアート、すなわち私が思う「ヒトの感情に配慮した表現活動」の作用というと、直接的な治療行為とは異なること、受け手の感じ方が主観的であることなど、具体的な効果が分かりにくい部分が多くあります。しかし、過去には本研究内容と同じように、いくつか評価結果のエビデンスを記された文献も発表されているようです。

特に有名なのは1984年にScience誌に投稿された『View through a window may influence recovery from surgery(外科手術のあとの回復に、窓からみえる景色が影響する可能性がある)』。窓から見える景色が、患者の入院日数や鎮痛薬の使用量に影響があったという内容です。切り口は景色ですが、素晴らしい景色をみて、感情が動くということを考えると、景色も「ヒトの感情に配慮した表現活動」になり、それは様々な効果があるということになります。

私の家族が入院した際も、窓の外に見える東京タワーのライトアップがいつも以上にきれいに見え、なんとも言えない感情になり、涙したということがありました。それだけ視覚的な情報は、感情に影響を与えるのだと思います。

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某大学病院の病室からの景色

また数年前、生前祖母がリハビリ病院に入院していた時のことです。その病院には、いつも機嫌が悪い患者さんがいました。PTさんやOTさん、他のスタッフに対して、時おり罵声を浴びせるほど。(おそらくですが、若年性認知症を発症し、感情のコントロールが難しかったのだと思います)
そのリハビリ病院では定期的に地元の合唱団を読んで、院内ホールで童謡を歌うリハビリのプログラムを行っていました。その時も入院患者さんと共に合唱団の人達が「故郷」を歌う予定だったのですが、皆で歌い始めて少し経った頃、いつも機嫌の悪いその患者さんが、近くのスタッフの手を握り、震えながら涙を流している光景を目にしました。その時、その患者さんがどのような感情だったかは分かりませんが、私にとっては非常に印象に残る出来事でした。

ヒトの五感に働きかける院内環境や取り組みが、受け取り手のストーリーに寄り添えたり、日常との懸け橋になることで医療施設内の経験価値はより向上すると思います。

多かれ少なかれ、患者は、不安や精神的ストレスを抱えて病院に来るのではないでしょうか。特に入院となると、患者が自身に向き合う時間も多くあることで、様々な感情が生まれるのかもしれません。そのような時に、患者や患者ご家族の感情にそっと寄り添う環境や取り組み「ヒトの感情に配慮した表現活動」があるのは非常に重要なことだと思います。
そして、そのような取り組みは、日々患者に向き合っている院内スタッフにもプラスに作用すると考えています。耳原総合病院の室野さんもHCD-HUB記事で下記のようなことおっしゃっています。

最近は病院もどんどん経営の効率化を求められるようになっていて、患者さんとの、そして職員同士のコミュニケーションを、できるだけ短時間で行わざるを得なくなっています。だからこそ、ギュッと凝縮した癒やしやコミュニケーションを実現してくれるホスピタルアートが役立っているのではないでしょうか。
https://www.hcd-hub.jp/magazine/3047「病院を治療だけでなく、「ほぐし、つなげる」場にしたい ── 耳原総合病院のアートディレクター・室野愛子インタビュー -後半」

ホスピタルアートを導入する国内の医療施設は増えているそうですが、欧米の医療施設と比較すると、規模も小さく、成果報告も少ないようです。病院づくりに関わる立場として、患者、患者ご家族、院内スタッフの感情に配慮した環境をどこまで整えられるか、そして経験価値の高い病院づくりができるか、今後いろいろと挑戦してきたいと思います。


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